つめたくて丸い石
まただ。
画家はうなだれた。
最近は調子が良かったのだが、また理由もなく心身ががっくりとくる時期が来てしまった。
雨が続いているせいかもしれない。
ベッドからカーテンを閉めたままの窓を眺める。
何かしなくちゃと思いながらだるくて何もする気が起きない。
かろうじて起き上がって、食事をして、また横になる。
絵を描く気分にもならずただ時間が過ぎていく。
だらけているとわかっているのに焦る気持ちも起こらない。
身体は寝ることに飽きているのにまだ横になっている。
うーん。
ごろんと寝返りをうつ。
そろそろ買い出しに行かないと食べるものが無くなってしまう。
そう思ってはいるが、中々起き上がる勢いがない。
結局そこからだらだらと時間が立ち、大体一時間を使ってなんとか外に出る用意を始めた。
家から一番近い、いつも行っているパン屋に着く。
部屋着を隠せるアウターと帽子を被ってぼんやりとパンを眺める。
いつもは何を食べようかワクワクする店内も、今はただ空腹を満たすだけの塊に見えてしまう。
とりあえずトレーとトングを手に取る。
何も考えられないなりに、いつも食べていたパンを思い出して作業的にトレーに置いていく。
流れのまま会計に向かうと、エルフがいた。
「おや、画家さん久しぶり」
「あ…。」
驚いて言葉が出なかったが、エルフがおばあちゃんよろしくつらつらと話し始めた。
「今日はうちで作ったジャムをパン屋に届けに来たんだよ。いつもは商人に頼むんだけどぼうやが熱を出して行けないってんで、久しぶりに自分で運んだんだよ。といっても量はそんなに持てないから少しだけね。」
「そう…なんですね。」
おばあちゃんって相手のことを気にせず一方的に自分の話しをすることあるよな…。と思いながら、ひとまずパンを会計に向かう。
商品は店員により手際良く包まれ、紙袋にまとめられる。
そこそこの量になった包みを受け取りながら会計から離れると、再びエルフに話しかけられた。
「そうだ画家さん、あんたこういうの興味ある?」
エルフはエプロンのポケットに手を入れ、何かを掴むと画家に差し出した。
「青い…石?」
つるんとしたようなとろんとしたような光沢をたたえた石は、水色という色を閉じ込めたような見た目をしていた。
「綺麗な石だろう。こういうのをうちの店で扱うのも面白いかと思って、試しに自分でも買ってみたんだよ。」
確かに見た目の綺麗さもあるが、目が覚めるような水色が涼やかで気持ちがさっぱりとする。
つやつやとしていて丸みもあるし、触り心地もよさそうだった。
「ひとつあげるよ。何個かあるから、たまたま会った人にプレゼントってね。」
そのままエルフは石を画家に手渡した。
慌てて受け取った画家は、驚いてエルフを見つめる。
「えっ…売り物にするんじゃないんですか?!」
「そうなんだけど、アクセサリーとかに加工してみようと思っててねえ。これはあくまで色や質感を見るために買った見本だから、まあ置物には丁度いいかもしれないけど。」
エルフはそう言って一方的に石を渡して、じゃあまたと言ってパン屋を出ていってしまった。
今日のエルフは何だか色々急だった…。
パンの包みと水色の石を握りしめながら、一時の間に起きた展開に呆然としてしまった。
家に戻り、机の上に紙袋と石を置く。
思ってもいなかったものが部屋に仲間入りし、青々と存在を主張している。
改めて手に取ると、透明感のある石の中に泡のような模様が見える。
表面を触ると、つやっとした見た目にまろみがあり手にしっとりと収まった。
この石を触っていると最近感じていただるさを、少しだけ遠くに感じる。
ひんやりとした石は、少しずつ手のひらの熱が伝わって、自分と同じ体温になる。
そっと机の上に置き直すと、ことりと音がした。
丸みのある姿が部屋の明かりを反射している。
ずっと自分を覆っていた膜のようなやる気のなさが取り払われたような気がしてきた。
無意識に机の上の石を触りながら、じっと外の雨音に耳を澄ませた。




