リアラの魔道鏡(4)
酒を飲んで眠ってしまった朝って、妙に早く起きてしまうのは俺だけだろうか? それはまぁ、ともかく、熟睡できたせいで頭は冴えている。
ふと見ると、ウィル王子がソファで静かに寝息を立てていた。 あまり覚えていないが、ベッドは俺に譲ってくれたらしい。
うん、やっぱりいい奴だ。
今日、いよいよアネモネの潔白を証明することができる。 まずはタルカスの村に行って、アネモネたちに状況の報告をしよう。
タルカスに行くには、徒歩で3時間ぐらいかかる。 報告後、一緒に王都に戻らなきゃならないから、往復で6時間。
しかし、俺にはデバッグコマンドがある。
俺は、まだ使っていなかったデバッグコマンド【FAST_TRAVEL】を試してみることにした。 これを使えば行ったことのある場所に一瞬で移動できるのだ。
瞬間移動は、魔法やアイテムでもできるのだが、行ける場所や条件が限られているので使い勝手が悪い。
しかし、このコマンドを使えばより細かい場所指定……例えば、『タルカスにあるアネモネの家』にも一瞬で行くことができるのだ。
「Ctrl」+「Shift」+Z……デバッグコマンド起動!
【FAST_TRAVEL】……デバッグでは何度も使ったコマンドだが、リアルで実行するのは初めてだった。 ちょっと緊張する。
ワープに失敗して、壁の中に転送されたらどうしよう……いや、今どきそんなハードな仕様のゲームなんて流行らないか……。
一瞬、ふわっとした浮遊感があり、目の前の景色がぐにゃりと歪む。
そして次の瞬間には、見慣れたアネモネの部屋……。
しかし、今俺の目の前にあるのは、見慣れない白い肌……。
「え?」
「きゃーーー!」
まずい、エリザが着替え中だった。 タイミング悪いっていうか、ある意味良すぎるっていうか……。
「ご、ごめん! 覗く気はなくて……これは、しゅんかんいど……」
半裸のまま涙目になっているエリザ。
これはレギュレーション的に非常にまずい状況……まさにCERO「Z」指定……いや、リアルなので何が見えてもレーティング的には問題がないが、少なくとも俺の心がヤバい。
「み、見ないでくださいーー!」
なんか気が動転してついその場で立ち尽くしていたが……確かに弁解するのは後だ。 俺は慌てて部屋を出た。
――そして弁解タイム。 アネモネがニヤニヤしながら、俺にツッコミを入れてくる。
「これって、ラッキースケベって奴でしょ? 『きゃー! のび太さんのえっちー』みたいな」
……だからなぜ異世界の住人がそれを知っているのかと問い詰めたかったが、まずはエリザに謝罪するのが先だ。
「ほんとごめん。でもわざとじゃないんだ。瞬間移動のスキルを使ったら、たまたまエリザが着替え中だったって話で……」
「それはもういいんです。タケベさんも急いでいたわけですし……でも、あの……どこまで……見られちゃいましたか?」
「いや、もうそこは本当に気にしないで。一瞬でよくわからなかったし、もう忘れたっていうか……」
「ダウト! こんなナイスバディを直に見て、忘れるわけないよね? 絶対脳裏に焼きついてるって!」
「そ、そうなのですか?」
「えーっと……その……」
確かにアネモネの言う通りだ。 ばっちりと見てしまったし、しっかりと記憶されている。
「あぁ! もうお嫁に行けません!!」
大丈夫。もうすぐウィル王子と恋人同士になるから……と、言いたかったが、ぐっと我慢した。
「ねぇ、その瞬間移動のスキルってさ、あたしたちも一緒に行けないの?」
「パーティを組んでれば、5人まで大丈夫だけど?」
「それでは、王都までお願いします」
「うんうん。エリザの裸、タダで見んだから、そのくらいしてもらわないとね」
「もぅ、アネモネさん……蒸し返さないでください」
いつの間にか、エリザの機嫌も直っているようだ。
「それじゃ、準備はいい?」
「オッケイ!」
「お願いします」
俺は再び、デバッグコマンド【FAST_TRAVEL】を実行した。
移動先は、ウィル王子の隠れ家を指定。 しかしそこには……。
「うぉっ!」
「きゃーーー!!!」
「でかっ!」
またタイミングが悪いことに、着替え中のウィル王子が……しかも、全裸だった。
これはラッキースケベ……と呼べるのだろうか? とにかく、まずい状況だ。
「ご、ごめん!!」
女の子二人の手を取り、慌てて小屋の外に出る。
「なんかすごいモノ見ちゃった」
「わ、私は何も見ていませんっ!!」
そう言いながらも、エリザは耳まで真っ赤にしている。
「ねぇ、さっきのスキルって、本当にただ移動するだけ? なんか怪しい追加効果とかない?」
「いや、ただの移動コマンド……じゃなくて、スキルのはずなんだけど……」
だんだん俺も、自信がなくなってきた。




