魔法猫と摘みたてカモミールティー
「猫…?」
グレー毛の並み、青い瞳の長毛の猫だ。
エルフの店の店内で、ゆったりと机の上でくつろいでいる。
「そうじゃよ。」
「え!!?!」
見つめていた猫が返事をしたため、植物学者は飛び上がった。
「おんやあ、お前さんは魔法猫を見たことがないかね?」
腕をペロペロと舌で舐めながら猫は話し続ける。
もふもふとした毛並みは愛らしいのに、喋り方はどこか年寄りじみている。
「あ、魔法猫さんでしたか。初めてお会いしたので驚きました…。」
魔法猫は猫の姿をしているが、猫とは違う生き物だ。
人類の話を理解し、人類の言葉を話す。
また、猫と身体の構造も違うのか長生きで、猫が食べられない物も食べられるらしい。
長生き故に魔法に通じていて、獣の視点から人類に知恵を授ける貴重な存在としても扱われている。学術機関や、都市の公共施設にいることが多い。
「学者先生いらっしゃい。」
店の奥から缶詰とブラシを持ってエルフが出てきた。
「おお、おお、早くしてくれんか。我輩は腹が減っているんじゃ。」
缶詰を見つけた魔法猫は青い瞳の瞳孔をきゅっと細くさせ、机の上を興奮気味にぐるぐると動き回りはじめる。
「大人しくしなよ。全くあんたはいつも急に来ては食い物を寄越せとせびるんだから。今日はこれくらいしか食べるものはないよ。」
パキャッっと音を鳴らしてエルフが缶詰を開け、机の上に置く。
魔法猫は待ち切れないように急いで缶詰に顔を突っ込み、はぐはぐと食べ始めた。
夢中で缶詰を食べる勢いと、美味しそうに食べる表情に植物学者は呆気にとられる。
「悪いねえ騒がしくて。」
「あ、いえいいえ。魔法猫さんはたまにエルフさんのお店に来るんですか?」
やれやれといった表情でエルフは魔法猫の背中にブラシをかけ始める。
ふわふわの毛が滑らかにまっすぐになっていって、柔らかそうな背中が陽に反射して美しく輝いた。
よく見るとブラシの柄の部分には、魔法猫の瞳に似た青い石がはめられている。
「古い知り合いさ。年寄り同士、時々昔話なんかを駄弁ってるんだよ。」
「我輩は都市で若者を相手に長話をしたり、図書館で昼寝をしたりするので忙しいんじゃがな。気が向いた時にエルフのところでだらだらと遊ばせてもらうんじゃよ。」
なんせこいつはずーっとこの店にいるからなあ!と、魔法猫は牙が見えるくらい大きく口を開けてから、また缶詰を舐めるのに取り掛かった。
古い知り合い…。
この二人(一人と一匹?)なら、かなりの年季が入っていそうだ。
エルフは魔法猫の毛を集めているようで、「おーとれたとれた。」とブラシを見ながらひとりごとを言っている。
「で、学者先生は今日はどうしたんだい?」
「あ、そうでした。今日はカモミールの花束が欲しくて。」
エルフに店に来た目的を告げる。
魔法猫をブラシで撫でていた手を止めてエルフはよいしょと立ち上がった。
「ああ、構わないよ。ハサミを貸してあげるから、欲しいだけ摘んだら持ってきなさい。こっちで纏めてあげるから。」
ハサミを取りに行ったエルフを待っていると、魔法猫が話しかけてきた。
「どうしてカモミールの花束が欲しいんじゃ?」
缶詰を食べ終わって満足しているのか、口の端をペロペロと舐めながらゆったりとくつろいでいる。
「職場でお世話になった人が異動するので贈ろうかなと。以前カモミールが好きと言っていたのを聞いたので。」
「ほう、いい心掛けじゃな。」
くわっと魔法猫は欠伸をしてから、身体をぐっと伸ばした。
「カモミールといえば、都市で我輩を世話している人間たちはよく茶にして飲んでいたなあ。」
伸ばしていた身体をごろんと机に転がし、ふわふわのお腹を上に向け、思い出す様に青い瞳を細めている。
「摘んだ花の部分をたっぷり使って、ティーポットに花と熱湯を入れたら蒸らす。しばらくして湯が黄色い色に染まったら飲み頃だとかなんとか。」
「わぁ…香りも良さそうですね。僕も飲んでみようかな。」
うむ。と言って魔法猫は鼻をひくつかせている。
先程からゆったりと自由に過ごす彼の姿に、なんだか癒やされてしまう。
「はいはいお待たせ、好きなだけ採って来ていいからね。」
ハサミと籠を持ってきたエルフが戻ってくる。
「ありがとうございます!」
植物学者は道具を受け取り、張り切りながら庭に向かっていった。
「色んな人間が町に越してくるのう。」
尻尾を揺らめかせながら、魔法猫はふと呟く。
「私達がずっと同じところにいるだけさ。」
エルフは机の上に置いたままにしていた、空の缶詰とブラシを片付ける。
「あんたも次来る時は連絡くらいしなさいな。そうすればもう少し違う食べ物を用意出切るんだから。」
「さあてねえ。」
窓の近くに魔法猫は位置取り、エルフの話を半分聞き流して丸くなる。
外では暖かな日差しの中、ハサミを手にした植物学者がカモミールを大事そうに選んでいた。




