廃墟タルカス(2)
アネモネに案内され、村で一番大きな家へと入る。 他の家同様、魔物の襲撃によってあちこち破壊されているが、奥に地下室へと続く階段があった。
「こっちよ」
アネモネと共に階段を降りる。 地下室は、驚くほど綺麗に整えられていた。
「魔物の襲撃があった日、あたしはここにいて助かったの。今も村に帰った時は、この部屋を使ってるわ」
「あのさ……すごく聞きにくいことなんだけど……」
俺はアネモネの『罪状』について聞いてみた。
手配書によると、アネモネは金持ちの家に忍び込み、一家4人を惨殺した後、金を奪って逃走したと書かれている。
「そんなの嘘に決まってるじゃない」
「まぁ、そうだよな」
「魔物の群れは村中を滅茶苦茶にして去って行ったわ。地下室を出たあたしが最初に見たのは、扉を守るようにして亡くなっている両親の死体……そして、ちょっと離れた場所で真っ二つにされている弟の姿……」
「辛ければ、無理に話さなくても……」
「ううん、あなたに聞いてもらいたいの」
涙を拭いたあと、アネモネは俺の目をまっすぐに見てこう言った。
「しばらくはこの場所に座り込んで、ずっと泣いていた。頭の中真っ白になって、ただ、あたしもみんなの後を追おうって……そんなことをずっと考えてたら、外から傭兵っぽい人たちが現れたわ」
「そしてこう言ったの。『見つけたぞ! こいつが村を襲った張本人だ』って……」
「……ど、どういう意味なんだ?」
「今でもわからないわ。なぜそんな疑いをかけられたのか……家族の亡骸に抱きついて、血まみれだったからなのかな?」
……いや、おそらく違うだろう。
魔物に襲われた死体には、明らかな特徴がある。
その傭兵たちも、爪で抉られた痕跡や、牙で食いちぎられた傷跡を見ているはずだ。
なのになぜアネモネを犯人だと『決め付け』たのか……。
「あいつら、あたしを捕らえようとしたわ。だからあたし……必死で逃げた。……おかしいよね。さっきまで死にたいって思ってたはずなのに……生きて、無実を証明しなくちゃって、それから無我夢中で走り続けて……気が付いたら森にいたわ」
「それからずっと、賞金首として追われてるの?」
「そうよ。こんなふうに本当のことを話しても、誰も信じてくれないけどね」
「いや、俺は信じるよ」
「ありがとう、タケベ」
アネモネの声が震えている。これまでずっと、理解者も無く孤独だったんだろう。 だから俺が、何としてでも彼女の無実の罪を晴らさなければ。
「君が犯人だと決め付けられた理由……おそらく奴らは、スタンピードが起こったこと自体を隠したかったんじゃないかな?」
「スタンピード?」
「魔物の大群による襲撃……俺はこれをスタンピードって呼んでるんだけど、たとえばこれを人為的に起こす方法が見つかったとしたらどうだろう? 3年前の襲撃は、あくまでも予行演習みたいなもので、これから大規模なスタンピードが計画されているとしたら……生き残った君を犯人と決め付ける理由も理解できる」
そう。アネモネには言えないが、この先のストーリーで王都が魔物に襲われるのだ。
「人為的に……魔物たちを暴走させる? そんなこと、できるの?」
「まだ仮定の話だけど、調べてみる価値はありそうだ」
「だとしたら……いったい誰が?」
「君に無実の罪を着せた人物だ。心当たりはないか?」
「見るからに傭兵っぽい人たちだったけど……そっか、傭兵ってことは誰かに雇われてるってことよね?」
「そう、その雇い主がスタンピードを起こした張本人だ」
――そして、これから王都でスタンピードを起こす黒幕だ。 何としてでも探し出さなければならない。
「3年前に起きたスタンピードについて、もう少しこの村を調べてみよう」
「うん。でも外はもう暗いから、ここで泊まって明日にしない?」
「ここで……泊まって?」
「ん? 何か問題でもある? ベッドは清潔にしてるわよ」
確かに綺麗なベッドだ。しかし、ひとつしかない。
一緒に寝るには狭すぎるし……いや、狭い広いに関係なく、一緒に寝る? ……い、いいのか?
戸惑っている俺を見て、アネモネがクスッと笑った。
「なぁに遠慮してるのよ? あたしたちもう、同じ部屋で朝を迎えた仲でしょ?」
――と、第三者がいたら、ものすごく誤解しそうなことを言う。
「いや、確かに間違ってはいないけど……」
「ふわぁ、今日は疲れたね。おやすみー」
言い終わってすぐ、静かな寝息を立て始めた。 ……この子、俺のこと全然警戒してないな。
それからしばらく、彼女が隣で寝返りを打つたびに悶々としていたが……疲れていたせいか、いつの間にか俺も深い眠りに落ちていた。




