桑の実にはご用心
町と森の間にあるエルフの店。
学生は最近この店での買い物を楽しみにしている。
手作りのお菓子、こぢんまりとしていてかわいい店内、丁寧な手仕事の品々。
そして地元の村にいるおばあちゃんを思い出す、おっとりとしているエルフの仕草。
ときめきと癒しと甘いものを補給しに、度々訪れるようになった。
店にたどり着き入口までの庭を歩いていると、小さな男の子がたたずんでいた。
見ると掌に小さな赤い実を持っている。
どうしたんだろう?と思った瞬間に、男の子はその実をぱくりと口に入れた。
「うわぁ~~すっぱい…。」
商人は小さな男の子に向かって声をはる。
「ぼうず!勝手に食ったらダメだろうが!」
「ごめんなさい…。」
しょんぼり肩を落とすぼうやを見てエルフはあははと笑う。
「小さい頃は、赤とかピンクとか色が綺麗なものは何でも口に入れてみたくなるもんさ。まあたまに危ないやつもあるから気をつけたほうがいいけどねえ。」
商人は時々息子をエルフの店に連れてきて、父親の仕事が終わるまで庭で遊んだりお菓子を食べたりしているようだが、今日は庭で見つけた木の実が気になって口に入れたらしい。
「学生さんびっくりしただろう、悪かったなあ。」
商人は申し訳なさそうに学生に頭を下げる。
木の実を食べたぼうやがあまりにもまずそうな表情をしていたので、一緒に店内に入ったのだ。
「いえ、全然!ところで一体何の実を食べたんでしょう?」
ぼうやが持っていたのは鮮やかな赤色をしていた。パッと見でも美味しそうな色をしていたのにまずいとは、何の実だったのだろう?
尋ねるとエルフは、よっこいしょと言いながら椅子から立ち上がった。
「今の時期に実が成っているもので赤くてすっぱい実だろ?ちょっと採ってくるから待ってな。」
そう言ってエルフは庭にその実を摘みに行った。
戻ってきたエルフの手には、濃い紫色が
黒っぽく見える、粒々とした小さな果実がぎゅっとまとまっているような実が乗っていた。
「あ、これって!」
村で見たことがある。
「そうそう、桑の実だね。赤い実は艶々してるし綺麗で美味しそうに見えるんだけど、食べるとすっぱくて渋いんだよねえ。黒っぽくなると見た目はちょっと不気味だけど、甘くて美味しいんだよ。」
「ほら、こっちを食べてごらん」エルフが黒く熟した桑の実を差し出すと、ぼうやはそーっと一粒受けとった。
商人と学生にも桑の実を渡すと、エルフはひょいと実を口に入れた。
「うん、プチプチしてて美味しい。」
「まったく…。まあでも久しぶりに俺もばあさんの庭の桑の実を食うなあ。」
「私も子どもの頃、家の裏庭に成っていたのを時々食べていました。」
大人が桑の実を食べているのを見て、ぼうやも恐る恐る実を口に入れる。
「こっちのが甘い!」
口をもぐもぐと動かしながら嬉しそうに言った。
商人はやれやれといった様子で肩をすくめている。
「ま、こうやってちょっとずつ食べられるものを覚えていくもんさ。」
エルフがぼうやを眺める眼差しは、孫を見るような優しい瞳だった。




