廃墟タルカス(5)
俺は王子たちに、ずっと引っかかっていたことを話すことにした。
「みんな聞いてくれ。俺が初めて冒険者ギルドを訪ねた時、ギルドマスターのシュミット爺に、ある魔道具を使われた。おそらくあれは……犯罪歴がわかる魔道具なのだろう」
「私も知っている。『リアラの魔道鏡』と言って、その人間の魂の汚れを測ることができるらしい」
「まぁ、俺は記憶を無くした余所者だから、使われるのも当然だ。それは良いとして……その魔道具をアネモネに使えば、無実だってことは簡単に証明できるんじゃないか? なのになぜ、ギルドの連中はそれを使わなかった?」
「あ、あたし……いろんな人に説明したのよ。村が魔物に襲われたってこと。もちろん、ギルドマスターにも話したわ。なのに全然信じてくれなくて……そんな便利な魔道具があるって知ってたら……」
「ギルドマスターが、『リアラの魔道鏡』を使わなかった理由……」
「まさか……魔物のスタンピードを隠して、アネモネさんに罪をなすりつけるのが理由?」
「その可能性は、大いにあるな」
「もう少し調査を進めよう。ギルドマスターが悪事に手を染めていたとなれば大変なことだ。言い逃れできないよう証拠を固めなければな。ウィル王子、村で見つけた香炉を、もう一度見せてくれ」
俺は改めて香炉を調べてみる。 素焼きの素材だから、指紋を調べるわけにもいかないか……。
いや、そもそも指紋採取キットみたいなものがこの時代にはない。 そうなると手掛かりは……。
「ん? この匂いは……」
香炉から微かに漂ってくる匂い……俺はそれに嗅ぎ覚えがあった。 冒険者ギルドで嗅いだ実家の匂い……線香によく似た匂いだ。
「シュミット爺と握手した時、これとよく似た匂いがした。まさかあの人、今も魔香炉を作ってるんじゃ……」
「香りの記憶か……しかし、それだけでは証拠として弱いな」
「ギルドマスターさんが留守の時に、お部屋を調べるのはどうでしょう? 本当に魔香炉を作っていたとしたら、大変なことですし」
「それがあの人、滅多に出歩かないんだ。短い時間でいいなら、私が理由を付けて呼び出すことは出来るが……」
「あの部屋を全部、短時間で調べ切るのは難しそうだな……」
考えあぐねていると、アネモネがちょっと言いづらそうに聞いてきた。
「あのさ……ひとつ質問なんだけど、その『リアラの魔道鏡』だっけ? それって、ギルドマスターしか使えないの?」
「冒険者ギルドのスタッフなら使えると思うが……」
「だったら、その人を味方に付けて、あたしの無実をこっそり証明してもらうのはどう? あたしがシロなら、シュミットさんがクロってことでしょ?」
「それはいい考えです! ……あ、ついでにその後でギルドマスターさんを捕まえて、無理やり魔道鏡を使えば、より正確に状況を把握することができますね」
一番おとなしそうなエリザが、一番物騒な提案をしてきた。
そして、一番空気を読まなそうなウィル王子が、すごく真っ当な心配をしてきた。
「アネモネ、君を疑っているわけではないが……本当に大丈夫か? 『リアラの魔道鏡』は、ちょっとした犯罪でも反応する。特に盗賊の君が……」
「あ、それなら問題ないわ。あたし、盗まない盗賊だから」
盗まない盗賊……矛盾した言葉だが、確かにアネモネにはぴったりの表現だ。
「問題なさそうだから、この方針で進めよう。まずは、ギルドのスタッフを仲間に引き込むところからだな」
俺の提案に、ウィル王子は深く頷くと……。
「じゃあ、私とヒデオでギルドに行こう。アネモネは村に残って、エリザと一緒に魔香炉の調査を続けてくれ」
「オッケイ!」
「アネモネさん、頑張りましょう!」
二杯目の薄い紅茶を飲んだ後――俺とウィル王子は、二人で王都へと向かった。




