王都バルディア(9)
「ゴールドも手に入れたし、これで装備でも整えるか……」
この世界に来て初めての買い物だ。 俺はワクワクしながら、武器と防具の店『ボッターク商会』へと向かった。
ボッターク商会は、王都の広場近くにある。どちらかというと一般の冒険者向けの店だ。 名前は昔の名作RPGをもじっているらしいのだが、古すぎて俺は知らない。
シリーズ全作品でこの名前なので、原作者の山田疾風怒濤はよっぽどこの名前が気に入っているのだろう。 しかし口の悪いプレイヤーからは『ボッタクリ商会』と呼ばれている。
店主はでっぷりと太った髭男で、いかにも商人という感じだ。 俺の顔を見るなり、愛想よく話しかけてきた。
「いらっしゃい。何が欲しいんだい?」
「薬草を5個」
「はいよ。15ゴールドだ」
「それと、身軽な装備を頼む」
「だったら銅の胸当てをお勧めするよ。100ゴールドだ」
「ああ、それでいい」
「毎度あり。ここで装備してくかい?」
出た。武器屋のセリフの定番『ここで装備してくかい?』だ。 デバッグで何千回も見たセリフだけど、実際にこうしてリアルで耳にすると妙に興奮する。
「それで頼む」
――そう言い終わった直後。 不思議な力が働いて、気がつくと俺は銅の胸当てを装備していた。
「い、いつの間に……?」
「ん? なぁに驚いてるんだ。『着せ替え』スキル持ちの商人が、そんなに珍しいのかい?」
そうか、これはスキルだったのか。
後で聞いた話だが、商人のレベルがある程度上がると自動的に身につくスキルで、王都ではこれを持っていないと営業許可が下りないらしい。
ちなみに最近、このスキルを悪用した性犯罪が問題になっていて、女剣士に無理やり『あぶない水着』を着せたりする事案が発生しているとの噂だ。
……ただゲームをプレイしただけでは、わからなかったことが沢山ある。
っていうか、どこの世界でも男のスケベ心って果てしない。
◇
王都で初めての買い物をして、気づいたことがある。 手順が妙にアナログなのだ。
皮袋から金貨を取り出し、店主に手渡しをして買い物をする。
不思議な力で瞬時に装備ができたり、モンスターを倒して手に入れた魔石が自動的に皮袋に入る世界なのだから、買い物ももう少し便利になってもいいと思う。
令和の時代に慣れてしまった俺としては、キャッシュレスで買い物をした方がずっと楽だし、セキュリティ的にも安心だ。 実際、さっきの買い物の時も、俺が金を出した瞬間に妙な視線を感じた。
買い物を終え、人通りの少ない路地を歩いていると――その妙な視線の主が、声をかけてきた。
「よう、おっさん。また会ったな?」
「貧相な顔して、結構金持ってんじゃねーか!」
振り返るとそこには、アラン&クレインの『あらくれ』コンビがいた。




