王都、そして勇者の儀(1)
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――平和な朝だ。
アネモネの無実の罪は晴らされ、シュミット爺の悪事も暴かれた。 彼が使おうとした魔香炉が、犯罪の動かぬ証拠となったようだ。
ギルドマスターの不祥事が発覚したことで、冒険者ギルドもしばらくの間は閉鎖されるとのことだ。
ただ問題も多く残っている。 一番の気掛かりは、彼の協力者についてだ。
魔香炉を作り、タルカスの村を襲うなどという大掛かりなこと、とても彼一人で実行できたとは思えない。
そして……これはまだ誰にも話していないが、これから起こる王都でのスタンピードについても対応を考えなければならない。
俺が何度もデバッグした『セイクリッド・ハートランド』の世界では、次のような流れでシナリオが進む。
・ウィル王子が、国王から『始まりの森探索』を命じられる(冒険の始まり)
・冒険者ギルドのマスターであるシュミットから、お尋ね者アネモネ(中ボス)の討伐を依頼される
・アネモネ討伐の功績が認められ、ウィル王子は国王から『勇者』の称号を与えられる
・教会で勇者の証である『ブレイブソード』を受け取る儀式
・その直後、「大量の魔物が王都を襲撃」という報告を受ける(スタンピード)
・勇者となったウィルが、エリザと共に魔物を一掃
・平和になった王都を後に、新たなる地へと旅立つ勇者ウィルとエリザ
ゲームをプレイしている時は、シュミット爺が悪人だなんて思ってもいなかった。 しかも彼は、この後に起こる王都でのスタンピードにも何らかの関係があるらしい。
まぁ、スタンピード自体は勇者になったウィル王子たちが解決してくれるわけで、今回もそんなに心配する必要はないのかもしれない。
だが、俺の存在も含めて、いろいろとイレギュラーな要素が多いから用心するに越したことはないな……。
エリザが作ってくれた朝食を食べながら、俺たちは今後の作戦会議をすることとした。
「シュミット爺が単独犯だとは考えにくい」
「同感だ。じゃあその仲間……あるいは組織は、次にどう動く?」
「王都で……スタンピードを起こす」
一同の表情に緊張が走る。
特に、スタンピードで家族を失ったアネモネは、俯いたまま唇を噛んだ。
「みんなも知っての通り、ヒデオは不思議なスキルを持っている。そのスキルで……未来が見えたんだな?」
「まぁ、そんなところだ」
「私、信じます。何としてでも、阻止しなければ!」
「そうよ。あんな悲劇……二度と起こしちゃいけないわ!」
ゲーム世界では中ボスとして倒されてしまったアネモネが、リアル世界では仲間として協力してくれる……これはだいぶ有利な状況だ。
「ねぇ、町中を調べて、魔香炉を見つけ出すのはどう?」
「そうだな。ただ、シュミット爺が魔香炉を使おうとしたって話が結構広まっている。そうなると、向こうも慎重になるから、簡単には見つけられないだろうな……」
俺たちが話している間、ウィル王子はちょっと気まずそうな表情をしていた。
「ん? どうしたんだ? ウィル王子」
「実は、昨日の夜……父から連絡があってな。どうやら私は……勇者に任命されるらしいんだ」
「すごいじゃない! おめでとう!」
「ウィルの長年の夢が叶いましたね」
「あ、ありがとう。もちろん嬉しいし、ブレイブハート家の人間として、その心構えもできていたつもりだ。ただ……功績を認められたのが、今回の一件ってことだけが引っかかっている……」
「ん? 何を気にしてるんだ?」
「シュミットの悪事を暴いたのは、ほとんどヒデオの働きだろ? 私はただ、奴に操られていただけで……」
「いや、そんな細かいこと気にするなって。今回の件は、俺たち全員の功績だ。誰か一人でも欠けていたら、失敗していたと思うぞ。実際、ウィル王子がいなかったら、奴は魔香炉を発動させていただろうし……」
「しかし……」
「王子、貰えるものは貰っておこうよ」
「いや、勇者の称号はヒデオにこそ相応しいのではないか?」
「でも勇者は代々、ブレイブハート家から選ばれてるんだろ? 俺みたいな素性のわからない奴より、ウィル王子がなるべきだって……それに、これから起こるスタンピードを収束させるためには、勇者になったウィルの力が必要なんだ」
「ヒデオ……」
「自信を持ってください、ウィル。国王様があなたを推挙されたのは、今回の件だけでなくあなたの長年の功績が認められたためですよ」
「エリザ……」
しばらく考え込んでいたウィル王子だったが、みんなに背中を押され、ようやく決意を固めたようだ。
「わかった。私は勇者になる。ただ、みんなも知っての通り……私はまだまだ未熟者だ。だから頼む、これからも私を支えてくれ」
ウィル王子はそう言って、深く頭を下げた。
「じゃあ、みんなで乾杯しよう! ウィル王子……いや、勇者ウィルに!」
「「「乾杯!!!」」」
脇道に逸れていたシナリオが、ここでようやく本線に繋がったようだ。 勇者ウィルと共に、俺たちは王都で起こるスタンピードを収束させる。
ここから先は、デバッグで得た知識を活かせばいいだけ。楽勝だ。
……しかし、それが大きな間違いだと気付いたのは、そのすぐ後のことだった。




