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デバッグアルバイトのおっさん、転生して勇者となる。(デバゆう)~デバッグ知識で、異世界の壊れた運命を書き換える~  作者: うずまき鳥


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リアラの魔道鏡(7)

 ナイフを持ったアネモネが、ゆっくりと俺に近づいてくる。 これがシュミット爺のスキルか……まずいぞ……どう対処したらいいんだ?


 戦う? ……アネモネの戦闘力は高い。 まともにやり合っても互角……いや、同じように操られているウィル王子が加勢する可能性が高い。そうなると、勝算はほぼゼロだ。


 デバッグコマンド? ……これはイベント扱いだから【WIN_BATTLE】で強制勝利というわけにはいかない。 【FAST_TRAVEL】で逃げる? それもイベント中には使えなかったはずだ。


 その時――。 俺の脳裏に、肉塊となった二階堂主任の姿が浮かんだ。

 そう、これはゲームじゃない。リアルの世界なのだ。 ここで死ねば、俺は全てを失い……ただの肉塊と化す。


 それだけじゃない。 アネモネは殺人の罪を負い、ウィル王子たちも奴の操り人形として利用され続けることとなる。

 それだけは……絶対に嫌だ。 何とか手を打たなければ……でも、どうやって?


「ふっ、何やら企んでいるようだな。では念には念を入れて……」


 シュミット爺は俺の目をまっすぐに覗き込んで、こう宣言した。


「タケベヒデオ、お前の体は……動かない」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の全身は硬直し、指一本動かせなくなった。 くそっ! あいつ、俺にまで暗示を……。


 ……ん? 暗示? ふと頭に思い浮かんだ言葉だが、妙に腑に落ちた。

 おそらくこれは、催眠術のようなものなのだろう。 まぁ、それがわかったからと言って、体が動かせない以上、どうすることもできないのだが……。


 俺がもがいている間にも、アネモネはどんどん近づいてくる。 相変わらず目の焦点が合っていない。しかしその目からは、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちている。


 ……いや、待てよ?

 昔、何かの本で読んだことがある。 催眠術ってのは、人の意思を奪うのではなく、あくまでその人の自己暗示を誘導するだけ……つまり、その人が絶対にやりたくないことであれば、拒否できるはずなのだ。


 今は俺が仇だと思い込まされているから、憎しみを向けている。でも本心は違う! ……ただ、その本心をどうやって引き出すのか? 今、アネモネがシュミット爺から暗示をかけられている以上、俺が別の暗示をかけても効果は薄いだろう。


 だとしたら、俺が諭すのではなく……アネモネが自分の心で、俺を殺したくないと思うような言葉をかければ……うん、自信は無いが……試してみる価値はある。


「アネモネ、なるべく楽に殺してくれ。俺たち、会ったばかりだし……俺を殺しても、君の心はそんなに傷まないはずだ。俺も別に未練はない。向こうの世界で一度死んだようなもんだし、こっちの世界の出来事は、まぁおまけみたいなもんだからな。でもこれだけは言わせてくれ。君に会えてよかった。短い間だったけど、すごく楽しかった」


 この言葉は、嘘偽りのない俺の本心だった。


 俺にシュミット爺のような暗示のスキルなんて無い。でも、この言葉の純度だけは……誰にも負けない自信があった。


「さぁ、君の手で……この物語を終わらせてくれ」


 俺の言葉に、アネモネは無言で頷く。 そして……ナイフを両手でしっかりと握り直し、泣きながら突進してきた。


「あぁぁぁぁ!!!!!」


 ――ぐさっ!


 腹を狙ってひと突き――。 しかし、彼女がナイフを突き立てたのは、俺ではなくシュミット爺だった。


「ぐっ……なぜ? 俺のスキルが……効かない……のか?」


「殺せるわけ……ないわよ! ヒデオはあたしの大切な人……確かにまだ会ったばかりだけど、ずっとひとりぼっちだったあたしに、生きる希望をくれた。あたしの言葉を信じて、あたしのために戦ってくれた。そんな人……殺せるわけないじゃない! ヒデオが許してくれても、あたしの心が許せない! ヒデオ……あたしも……あなたに会えてよかった。一緒にいる時間、本当に楽しかった。だから、あたしは見てみたいの。この物語の続きを……あたしとヒデオで一緒に歩んでゆく、この先の物語を!」


 体が動くなら、今すぐ駆けつけて抱きしめたいくらいだ。

 いや……まだ油断はできない。


 見るとシュミット爺は、苦痛に顔を歪めながらも、その瞳は殺意の光で満ちあふれている。


「くっ……仕方ない。奥の手を使わせてもらうぞ……」


 そう言うと、懐から小型の魔香炉を出した。 まさか……これで魔物を呼び出すつもりか?


「ははははは! 全員、死ねぃ!!」


 ――言い終わった直後。 シュミット爺の首が、ゴロリと床に転がった。

 すぐ背後には、暗示の解けたウィル王子が立っている。


「みんな、すまなかった。俺は……」


「いや、いいんだ。おかげで助かったよ」


「ほんと、間一髪だったね」


 これでようやく一段落だ。 アネモネの冤罪も晴れ、シュミット爺の罪も追及されるだろう。


 騒ぎを聞いて駆けつけた兵たちに事情を説明した後……俺たちは、ウィル王子の隠れ家で泥のように眠った。




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