廃墟タルカス(4)
ウィル王子と……戦わなければならないのか?
俺の動揺に気付いたのか、彼はやや訝しげな表情でこう聞いてきた。
「その顔……何か心当たりでもあるのか?」
「あ、いや……」
俺は咄嗟に、誤魔化しようとした。 ……しかし、すぐにその気持ちを否定する。
「ウィル王子、話があるんだ」
俺はこのゲームを何度もデバッグし、ウィル王子の性格も良く知っている。 彼は常に公明正大で、正義を貫く男だ。
だからこそ、俺も誠心誠意、誤魔化しのない本心でぶつかるべきだ。
俺はアネモネから聞いた話を、順を追って全て伝えた。 ウィル王子もエリザも静かにそれを聞いてくれた。
全てを語り終えた後――ウィル王子の表情は曇ったままだった。
「そんな話、私が信じるわけがない。どうせその女盗賊に、君が誑かされたんだろう」
……やはり、ダメだったか……。 ガックリと肩を落とす俺を見て、ウィル王子はこう続けた。
「これを見つける前の私だったら、そう思っただろうな」
そう言って、壺のようなものを見せてくれた。
「その壺は?」
「これは香炉だ。村のあちこちに置かれていた」
「ただの香炉なら問題ないのですが……この香りには魔物を興奮させる成分が含まれているようです」
エリザは聖女として、回復魔法だけでなく、薬草関係の知識も深いことを思い出した。
「つまり……スタンピードは人為的に起こされた?」
「ん? スタンピード?」
「何者かが魔物を暴走させ、この村を襲ったということだ」
「その結果が、この廃墟というわけか……なるほど。その可能性は否定できないな」
「だとしたら、次もまた別の場所で起こる可能性がある!」
未来で起こる出来事を直接ウィル王子に話すのは危険だが、こんな風に推測として話せば伝えることができる。 そして、味方に引き込むことができるはずだ。
「俺はアネモネの無実の罪を晴らし、この村を壊滅させた張本人を捕えたいと思っている。ウィル王子、エリザ、力を貸してほしい」
「ああ、もちろんだ」
「アネモネさんに会わせてください」
この二人が仲間に加われば百人力だ。 俺は胸を躍らせながら、アネモネの家へと向かった。
◇
「ただいま。お客さんを連れてきたぞ」
「え? ウィル王子にエリザさん?」
大きな目をさらに見開いて、アネモネが驚いている。
「た、ただ今お茶を用意しますので、ごゆ、ごゆるるる……」
緊張で挙動不審になっているアネモネを見て、ウィル王子も笑顔になる。
「ははは、もっと気安く接してくれ。今は王子ではなく、ただのウィルだ」
「でも……」
「本当に遠慮なんてなさらないでください。私、アネモネさんとお友達になりたいんです」
「ほんとに? いいの? じゃあ普通に喋っちゃうよ?」
「もちろんだ。普段通りの君を見せてくれ」
「うん。あたしはアネモネ。ウィル、エリザ、これからよろしくね!」
「はい。こちらこそ」
「それじゃ、お茶入れるね。4人分だから、すっごい薄くなっちゃうけど、お茶の味なんてどうでもいいよね?」
「あ、ああ……」
――急に気安くなり過ぎのような気もする。
「どう? このお茶、うっすいでしょ?」
「ああ、確かに味がしない」
「でも白湯は体にいいんですよ」
「ひどーい! 一応、茶葉入れたんだから白湯って言わないでよ」
「そ、そうですね。言われてみれば確かに……遠くでお茶の香りがするような気がします」
「もう、エリザが一番辛辣!」
「え? そ、そうなのですか?」
「ははは、すまないな。彼女に悪気はないんだ。ただ、時々言葉の選び方に失敗することがあってな」
「え、ええ……」
――その言葉、そっくりウィル王子に返したい。
◇
初対面で、かつ身分も違う。 しかもお尋ね者と、それを捕らえる冒険者としての立場……。
ウィル王子たちとアネモネとの間には、大きな壁がある。 しかし、お茶を飲み終わる頃には、みんなすっかり打ち解けていた。
そこで俺は、ずっと引っかかっていたことを話すことにした。




