リアラの魔道鏡(6)
「お待ちしてましたにゃん」
冒険者ギルドに着くと、ミネア嬢が迎えてくれた。緊張して尻尾がピンと立っている。
「マスターは、先ほど外出しましたにゃん」
「それじゃ、今のうちに彼女に『リアラの魔道鏡』を使おう」
そう言ってアネモネを紹介する。
「アネモネです。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いしますにゃん」
「か、可愛い! ねぇ、猫耳触っていい?」
「ヒャン! まだ許可を出してないですにゃん!」
「そんなこと言わずに、先っちょだけ」
「にゃぁーーん!」
――なんか、ずっと見ていたい光景だ。 しかし、残念ながら俺たちには時間がない。
そう思う気持ちはエリザも一緒らしく、優しい声で急かしてくれた。
「あの……そろそろ始めましょうか?」
「そ、そうでしたにゃん!」
「えー! もうちょっと触りたかったのに……」
俺たちはギルドマスターの部屋に行き、ミネア嬢に『リアラの魔道鏡』を使ってもらった。
「見たことないくらい、綺麗な純白ですにゃん。アネモネさんは潔白。間違いありませんにゃん」
「では、私が証人になります」
そう言って、エリザも『リアラの魔道鏡』を覗く。
「確認しました。とても澄んだ……美しい純白の光が見えます」
「となると、やはりシュミット爺はアネモネに無実の罪を着せたことになるな」
「いくらギルドマスターだからって、許せませんにゃん!」
「告発しましょう。ウィル王子にお願いして、正式な手続きを……」
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ん? 誰を告発するって?」
そこには、ギルドマスターのシュミット爺が立っていた。 すぐ後ろにはウィル王子……どうしたんだろう? ちょっと顔色が悪いみたいだ。
「シュミットさん、たった今アネモネに『リアラの魔道鏡』を使ったところ、潔白であることが判明しました」
「だから何だというのかね?」
「これはつまり、ギルドマスターであるあなたが、何らかの理由で彼女をお尋ね者に仕立て上げた……違いますか?」
「ほぅ、だとしたら……どうするつもりだ?」
「あなたを拘束します。ウィル王子、手伝ってくれ」
――しばしの沈黙。 しかし、ウィル王子は焦点の定まらない目で立ち尽くしたままだ。
「う、ウィル王子?」
「無駄だ。こいつは俺の操り人形だからな」
シュミット爺が、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
「ど、どういう意味だ?」
「ふふふ、タケベとか言ったな……お前は俺のことを、ただの老いぼれだと思っていないか?」
「……え?」
「俺がこの歳になるまで、ずっと冒険者ギルドのマスターとして力を振るってきたその理由を、お前は少しでも考えたことがあったか?」
「…………」
確かに俺は、油断をしていた。 『セイクリッド・ハートランド』は、武器屋の親父すらスキルを持っている世界だ。
それをわかっていたのに、シュミット爺の調査を怠った。 よく考えたらわかることだ。冒険者ギルドのマスターが、ただの老人であるわけがないということに。
「お前たちの計画は、ここにいるウィル王子から全て聞かせてもらったよ。魔香炉を見つけ出し、スタンピードの原因を突き止め、俺の存在にまで辿り着いた……そこまでは上出来だ。しかし……俺を敵に回すには、まだまだ経験が足りないようだな。ふふふ……」
「……くっ!」
「俺のスキルは、傀儡の言霊。言葉だけで簡単に人を操ることができるのさ」
「それで……ウィル王子を……」
「操れるのは一人だけではないぞ」
そう言ってシュミット爺は、アネモネの前に立ち、瞳をのぞき込む。
「アネモネ……確かに今のお前は、潔白かもしれない。しかしな……悪事ってのは簡単に染めることができるんだよ。さぁ、このナイフでタケベを刺し殺せ」
「そ、そんなこと……するわけないでしょ!?」
「もう一度言う。このナイフで、タケベヒデオを刺し殺せ、こいつはお前の……仇だ」
その時――。 アネモネの目から光が消えた。そう、今のウィル王子と全く同じ表情だ。
「かしこまりました……マスター(ご主人様)。このナイフで、タケベヒデオを刺し殺します……」
ナイフを持ったアネモネが、ゆっくりと俺に近づいてくる。 これがシュミット爺のスキルか……まずいぞ……どう対処したらいいんだ?




