死の真相(2)
そのとき――。 アネモネが何かに気付いて泣き出した。
「それじゃ……あの商人さんが王都まで運んでいたのは、この煌炎石ってこと? だとしたら……女神像が爆発したのもそのせい? それって、あたしがもしあのとき……魔物に襲われている商人さんを助けなければ……ウィル王子の命は……奪われなかったってこと?」
それを認めてしまうのは、アネモネにとって辛いことだろう。 しかし……その可能性は大いにある。
実際、ゲーム世界のハートランドでは、この爆発事件そのものが発生しなかった。
それはつまり、商人トルネが魔物に襲われ、王都に煌炎石が届けられなかったから、爆発事件が未然に防がれていたのだと考えることもできる。
商人を魔物から助けるのか? それとも見捨てるのか? ……あのときの選択が、未来を変えてしまうなんて……。
いや、ここで悔やんでも仕方ないし、意味がない。 俺は泣き崩れるアネモネを抱きしめた。
「アネモネ、聞いてくれ。俺たちはあのとき、人助けをしたんだ。そのことを今、悔やんでも仕方ない」
「ぐすっ……でも……」
「たとえそれがあの事件に繋がる要因になったのだとしても……あのとき、あの人を助けたという判断自体は、決して間違ってはいなかった。俺は今でもそう信じている」
「う、うん……」
「過去のことをあれこれ思い悩むより、これから先の対策を考えよう。過去は変えられない。でも今頑張れば、未来は必ず! 良い方向に変えられるはずだ!」
――そう。今の最悪な状況を、ちょっとでもマシにするために……俺たちは前に進まなければならない。
◇
王都に戻ってすぐ、俺たちは商人トルネを探した。
ヤツが誰に煌炎石を売ったのか? それが判明すれば、事件の黒幕を突き止めることができる。
「でも、居場所に心当たりはあるの?」
「とりあえず、前に会った場所に行ってみよう」
中央広場から、さらに奥に進んだ路地裏……以前、商人トルネとばったり出くわした場所だ。
「そんな簡単に会えるわけないですにゃん」
「そうよね。こんな人通りの少ない場所で……って……え?」
「いた!」
商人トルネが、見覚えのある二人組に食って掛かっていた。
「アランさん、クレインさん! 教えてください! 私が運んだ煌炎石は……どのように使われたのですか?」
「けっ、それを知ってどうする?」
「大聖堂の爆破事件で、ウィリアム王子が亡くなりました。女神像には大量の煌炎石が仕掛けられていたと聞きます。私が運んで……あなたたちに売った煌炎石は……まさか……?」
トルネが真剣な表情で問い詰めているにも関わらず、二人組はニヤニヤと笑っている。
「知らない方がいいってこともあるぜ?」
「あんた、武器も扱ってるんだろ? その武器で人が殺されるたびに、そうやって大騒ぎしてるのか?」
「これはただの事件ではない! 一国の王子が……この国の未来を担う勇者が殺されたんだ! あんたらが関与してるというなら、私だって黙ってはいない!」
二人組のニヤニヤ笑いが、すぅっと引いた。
「黙っていないだとよ……どうする?」
「だったらその口、塞ぐしかねぇな……」
◇
物陰でずっと様子を窺っていたが、さすがにヤバそうな雰囲気になってきた。 そろそろ動いたほうが良さそうだ。
「そのへんにしておけ」
「お、お前は……あのときの……!」
「ウィル王子は、俺たちの仲間だった。彼の死に……お前たちが関与しているのなら……許すわけにはいかない!」
「くそっ……全部聞かれちまってるのか……」
俺はこみ上げてくる怒りを必死に抑えた。 おそらく、こいつらはただの使い走りだ。黒幕は他にいる。
だから、殺さない程度に痛めつけて……あの事件の真相を聞き出してやる!
「……こりゃ分が悪いな……」
「ああ、多勢に無勢だ」
前回、俺にこっぴどくやられたことで、二人組は最初から戦意を喪失している。 だとしたら……。
「ミネア! 魔法でこいつらを足止めしろ!」
「はいですにゃん! ……ブリザード!!」
「ぐぁっ! 足が……っ!」
ミネアが氷の範囲魔法を唱えると、二人組の足が凍り付いた。 これでスキル『とんずら』は使えないはずだ。
「さぁ……詳しい話を聞かせてくれ」
「くそったれが!」
「お前たちは何の目的で、煌炎石を買い取ったんだ?」
「……くっ!」
「仲間はいるのか?」
「い、言えるかよ!」
「なるほど。『いない』ではなく、『言えない』と答えたか……」
「……しまった!」
「では、その仲間の名前を教えて貰おうか?」
あまり拷問のようなことはしたくないのだが……仕方ない。 こいつらは、ウィル王子の仇だ。
俺は手にしたナイフに力を込めた。
「ひ、ひぃっ!」
アランの顔が恐怖に歪む。 そのとき――。
「ぐほっ!!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。 俺の目の前で、アランの顔が半分吹き飛んだのだ。
◇
「ヒデオ! 気を付けて!」
アネモネが空を指さす。 その先には、巨大なワイバーンが飛翔していた。
「ま、まさか……!」
こんなふうに、王都のど真ん中に魔物が現れることなんて滅多にない。
街自体、魔物が少ない場所に造られているし、現れたとしても高い外壁に阻まれて入れない。 ワイバーンのような空飛ぶ魔物も、見つけ次第、見張り所の弓兵が撃ち落としている。
……にも関わらず、襲ってきたということは……。
「あそこにも……向こうにもいますにゃん!」
そう。兵士たちが撃ち漏らすほどの魔物が襲ってきているということだ。
「ぐげぎゃーーー!!」
突然の叫び声に振り向くと、クレインの胴体が真っ二つになっていた。 そのすぐ側には、さっきとは別のワイバーンがこちらを睨んでいる。
「どんどん……増えてますにゃん」
「いったいどういうこと?」
「……スタンピードだ!」
予想していなかったタイミングで、王都でスタンピードが起こってしまったのだった。




