絶望のスタンピード(1)
何としてでも王都を守らなければ!
こうしている間にも、魔物はどんどん押し寄せてくる。
「ミネア! 魔法で空飛ぶ敵を倒せ!」
「はいですにゃん! アイスアロー!」
氷の矢を放ち、ワイバーンを次々と打ち抜いてゆく。 よし、ここから先は時間との闘いだ。
「アネモネ、見張り塔に行ってガリア兵士長に伝えてくれ。俺たちは北門を守るから、南門を固めてくれと!」
「わかったわ!」
頷いてすぐ、風のような速さで走り去ってゆく。 あとは……みんなの誘導か……。
「それと、トルネさん。少しでも反省の気持ちがあるなら協力してくれ」
「わかりました。私は何をすれば?」
「街の人たちを王宮に避難させるんだ。仲間を集めて、組織的に頼む」
「お任せください!」
トルネも広場の方に走っていった。 うまくやってくれるといいんだが……。
◇
「タケベさん、すごいですにゃん。指示が的確で、迷いがありませんにゃん」
「いや……俺がすごいんじゃない。勇者ウィルならこうしたはず……そう思って行動しているだけだ」
図らずも「某・ご長寿エルフ漫画」のような台詞を言ってしまったが……これらの指示は全て、ゲームの中でウィル王子のとった行動をトレースしているだけだ。
実際の俺は、見張り塔にいるガリア兵長とは面識が無いし、王宮を避難場所にするなんて思いつきもしなかっただろう。
全部デバッグで得た知識……すごいのは俺じゃなくて、ウィル王子だ。
「魔物を引きつけながら北門に行くぞ。急げ!」
「はいですにゃん!」
『狩人の笛』を吹いて魔物を引きつけ、戦いながら北門を目指す。
「くらえ! ファイアーボール!」
「アイスアロー!」
ワイバーンたちが次々と撃ち落とされてゆく……。 今のところ、空を飛ぶ魔物しか現れていない。
つまり、まだ門は破られていないということだ。
◇
北門に着くと、弓兵たちがワイバーンたちに苦戦していた。
「くそっ! こいつら……いったいどこから?」
「どんどん沸いてくる! キリがないぞ!」
「ぐぁっ!」
「おい! しっかりしろ!!」
俺のすぐ目の前に、ワイバーンの死骸が2体ほど見える。 しかし、兵士たちの遺体は……すでにその10倍の数だ。
「助太刀する! ファイアーストーム!」
炎系の範囲魔法を、ぶっつけ本番で使ってみた。
「ぐげぎゃーーー!!」
予想以上の効果を発揮し、ワイバーン数体を一気に殲滅することができた。
「す、すげぇ……」
「怪我人の手当ては、任せてくださいにゃん!」
「あの……あなたがたは……?」
「タケベとミネア。勇者ウィルのパーティメンバーです!」
「おお!!」
勇者ウィルのパーティメンバー。 自然と口から出た言葉だったが、それだけで兵たちの信頼を得ることができた。
そして何より……俺自身が勇気づけられた。
そう。俺たちは、勇者ウィルの仲間なんだ。 あいつがいない今、俺たちが王都を守り抜く!
「もうすぐ地上からも魔物が押し寄せる! みんなでこの北門を死守しよう!」
「わかった! 魔物なんざ一匹たりとも通さねぇ!」
「その意気ですにゃん!」
確かに士気は上がったようだが、兵たちはあまりにも疲弊している。 これ以上無理をさせるのは厳しい感じだ。
俺とミネアは通用口から門の外に出た。 目の前に、広大な草原が広がっている。
そして……地平線のあたりに土煙が上がっているのが見える。
「あれ……全部、魔物なんですかにゃん?」
「ああ。そうみたいだな……」
「ほんとに……倒せますかにゃん? 私たち二人で……」
「いいえ。三人よ」
振り返ると、そこにアネモネが立っていた。
「アネモネさん!」
「待ってたぞ」
「ガリア兵士長に会ってきたわ。南門は百人の兵士で守りを固めるって」
「となると……手薄なのは、こっちの方か……」
「何か作戦はあるの?」
「まぁ、一応はな……」
ゲームの中では、ウィル王子が『ブレイブソード』で敵を一掃していた。 振ると斬撃が放たれるため、広範囲の魔物を一気に倒すことができるのだ。
しかし、その剣は爆破事件によって、ウィル王子の命と共に失われてしまった。
「俺とミネアの範囲魔法で少しでも数を減らす。魔力が切れそうになったら、回復薬を使ってくれ」
俺はアイテムボックスから、大量のマジックポーションを出した。
「こんなにたくさん……いつの間に用意したんですかにゃん?」
「ごめん。守秘義務があるから言えないんだ」
実はこれは、デバッグコマンド【ADD_ITEM】で用意したものだ。 消費アイテムに限り、一気に256個増やすことができるという便利な機能だ。
あまりにもチート過ぎるため、リアルでは使いたくなかったのだが、非常事態なので仕方ない。
「ヒールポーションも256個あるから、ここに置いておくぞ」
「ありがとう。でもなんでそんな中途半端な数なの?」
「え? キリが良い数字だと思うけど?」
「何を言ってるかわかりませんにゃん」
ゲームに慣れていると、つい64とか、128とか、256とかをキリの良い数字
として捉えがちだけど、現実世界ではそうでもないらしい。
……などと話している間に、魔物の群れはだいぶ近くまで迫ってきていた。
「アネモネは確か、弓も得意だったよな?」
「たしかに使えるけど……そんな話、したことあったっけ?」
「ああ。飲んでるときに聞いたから、忘れてるのかもな」
実はこれもデバッグで得た知識なのだが、とりあえずごまかすことにした。
「この弓矢は、当たると一定確率で敵を混乱させることができる」
「何でそんな物持ってるのって聞きたいけど……どうせ教えてくれないのよね?」
「ああ。守秘義務違反になるからな」
「便利な言葉ですにゃん」
「……まぁとにかく、その弓を使って、敵を同士討ちさせればいいのね?」
「なるべく強いヤツを頼む」
魔物の数は、およそ3万。 対して、こちらの数はたったの3人……なかなかのハードモードだ。




