王都、そして勇者の儀(2)
三日後、教会の大聖堂で『賜剣の儀』が執り行われることとなった。
これは、国王からウィル王子に家宝である『ブレイブソード』が授けられるという儀式で、この儀式によってウィル王子は正式に勇者となるのだ。
ウィル王子とエリザは、その準備に忙しくなるため、俺はしばらくの間アネモネと二人で行動することになった。
「まず最初にするべきなのは、アネモネが貯めた魔石の換金だな」
「でも今、冒険者ギルドは閉鎖されてるんじゃない?」
「いや、換金だけは、ミネア嬢が窓口を開いてくれてるらしい」
「わぁ、それすっごく助かるね」
◇
早速、冒険者ギルドへと向かう。 建物の中は、がらんとしていた。
「あ、タケベさんにアネモネさん、いらっしゃいませにゃん!」
「こんにちは〜」
「ミネアは元気そうだな」
「お客さん、全然来なくて退屈でしたにゃん」
「じゃあ、これを換金してくれ」
俺はアイテムボックスから、大量の魔石を取り出し、受付の机に積み上げてゆく。
「ええええ!? こんなにたくさんの魔石、初めて見ましたにゃん」
「アネモネが何年もかけて集めたんだ」
「すごいですにゃん! でも……こんなにあったら、金庫のお金が無くなっちゃいますにゃん」
「じゃあ、限度額ギリギリで」
「ふぇ〜! タケべさん、猫使いが荒いですにゃん!」
持っていた魔石の2割ぐらいを換金し、アネモネは結構な大金を手に入れた。
しかし、金庫が空になってしまったことで、ギルド閉鎖中に唯一行われていた換金サービスも、あっという間に中止となってしまった。
「お仕事、無くなっちゃいましたにゃん」
「じゃあ、このお金使って、みんなでぱーっと豪遊しようよ!」
「いや、それはさすがに……」
「いいのいいの。ほら、ミネアも行こう、あたし案内するわ」
「にゃにゃ、尻尾を引っ張らないでくださいにゃん!」
◇
アネモネが案内してくれたのは、フルーツバイキングのお店だった。
入り口でお金を払った後は、テーブルに山積みされた果物が食べ放題! ……夢のようなお店だ。
「す、すごいですにゃん!」
「うわー! 美味しそう! あたし、一度ここに来てみたかったんだー」
色とりどりのフルーツ。 しかし、日本のスーパーに並んでいる果物とは、ちょっと違う感じだ。
オレンジに似た赤い果実や、リンゴに似た白い果実、トゲ付きのバナナに、やたら縦に長いイチゴ……。 確かに美味しそうではあるけど、味が想像できない。
「「いっただきまーす!」」
うん。女の子が美味しそうにフルーツを食べる姿って、すごく絵になる。 俺も長ヒョロいイチゴを手に取り、一口齧ってみた。
……こ、これはちょっと酸っぱいのではないか?
甘味は確かにあるのだが、それ以上に酸味が強すぎて耳の下辺りが「キュッ」と痛くなる。 不味くはない。よく言えば爽やかな味だ。でも悪く言えば……梅干しにお酢をかけたくらいすっぱい。
次にトゲ付きのバナナを食べてみる。 怪我をしないように慎重に皮を剥いて、口に運ぶが……これは妙にぼやけた味がする。
バナナと言うより、蒸したサトイモ寄りの何かだ。あるいは、臭いの無いドリアン?
「ヒデオさん、それすっごく美味しいですよね? 私、大好きですにゃん!」
「う、うん。うまいよ」
猫耳幼女に同意を求められ、肯定せざるを得なかったが……正直、全部微妙な味だ。
おそらく、この世界の果物には品種改良という概念がないのだと思う。 全部、原種って味がする。 ……まぁ、別に植物について詳しいわけではないので、あくまでイメージだけど。
「店主、厨房を貸してくれないか?」
気がつくと俺は立ち上がり、思わずグルメ漫画の主人公のようなセリフを口にしていた。
「い、いいですけど……何を?」
「まぁ、見ててくれ」
皮を剥いたフルーツを一口大に切り、鍋に水と赤ワインを入れ砂糖を投入。 砂糖が溶けたらフルーツを入れて10分ほど煮る。
「ゴクリ、いい匂いがしてきましたにゃん」
「すごい。ヒデオって料理もできるんだね」
「まぁ、一人暮らしが長かったからね。さぁ、できた! ほんとは冷やしたほうが美味しいのだけど、氷なんてないよね?」
しかしここで、ミネア嬢が意外なことを言い出した。
「あ! 私、氷魔法が使えますにゃん!」
「じゃあこの鍋を軽く冷やしてくれ」
「わかりましたにゃん!」
こうして、冷え冷えの『フルーツコンポート』が完成した。
「うわっ! 何これ、冷たくて甘くて……最高!」
「私、こんな美味しいもの初めて食べましたにゃん!」
酸っぱすぎた果物や、ぼんやりとした味の果物が……なんと言うことでしょう! 一緒にシロップで煮ることで、それぞれの欠点を補い合った最高のデザートとなったのです!
……俺の脳内で、某サザエさん声優の声が鳴り響いている。
「うまい! うますぎる!」
「うん、十万石まんじゅうを超えてるよ」
……いや、だからなぜそれが通じるんだ?
俺たちが大騒ぎしながら食べていると、他のお客さんたちも興味深そうに集まってきた。
「よかったら皆さんでどうぞ」
「ヒデオさん特製の新デザートですにゃん!」
「いや、果物を煮て、冷やした食い物なんて……」
「うん。そんなもの美味いわけが……わけ……が……あれ? う、美味いぞーーーー!!!!」
最初は恐る恐る口に運んでいたお客さんたちが、いつの間にか争うようにがっつき始め、俺たちの作ったフルーツコンポートは、あっという間になくなってしまった。
「もっと食わせてくれ」
「いや、でもお店の人に許可をもらわないと……」
「許可します! いえ、お願いします!! 店にあるありったけの果物を、煮て煮て煮まくってください!!!」
それからはまるで、戦場のような大忙しだった。 みんなで果物の皮を剥き、大鍋で煮込み、ミネア嬢が氷魔法で冷やす。
「ふにゃぁ……もう、魔力が尽きましたにゃん」
「安心しろ。マジックポーションがある」
「ふぇぇ……ヒデオさんやっぱり、猫使いが荒いですにゃん!」
俺たちのフルーツコンポート作りは、深夜まで続いた。
◇
夕方ぐらいから持ち帰りのカウンターを設置したのだが、口コミの評判があっという間に広まり、いつの間にか長蛇の列ができていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 冷たくて甘い新デザート! ヒデオスペシャル絶賛販売中ですよー!」
売り子をしていたアネモネが、勝手に『ヒデオスペシャル』なんていうプロレス技のような名前を付けたせいで、王都ではすっかりこの名前が定着してしまった。
それからしばらくして――このデザート『ヒデオスペシャル』は店の名物となり、店主は巨万の富を得たという。
店には今でも俺をモデルにした等身大の人形が『ケンタッキーの白い人』みたいに立っている。




