絶望のスタンピード(2)
魔物の数は、およそ3万。 対して、こちらの数はたったの3人……なかなかのハードモードだ。
「それじゃ、始めるぞ!」
「はいですにゃん!」
「任せて!」
アネモネが矢を放つ。 矢は巨大なサイクロプスの目に正確に命中した。
「ぐぉーー!!」
大混乱が生まれる。 サイクロプスは棍棒をぶんぶん振り回し、周囲のケルベロスたちを薙ぎ倒してゆく……。
そしてケルベロスたちも、次々とサイクロプスの脚に噛み付いてゆく。
「よし! 成功だ!」
「次も行くよ!」
ボス格の魔物が次々と混乱し、あちこちで魔物同士による殺し合いが始まった。
「タケベさん! 上から敵が来ますにゃん!」
「よし! ファイアーストーム!」
「ブリザード!!」
赤と青の範囲魔法が、打ち上げ花火のように青空を彩ってゆく。
「わぁ……綺麗!」
アネモネはこの景色を眺める余裕があるようだが、俺たちはもう必死だ。 範囲魔法を連発しながら、マジックポーションのがぶ飲みを続ける。
「あたしも負けられない!」
一気に3本の矢をつがえ、敵に向かって放つ。 すると見事に3体のサイクロプスに命中した。
「アネモネ、今の技は?」
「さっき覚えたの。スキル名は『モトナリーズ・サン』よ!」
中世ヨーロッパ風世界観なのに、なぜ急に毛利元就の故事が出てくるのか……原作者の山田疾風怒濤を問い詰めたいところだが……生憎そんな余裕はない。
「私も負けませんにゃん! アブソリュート・ゼロ(絶対零度)!!」
地面から次々と凍柱が出現し、何十体もの魔物が一瞬にして砕け散った。
「そ、それは氷系の最上位魔法?」
「ついさっき覚えましたにゃん」
そうか……この極限状態、俺たちのレベルも爆上がりしている。 そして俺自身も、最初の頃と比べると楽に魔法が撃てるようになっていた。
「よし。それじゃ試してみるか……」
俺も覚えたての炎系最上位魔法を唱えてみることにした。
「くらえ! ブレイズ・オブ・アルマゲドン(終末の炎)!!」
地面が割れ、巨大な火柱が吹き上がる。 やがて火柱は火竜に姿を変え、何百匹もの魔物を一瞬で灰にした。
「す、すごいですにゃん!」
「……なんか……魔物が気の毒になってきたわ」
気が付くと、あれだけ大量にいた魔物たちが、もうほとんど残っていなかった。
「こっちはもう大丈夫だ。王都に戻ろう」
そのとき――。 見張りの兵士が大慌てで走ってきた。
「はぁ……はぁ……た、大変です! 南門が突破され……王都に魔物が……!」
◇
南門が突破されたと報告を受け、慌てて王都へと戻る。 ……そこは悪夢のような状況だった。
兵士たちが魔物と戦っている……いや、戦えている兵士はほんのわずかな人数で、ほとんどが地面に倒れていた。
ひどい怪我を負って呻き、中には息を引き取ってしまった兵も多くいた。
その一方で、魔物たちは破壊の限りを尽くしていた。 フェンリルたちは兵士の喉笛に食らいつき、オークたちは店の商品を食い漁り、ゴブリンたちは女たちを追いかけ回していた。
そして空にはワイバーンたちが、その鋭い目で獲物を狙っている。
これは……どう対処するべきだろうか? いや、迷っている暇なんてない。
俺たち3人で、なんとかしなければ!
「範囲魔法は危険だ。兵たちを巻き添えにする危険性がある! ここは各個撃破するしかないな」
「だとしたら、『幻惑の弓』も使わないほうがいいわよね?」
「ああ。いつも通り、短剣で戦ってくれ」
北の平原で効果的だった作戦が、ことごとく使えない状況だ。 これは……まずいぞ。
「それじゃ、行くわよぉ!」
俺の不安を察したのか、アネモネがいつもより元気な声を上げる。 そして、まるで空中を駆けるような動きで次々と魔物を葬り去っていった。
「私も負けませんにゃん! アイスアロー!」
ミネアの指先から同時に6本の氷の矢が放たれ、バラバラに飛んで正確に6体の魔物を射止めた。
「二人とも、すごいぞ!」
俺もファイアーボールで応戦する。 しかし、倒しても倒しても……魔物は次々と押し寄せてくる。
「ぎゃーー!」
俺のすぐ目の前で若い兵士が倒れた。 胸からは魔物の腕が突き出している。
「くそっ!」
急いで駆けつけ、魔物の首を切り落とすが……手遅れだった。 若い兵士は、そのまま息絶えてしまった。
「……魔物の数が……多すぎる……」
ゲームを遊んでいるとき、モブ兵士の死に心を動かされることはなかった。 でもこれはリアルだ。
今戦って……死んでゆく兵士の一人一人にも家族がいる。 愛し、愛される人たちがいるのだ。
そんな大切な命が、一瞬で奪われてしまう……いまこの瞬間にも、次々と奪われ続けてゆく……。 その現実に対して、俺たちはあまりにも無力だ。
こんなとき……ウィル王子はどう戦ったんだろう? 俺は必死になって、ゲームの知識を辿った。




