イチゴジャムと秘密のティータイム
今日のエルフのお店はいつもと違っていた。
画家が店の扉を開けると、しっとりとした甘い香りが漂ってきた。
「いらっしゃい。画家さんいいところに来たねえ。」
エプロンを着けたエルフがニコニコと声をかけてきた。
「こんにちは。今日は何かしているんですか?」
くんくんと匂いをかぎながら画家は尋ねた。
「そうなのよ。」とエルフは大きく頷いて応える。
「イチゴのジャムを煮ていてね。丁度今から瓶に詰めるところだから、あなたちょっといらっしゃいな。」
え、いらっしゃいな…?
画家が驚いていると、さてさてと呟きながらエルフは店の扉に近づき、カチリと鍵を閉めた。
「こっちこっち」
言われるまま後に続くと、店の奥に続いているエルフの住居に招かれた。
入った部屋はキッチンで、鍋や食器、料理に使う道具がきちんと置いてある。広すぎないけれど使いやすそうな間取りだ。
ダイニングテーブルに大きな鍋とガラスのジャム瓶が置いてあり、鍋の中を覗き込む。
「わあ…」
ゴロゴロとしたイチゴの果肉がたっぷり入ったジャムがとろりと鍋の中で揺蕩う。
香りは鍋の近くだと甘酸っぱさも感じる。
まるで宝石のような色彩だ。と思っていると、エルフは瓶を持って画家に話しかける。
「粗熱がとれてきたからね、ジャムを瓶に詰めようと思って。」
大きいスプーンで慎重にジャムをすくって手際よく詰めていくエルフ。
イチゴジャムはスプーンの上でつやつや光っている。
瓶に入るといつもの見慣れたジャムの姿になっていく。
「果物を思いっ切り使える時期に作るジャムは美味しいからね。もちろんお砂糖も。」
イチゴはエルフの庭で育てたものらしい。
毎年実がなるとまずはそのまま食べてもぎたてを満喫したら、ジャム作りに取り掛かると教えてくれた。
「沢山ジャムを作ってね、たまに町のパン屋に置いてもらっているんだよ。」
「え!エルフさんのジャム、パン屋に置いているんですか?!」
今暮らしている部屋の近くにパン屋があり、美味しくて手軽に食べられるため良く買って食べていた。
いつもは並んでいるパンを眺めてどれを食べようかと考えることに夢中で、ジャムまで見ていなかった。
「そうだよ。私もたまに買って食べているけどね、特に生地が美味しいんだよねえ。食感が柔らかくて、ほんのり甘くてミルクの香りもして。」
うっとりとしながら話すエルフをみて、画家もうんうんと頷く。
話しながらも作業を続けて、用意した瓶にジャムを詰め終わった。
「よしよし、丁度いい量で入ったね。さあて、今から秘密のお茶を用意するから。」
エルフは嬉しそうにイチゴジャムが入っていた鍋を持って微笑んだ。
秘密のお茶?
画家が眺めていると、エルフはイチゴジャムが入っていた鍋に水を注ぎ火にかける。
そうして棚から紅茶のティーバッグを取り出し、鍋で煮出し始めた。
「ジャムを作った後の鍋で紅茶を入れると、香りも味も甘いお茶が飲めるんだよ。いつもこれが楽しみでね。」
「本当にいい香り…。」
紅茶の渋みのある香り高さが合わさり、先ほどまでの甘い匂いと空気が変わる。
エルフがカップに入れてくれた紅茶は、普段飲むものよりも赤みが強く、底の方にイチゴの果肉が揺らめいている。
二人で席について紅茶を飲む。甘みが加わっているからまろやかな味がして、茶葉の香りとイチゴの酸味が鼻に抜けていく。
「ふふ。このお茶はジャムを作った者の、秘密の贅沢だね。」
エルフは自慢にカップを持ち上げる。
「秘密の贅沢…にお招きいただき、ありがとうございます。」
画家がぺこりと頭を下げると、「気にしなくていいよ」と言いながらエルフは大きく笑った。
「ばあさんはすぐに人を茶に誘いたがるもんなんだよ。それに言っただろ、いいところに来たねって。」




