勇者誕生の日(2)
「勇者ウィル万歳!!」
「勇者ウィル万歳!!!」
「勇者ウィル万歳!!!!」
自然発生的に生まれた声は、やがて大きなうねりとなって大聖堂全体に響き渡った。 誰もが若き勇者を称え、その誕生に歓喜の声を上げている。
しかし……俺だけは一人、緊張していた。
実はゲーム世界では、このあと血まみれの伝令兵が現れ「王都に魔物の大群が迫っている」と声を振り絞って叫び、息絶えるのだ。
リアルでも同じことが起こる可能性が高い……。
しかし俺の心配をよそに、大聖堂の扉は閉じたまま、誰も入ってくる気配がなかった。
……良かった。
ひょっとしたらシュミット爺を倒したことで、未来が良い方向に変わったのかもしれない。 これでもう安心だ。王都でスタンピードは起きない。
あとは、勇者となったウィル王子を支えて、仲間を増やし、魔王デオメットを倒すための準備を……あれ?
今一瞬、女神像の目が怪しく光ったように見えた。
……気のせいかな?
目の前には、大声援に応えて手を振るウィル王子……いや、勇者ウィルの姿がある。
うん。やっぱり気のせいだ。 嫌なことなんて、何も起こるわけがない。
◇
しかしその直後――。 女神像全体から妖しい光が放たれ……すぐさま激しい衝撃!
どーーん!!! ゴゴゴゴゴゴッ!!!
巨大な女神像の胸部のあたりから爆発が起こり、やがて首の付近から音を立てて崩れ始めた。
「危ない!!」
「伏せろ!!!」
「きゃーーーー!!!!」
破壊された女神像が、石塊となって次々と崩れ落ちてくる。 土煙が上がり、あたりには悲鳴と呻き声が響き渡った。
幸いなことに、石塊は俺たちのいる場所までは届くことはなかった。
しかし、その前方……貴族たちのいた席は、瓦礫に埋まっている。 そして何よりも心配なのは……。
「王子! ウィル王子!!!」
ウィル王子は、女神像から一番近い場所にいた。
まさか……世界を救う勇者に、万が一のことが起きたら……。
考えるよりも速く体が動き、俺は女神像のあった場所へと駆けた。
「ウィル王子、どこにいるんだ!?」
必死になって探すが、それらしき姿は見えない。
「ウィル! 返事をして!!」
エリザの悲痛な声が響く。
急げ! 手遅れになる前に見つけ出し、怪我の治療をしなければ……。 幸い、ここには聖女エリザがいる。
彼女の回復魔法なら、例え重傷を受けていても治る可能性は高い!
「見つけた!! ウィル王子!!!」
奥の壁沿いに、俺は見慣れた顔を見つけた。 良かった! 額から血を流しているが、怪我自体は軽そうだ。
「エリザ! 来てくれ!!」
「はい!!」
二人で王子の元に駆け寄る。
「王子、待ってろよ! 今……助……け……」
◇
直後、俺たちは気付いてしまった。
そこに転がっているのは……ウィル王子の頭部だけで……首から下は、ぐじゃぐじゃになって……瓦礫の下に埋まっていることに……。
「まさか……嘘だろ? こんな……」
「ウィル……ウィル!! 嫌ぁーーっ!!」
エリザ……エリザベス=ウィッシュハートは、このハートランド王国でも有数の回復魔法の使い手だ。
しかし、その彼女の力をもってしても……死者を蘇らせることは不可能だった。
「傷を……癒やしたまえ……ヒール! ううっ……ヒール! 戻って来て……ウィル!!」
もはや原形をとどめていない体に向かって、エリザは回復魔法を唱え続けた。 地面に這いつくばり……まるで祈るように……。
やがてエリザの純白のドレスが、ウィルの血で真っ赤に染まり始める。
「ウィル!! 死なないでっ!!! うわぁーーーっ!!!!」
「エリザ……」
気配を感じて振り向くと、アネモネとミネアが呆然とした表情で立ち尽くしていた。
「ぐすっ……ウィル王子……」
「こんなの……何かの間違いですにゃん」
……そうだ。こんな未来、間違っている。
ゲーム世界では、主人公であるウィル王子が死ぬことなんてなかった。 この儀式で勇者になって……勇者ウィルの物語は、ここから始まるはずだったのに……。
女神像が爆発するなんて……ありえない。
「くそっ! どうしてこんなことに……!!」
この日、勇者ウィリアム=ブレイブハートは、23歳というあまりにも短い生涯を閉じた。




