王都、そして勇者の儀(4)
商人トルネは、何を仕入れ、王都へと運んだのだろうか? その謎を解き明かすべく、俺たちはタルカスの村へと向かった。
商人トルネのリュックは、ちょっとした小山のように膨らんでいた。 あの中にいったい何が入っていたのか?
「ひょっとして……魔香炉なんじゃない?」
「確かに、それだとあの日、魔物に襲われていたのも理解できるな」
「まだあるのか、探してみますにゃん」
それから小一時間、俺たちはミネア嬢の鼻を頼りに(?)魔香炉を探し続けた。 しかし、使用後の破片がいくつか見つかっただけだった。
「まぁ、ここで実際にスタンピードが起きているわけだから、未使用の魔香炉がそんなゴロゴロ見つかるわけもないか……」
ただ、そうなると商人トルネが背負っていた積荷の多さが気になってくる。
「アネモネ、この村はもともと、何で栄えていたんだ?」
「村の奥に鉱山があって、それで人が集まっていたの。でも事故で閉鎖されて、それからはみんな農業で生計を立てていたわ」
なるほど。海や川に面しているわけでもなく、崖道の奥にある不便な村が栄えたのは、鉱山のおかげなのか……。
「じゃあ、その鉱山を調べよう」
「でも、灯りになる物準備してないけど?」
「あ、私、光の魔法を使えますにゃん!」
な、なんて便利な猫なんだ。 まるで22世紀の猫型ロボット並みではないか!
廃坑に着いてすぐ、俺はミネア嬢にお願いをしてみた。
「なぁ、ミネア。ちょっとダミ声で『ぴっかりライトぉ!』って言ってくれない?」
「そ、それにどんな意味があるのですかにゃん?」
「いや、ただの思いつきなんだけど……」
「よくわからないけど、了解ですにゃん。『ぴっかりライトぉ!』」
「それじゃ水○わさび版だ。もっと、大○のぶ代っぽく……」
「ど、どういう意味ですかにゃん?」
「意味なんて無い。ただ聞きたいんだ」
「ほんと、ヒデオって猫使いが荒いよね……」
――と、そんなやりとりの後、ようやくミネア嬢がライトの魔法を使ってくれた。 廃坑の内部が、ぼうっとした光に包まれる。
「ミネア、この灯りどのくらい長時間、使用できるんだ?」
「MPの消費は少ないから、半日ぐらいは余裕で使えますにゃん」
何とも頼もしい答えが返ってきた。
うん。この猫を連れてきてよかった。 俺は嬉しくなって、ミネアの頭を撫でた。
「偉いぞ。ミネア」
「うにゃーん。ごろごろ」
「こら! そこ、イチャイチャしない!」
アネモネが急に不機嫌になって、ずんずんと先を進んでゆく……。
いや、別にイチャイチャしていたつもりはなくて、飼い猫を撫でるような感覚だったんだけど……まぁ、これからは気を付けよう。
「あら? おかしいわね。坑内は魔物が出るはずなんだけど……」
しばらくすると、アネモネが急に立ち止まり不思議そうに呟いた。 もちろんこれは俺のデバッグコマンド【ENTRY_OFF】のおかげだ。
「あ、ひょっとして……これが噂のラッキータケベ効果?」
「え? それ、何ですかにゃん?」
「あのね、ヒデオと一緒に行動していると、敵と出会わなくなったり、エッチなハプニングが起こったり、そういうラッキーな出来事がたくさん起こるの」
「す、すごいですにゃん!」
……な、なんか色々混ざってきているが、めんどくさいので特に否定も肯定もしなかった。
◇
さらに鉱山を進むと、大きな立て看板があった。 見慣れない文字の羅列が続いているが、なぜか見ただけで意味が理解できる。
『この先、火気厳禁!!』
「……そういえばこの鉱山って、昔事故があって廃坑になったって話だったな?」
「うん、そう聞いてるわ」
「坑内にガスが溜まっていて、それが引火して事故になったとか?」
「うーん、あたしも子供の頃に聞いただけだから、詳しいことは覚えてないの」
「まぁいい。先に進んでみよう」
ミネアの魔法のおかげで、松明などを使わずにすんだことが幸いした。 やっぱり便利な猫だ。俺はもう一度、ミネアの頭をなでた。
「く、くすぐったいですにゃん」
看板の立っている場所から5分ぐらい歩くと、そこは瓦礫によって塞がれていた。
「ここがその事故現場か……」
「爆発でこの先の道が塞がれてる感じですにゃん」
「ああ。どうやら、ここで行き止まりのようだな」
「収穫、なしですにゃん」
「ねぇヒデオ、例のスキルでびゅぃーんって家まで戻れない?」
「できるけど、戻ってどうするんだ?」
「明日、『賜剣の儀』でしょ? ちゃんとした服を買いたいの」
「その前に、汗も拭きたいですにゃん」
「そうだな。ここにいても仕方ないし……戻るか」
式に着る服のことなんて、全然頭になかった。 やっぱりこういうところは、女の子だな……。
そう思いながら、俺はデバッグコマンド【FAST_TRAVEL】で家に戻った。
ちなみに、今回は特にエッチなハプニングは起こらなかった。(当たり前の話だが……)




