廃墟タルカス(3)
――気が付くと朝になっていた。
地下室の天井に明かり取りの窓があって、そこから眩しい日差しが差し込んでいる。
そしてその朝日に照らされて……すぐ隣に、アネモネの可愛らしい寝顔。
意外と薄着なんだな……おっと、じろじろ見るのは良くない。
落ち着かなくなった俺は、すぐに起き上がり、朝の散歩をすることにした。
◇
魔物に襲われ、廃墟となった村……。 やはり、明るい朝の光を浴びていても、どこか物寂しさを感じる。
「……静かだな」
独り言として呟いたはずの声が、やけに大きく響く。 本当に寂しい村だ。
そう思ったその時――。
「きゃーーー!」
聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。 慌てて声のした方向へと走る。
そこには、意外な二人組がいた。
「はっはっは、エリザ。そう言えば君は、ヘビが苦手だったな」
「だ、誰にだって苦手なものぐらいあります」
「……ん? そうか? 私は特に無いが……」
「そ、そんなことより……それを何とかしてください!」
「殺せばいいか?」
「そんな残酷なこと、ダメです!」
「じゃあ生け捕りに……」
「ひっ! 想像しただけで、無理です!」
困っているエリザの気持ちを、ウィル王子は全くわかっていない。
ウィル王子……いい奴なんだけど、そういう無神経なところあるよな。 俺はちょっと、微笑ましい気持ちになった。
仕方なく駆け寄り、ひょいと蛇の頭を掴んで森の奥へと投げ入れた。 レベルが上がっている今、これくらいのことは難なくできる。
「君は確か……タケベ殿」
「ウィル王子、また会いましたね」
「おっと、敬語なんて使わなくていいぞ」
「では、お言葉に甘えて……」
俺は今の素直な気持ちをフランクに伝えた。
「会えてうれしいよ、ウィル王子」
「はっはっは、私もだよ。タケベ殿」
「じゃあ俺のことも、タケベ殿じゃなくてヒデオと呼んでくれ」
「ああ、わかったよ。ヒデオ」
エリザもようやく笑顔になって、俺に頭を下げる。
「あの……助かりました。アレを追い払ってくださいまして……」
エリザは『蛇』という言葉を口に出すのすら嫌がっているようだ。
「結構大きな蛇だったな。あの蛇、毒を持っているはずだぞ。躊躇なく蛇の頭を掴み、放り投げるとは……ヒデオも、なかなかやるじゃないか!」
「あの、ウィル王子……あまりその名前を連呼するのは……」
「おっと、すまない。エリザの前で『蛇』という言葉は禁忌だったな。はっはっは!」
「も、もういいです……」
……ウィル王子、強くて優しくてイケメンな完璧主人公なのに、こういうデリカシーに欠けているのが玉に瑕だ。
「それはそうと、二人はなぜこの村に?」
「ああ、ギルドからの依頼でな。この村でお尋ね者の盗賊アネモネを見たという報告があったんだ」
――血の気が引いた。
いつ、誰に見られたんだろう?
「それで、お尋ね者を見つけたらどうするつもりなんだ?」
「もちろん、捕まえてギルドに引き渡すまでだ」
「もし……彼女が抵抗したら?」
「戦うしかないだろうな。なかなかの手練れと聞いている。相手にとって不足はないさ」
リアルの未来が……だんだんゲーム本編のシナリオに合流しつつあるのかもしれない。
しかし困ったぞ。 ついさっき俺は、アネモネの力になると心に誓ったばかりだ。
でも、それはつまり……ウィル王子たちを敵に回すことになる?
俺の心の動揺を察したのか、ウィル王子が訝しげな表情で聞いてくる。
「その顔……何か心当たりでもあるのか?」
「あ、いや……」
俺は、ウィル王子と……戦わなければならないのか?
勝つ自信は無い……と言うか、そもそも戦いたくなんてない。
……ど、どうしよう?




