勇者伝説の森(4)
見慣れた森を、二人並んで進んでゆく。
俺たちの距離は、さっきよりずっと近くなっていた。
「アネモネはこの森で何をしてたんだ?」
「うん、実はこの森の奥に、あたしの生まれ故郷があるの」
……この森はデバッグで何度も訪れていて、実際この世界に来る直前までチェックをしていたが、森の奥に集落なんて無かったはずだ。
でもまぁ、おそらく昨日の闇酒場と一緒で、ゲームシナリオ本編からは省略されたマップなのだろう。
「里帰りするなら、俺も付き合うよ。さっきみたいに厄介な敵が出るかもしれないし……一人より二人の方が……」
「あのさぁ……」
アネモネが俺の言葉を遮ってこう言った。
「あなたって距離感おかしくない?」
その言葉……そっくりアネモネにお返ししたいところだが、彼女は耳まで真っ赤にしながら訴えてくる。
「だって変でしょ? いきなり……ゆ、指輪とか渡してきたし、さらに付き合おうとか……」
「あ、いや……そうじゃなくて、パーティを組もうと……」
「パーティー? ままま、まさかあたしの実家で披露宴とか開こうと思ってないでしょうね? でも、お生憎さま!」
「いや……なんかすごい誤解してるような気がするんだけど……」
「ご、5回? いったい何を5回も? ま、まさかさっき言ってたハメ……いやぁーー!!」
◇
それから10分後――。 俺はようやく、アネモネの誤解……というか、勘違いを正すことに成功した。
どうもこの世界で若い女性に指輪を渡すことは、求婚を意味するらしい。 なるほど。そう考えると、一連の言動も納得できる。
しかし、しっかり誤解を解いた後でも、彼女の態度は頑なだった。
「知ってるでしょ? あたし、お尋ね者なの」
「手配書は見たよ。でも信じられないんだ」
ゲーム本編のシナリオでは、アネモネは金持ちの家を襲撃し、家族全員を惨殺した重罪人として描かれている。
でも、俺にはとてもそうは思えなかった。
「あたしとパーティなんて組んだら、あなた冒険者ライセンス剥奪よ?」
「君は……本当に罪を犯したの?」
「何もしてないわ。無実に決まってるでしょ!」
「じゃあ、なんの問題も……」
「でもね。お尋ね者がいくら主張しても、誰も信じてくれないのよ」
そう言って寂しそうに笑うアネモネ……。 きっとこれまで、たくさん嫌な思いをしてきたんだろう。
「だったら、俺が信じるよ」
考える前に、言葉の方が先に出ていた。 でも……これは間違いなく、俺の本心だ。
「アネモネ、君は無実だ。これからそれを、二人で証明しよう。そして、みんなにも信じてもらおう!」
そう、こんないい子を、中ボスなんていうゲーム的な役割のまま退場させたくはない。
この子の無実を証明する。 それが俺の、この世界で始める最初のデバッグだ。
「で、でも……」
「俺の覚悟は、もう決まってる」
「くすっ、わかったわ。一緒にあたしの村に来て」
「もちろんだ」
アネモネの頬を伝う涙が……夕陽に照らされて宝石みたいに光った。
「で、でも勘違いしないでよね? いくら優しくしてくれたからって……これから先、あなたのこと好きになったりとか、絶対にしないんだからっ!」
――どこかで、フラグの立った音が聞こえた気がした。
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