第16話 レモンスカッシュ
小説家はエルフの店を訪れていた。
以前来た時は店内を見なかったので、今日は寄ってみようと思ったのだ。
外は太陽の陽射しが強く、暑い風が顔を覆う。
そっと扉を開けると、来店を告げるベルが鳴る。
「はいはい、いらっしゃい。」
エルフは棚の整理をしていた。
小説家は軽く目線で挨拶をしながら店内を周っていたが、あるものに目が留まった。
暑いのかエルフは飲み物を飲みながら作業をしていたが、その飲み物が妙に気になる。
透明なグラスには氷がたっぷり入っているためか、水滴を冷たく纏っている。
レモンの輪切りが見え、薄い黄色が爽やかに満たされていて瑞々しい。
炭酸水なのだろうか、小さな泡が細く揺らめいていた。
そっと添えられているミントの葉が目にも鮮やかだ。
「あぁ。これ、レモンスカッシュだよ。飲むかい?」
整理に一区切りがついたのか、エルフは小説家に話し掛ける。
それほどまでに見つめてしまっていたのだろうか。
「む…。では、お願いしたい。」
飲食をするつもりで来店したのではなかったが、外の暑さと視覚の涼しさが手伝って、注文することにする。
エルフに促されて窓際の席で待っていると、トレーにレモンスカッシュを乗せたエルフが戻ってきた。
「はいどうぞ。」
炭酸が弾けてパチパチと鳴る音が聞こえる。
レモンの香りがテーブルいっぱいに広がっていた。
エルフはトレーを持ってまた作業に戻っていく。
そっとグラスに口をつけると、柑橘の酸味を感じる香りが一気に鼻腔を抜ける。
強い炭酸とレモンの刺激、ほんのりとした甘さが冷たさを伴って喉を通過していった。
口に入れると目が覚めるくらいの刺激なのに、後味はすっきりとしている。
いつも飲んでいるコーヒーとはまた違う刺激だ。
追いかけてくるミントの清涼感も良い。
きっとエルフが育てているものなのだろう。
たっぷりの氷は纏わりついていた暑さをさっぱりと払ってくれた。
視界が明るく広がったような気がして、小説家はレモンスカッシュを飲みながら、席からのんびりと店内を眺めることにした。
この店は面白い
エルフの長寿ゆえか基本的にはのんびりとした空気が店内に漂っている。
客層もそれに近く、穏やかな人物や近所に住んでいる人間が多い。
商品はエルフが作ったもの、庭で採ったものを中心に置かれているため、他で手に入れることが出来ない品がほとんどだ。(おそらく一部例外は除く)
内容的に女性客が多いのだろうが、男性も存外よく来店している様子もあり少し不思議な感じだ。(現に自分もそう)
それこそ自分と同じようにどこかでエルフと遭遇したり、声を掛けられて食べ物か何かを渡されたり、お茶に招待されたりしたのだろう。
家の近くのカフェとは違う空気に小説家はぼんやりと思考する。
普段とは違う環境にいると思考が切り替わって気分も変わる。
時々はこの店に来るのもいいかもしれない。
レモンスカッシュを飲み干した小説家は、エルフに話し掛けるために席を立ち上がった。




