リアラの魔道鏡(1)
王都に着く頃には、もう夕方になっていた。
「さて、まずは冒険者ギルドに行って、受付のミネア嬢に会うとするか。彼女とは結構、長い付き合いなんだ」
「いや、マスターに俺たちの動きが勘付かれるのはまずい。別の場所で会えないか?」
「となると……もう少し待って、帰宅時間を狙うしかないか……」
その時――俺は閃いた。
「そうだ! サブイベントだ!」
「ん? なんだそれは?」
「詳しい説明は省くけど、この後市場に行けばミネア嬢に会えるはずだ」
「それは、予言スキルか何かか?」
「まぁ、似たようなもんだ」
◇
この世界は、一般人すら何かしらのスキルを持っていることが多い。 そのおかげで、何でもスキルのせいにしておけば色々と説明が省けて楽だ。
……まぁ、予言に関しては、単にデバッグで得たシナリオの知識なのだけれど、そういうスキルだと言い切ってしまった方がウィル王子にも通じやすいだろう。
ゲーム世界では、『ミネア嬢と会ったことがある』、かつ『夕方に市場に行く』という条件で、サブイベント『ミネアの落とし物』が発生するのだ。
果たして、現実世界でも同じサブイベントが起こるのだろうか?
ウィル王子が同行していたりと、色々とイレギュラーな要素が多い点が心配だが、まずは行って確かめることとしよう。
◇
市場は活気にあふれていた。 ちょうど仕事帰りの人たちが、夕食を買い求める時間なのだろう。
「いらっしゃい! 今日は魚の干物が安いよ!」
「くださいにゃん!」
そこに聞き覚えのある声――。 振り返ると、ミネア嬢がいた。
「よ、予言通りだ! ヒデオのスキル、本当にすごいな!」
「そして、この後……財布を持っていないことに気付く」
ウィル王子にだけ聞こえるように、俺はぼそっと呟いた。
「あーー! お財布、忘れましたにゃん!」
「……ま、また当たった!」
ウィル王子の整った顔が、驚きでちょっと歪んだ。
「どどど、どうしたらいいにゃん?」
俺は、ちょっと涙目になっているミネア嬢に声をかけた。
「俺が立て替えますよ」
「え? あ、あなたは確か……」
「タケベです」
「ああ、昨日冒険者登録をした……助かりますにゃん!」
半泣きだったミネア嬢が、満面の笑顔になった。
「ここの干し魚、大好きなんですにゃん! タケベさん、お金は必ず返しますね……あれ?」
ここでようやくミネア嬢が、俺の隣にいるウィル王子に気付く。
「あ、あなたはウィル王子! お知り合いなんですかにゃん?」
「ああ。友人だ」
「王子様とお友達……ひょっとして、タケベさんも貴族なのですか?」
「いや、俺はただの千葉県民だよ」
「ちば……けん、みん?」
ミネア嬢がきょとんとしている。 しかし、ウィル王子は目を輝かせてこう言った。
「五百年ほど前……この地は、『チーヴァ家』という貴族によって統治されていたという。ひょっとしてヒデオは、その末裔なのか?」
なんかものすごい誤解をしているので、正直に訂正した。
「いや、地方都市に住むただの平民だって……そ、そんなことよりミネア嬢、なくした財布、探してやろうか?」
「え?」
「『物探し』のスキルがあるから、すぐに見つかると思うぞ」
――これは嘘だ。
単にデバッグで何度もプレイしているから、位置を覚えているってだけの話だ。
しかし、俺はスキルを使ってるっぽい感じを出すため、目を閉じて念じるふりをした。
「見えたぞ。あっちだ!」
ミネア嬢の財布は、途中の道の茂みにあった。
「そういえばさっき、ここで転びましたにゃん。きっとその時に落としたんですにゃん」
拾った財布をミネア嬢に渡し、サブクエスト『ミネアの落とし物』はクリアだ。
「大したお礼はできないけど、これを受け取ってほしいですにゃん」
クエスト報酬として、『茶色い飴玉』をもらった。
一見ただのお菓子だが、実はこの後で意外と役に立つアイテムになるのだ。
……とまぁ、デバッグで得た知識を活かせるのはここまでだ。
ここから先は、オリジナル展開。 なんかとかしてミネア嬢を仲間に引き込み、ギルドマスターであるシュミット爺の悪行を暴かなければならない。




