勇者伝説の森(1)
始まりの森――。
文字通り、俺の冒険はここから始まった。
史実によると、今から1000年前、この地を治めるブレイブハート家の祖先が、この森で『勇者の剣』を手に入れ、のちに英雄になった。
そこから『勇者伝説が始まった森』として、この名が付いたのだそうだ。
今回は、デバッグコマンド【ENTRY_OFF】を使用していないので、普通にモンスターと遭遇する。
俺は試しに、昨日二階堂主任を肉塊にしたフェンリルの一撃をわざと喰らってみた。
「うぐっ!」
ごく軽い衝撃……
だが、レベルアップの効果と銅の胸当ての防御力のおかげで、それほど痛くは無かった。
「やっぱ、装備はRPGの基本だよな」
頭では十分わかっていたつもりだが、こうして身をもって体験すると、その言葉の意味を改めて痛感する。
装備といえば、俺はさっきの店であえて武器を新調しなかった。 それにはちゃんと理由がある。
「確かこの奥に……あった!」
森の突き当たり、誰がどう見ても行けそうにない場所――。 実はこの奥に、隠し宝箱があるのだ。
このシリーズには、こういう隠し要素が多い。
前作である『セイクリッド・ハートランド3』では、隠し過ぎて発売後1年経っても発見されず、仕方なく公式で情報をリークした宝箱すらあるのだ。
当然、今回の隠し宝箱も普通じゃ絶対に気付かない場所に置かれている。 ……ちょっとは前作の反省を活かしてほしいものだ。
「よし! まだ誰も開けてないな」
宝箱を開けると、中に『鋼の剣』が入っていた。
このあたりの武器屋では売られていない、超強力な武器だ。 デバッグで得た知識は、こういうところでも役に立つ。
ただ、ちょっと物足りないのは、宝箱を開けた時のジングルが流れないことだ。 あのメロディを聞くと「やったぜ!」という気分になるのだが……。
「♪たりララ、たららら、たりラリラー」
自分で歌ってみたけど、一人なのでなんだか虚しい。
「♪はがねの、つるぎを、てにいれたー」
替え歌にしてみたけど、さらに虚しい気持ちになった。
◇
新しい武器・鋼の剣を手に入れたということで、俺は早速、フェンリル相手に試し切りをしてみた。
ズバババババッ!!
会心の一撃!! 効果は抜群だ!!
フェンリルは、子犬のように無抵抗なまま、光の粒となって消えていった。 もうこの辺りのモンスターなら、デバッグコマンドを使わなくても瞬殺できる。
うん。やっぱりこのゲーム、面白い。
調子に乗って戦っているうちに、またレベルアップ! ファイアーボールの魔法を覚えることができた。
30歳まで童貞だと、魔法使いになれる。 そんな伝説を聞いたことがある。
俺が童貞なのかどうかは、この際置いておいて、魔法を使えるようになったのは素直に嬉しい。
「ファイアーボール!!」
カ○ハメ波のポーズを取り、自信満々で唱えたのだが……。
ピンポン玉ぐらいのサイズの火球がひょろひょろと5メートルぐらい飛んで、すぐに消えた。 ……これでは、とてもバトルで使えそうもない。
でもまぁ、使ってるうちに魔法レベルが上がって威力もアップするはずだ。 少なくともデバッグではそうだった。
それに、マッチやライターを持ってなくても火を起こせるという特技は、サバイバル的にも役立ちそうだ。
うん。やっぱりこのゲーム、面白い。




