旅人と春キャベツのサンドイッチ
植物学者が花の種を買いにエルフの店を訪れると、普段は見かけない男性がエルフと話し込んでいた。
「いらっしゃい学者先生」
エルフが声をかけると同時に男性が振り向いた。
がっしりした身体にきらりと光る瞳、足元にはかなり大きなリュックサックが置いてあった。
「学者先生って、植物研究所にいる先生かい!」
はつらつとした声に少し驚いていると、男が更に話しかけてくる。
「俺は旅人で、色んな場所を旅しながら行商もしているんだ。エルフのばあちゃんの店や市場、研究所にも依頼されて種や球根なんかを運んでいるんだ。」
植物研究所では研究に必要な植物を業者から仕入れていて、彼はそのうちのひとりらしかった。
「そういえば同僚が今日あたりに目当ての品が届くかもしれないと話していました。もしかしたらあなたに依頼していたのかもしれません。」
旅人は太陽のような大きな笑顔を見せる。
「エルフのばあちゃんの店には色んなお客さんが来るなあ!」
「長いことやっていたらいつの間にかねえ。」
旅人から受け取った包みを棚にしまいながらエルフがしみじみと言う。
かなりの品数を注文していたらしく、机の上には様々な品が広がっている。
「それじゃあ、邪魔しちゃいけないから俺はそろそろ次の場所に行くぜ。何かまた頼むものがあったら連絡してくれよな。あ、学者先生も欲しいものがあったら言ってくれれば持って来るから。」
足元の大きなリュックサックを軽々と持ち上げて、旅人は二人に挨拶をする。
「あ。あんたちょっとお待ちよ。」
エルフが机から顔を上げて、帰ろうとする旅人を呼び止める。
パタパタと店の奥に消えたかと思うと、白い包みを持って戻ってきた。
「これ持っていきなさい、歩きながら食べたらいいんだから。」
「え!ばあちゃん悪いって。」
包みには春キャベツがたっぷり使われているサンドイッチが入っていた。
「パンは焼いたからカリカリだし、春キャベツもしんなりして丁度美味しくなってるから。ハムとチーズも入ってるから食べごたえもあるし、持っていきなさいな。」
カットされた断面から柔らかいキャベツの層が見える。
エルフの言う通り、パンはこんがり焼かれていて食欲をそそる。
美味しそう…
旅人と植物学者の心の声が重なったような気がした。
「あはっ、ばあちゃんの店に来るといつもなんか食い物をもらっちまうな。ありがたいよ。」
旅人は嬉しそうに包みを受け取る。
「あんたの仕事は体力がいるんだから、しっかり食べないとね。」
若者におせっかい焼いて沢山食べさせるのが年寄りの役目だから。とエルフは胸をはっていた。
チリン
旅人が閉めたドアのベルが鳴る。
「さてと」
エルフは植物学者の方を向いて言った。
「学者先生も食べるかい?サンドイッチ」
「あ…、はい。ぜひ。」
食べたそうな顔をしてたかな。と照れてしまう。
「まだまだ学者先生も若いんだから。それに腹ごしらえしてから買い物した方が、ゆっくり出来るだろう。」
エルフの店主は自分にもおせっかいを焼いてくれるのか。
少し気恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになる。
「すぐ用意するからね。座って待っていなよ。」
旅人にサンドイッチを渡した時と同じ様に、エルフはどこか嬉しそうな表情をしていた。




