踊り子と爪紅
学生がエルフの店の扉を開けると、先客が居た。
しなやかですらりと長い手足、美しく豊かな黒髪の女性。
鮮やかな赤い口紅で彩られた唇は綺麗な弧を描き、瞳はきらりと輝いていた。
つまり、とっても美しい人がいた。
えぇ〜!めちゃくちゃ美人さんがいる!!!
先客の女性はカウンターの近くでエルフと談笑をしている。
邪魔をしないようにそっと店内を見ていると、二人の会話が聞こえてきた。
「最近は遠出していたみたいだけど、どんなだったんだい?」
「それがおばあちゃん聞いてよ。誘われたから都市で踊ってきたんだけど、そこって王国の騎士様とかも来る店だったらしくてさ、女も男もいい相手を見つけるために来てるって感じでナンパはされるし同僚は浮かれちゃうしで、全く参ったわよ。」
からりと女性は明るく笑っている声が聞こえる。
盗み聞きをするつもりはないが、女性の声の通りが良くて会話の内容が聞こえてきてしまう。
「あらあら。いい男はいたかい?」
「まあ都会の騎士様だから、顔もガタイも良かったけどさ、踊りについてはあんまり良し悪しはわかってなさそうだったよ。踊りの時はろくにこっちを見ていなかったのに何だかペラペラと話しかけてきたしね!」
「それじゃだめだねえ…特にあんたみたいな踊り大好きってやつとは全くね。」
あっはっはと笑う二人の声が店内に響く。
つられて声の方向を見ると、ぱちっと女性はと目が合った。
「あ、ごめんなさいね、大きい声出しちゃって。」
美しい女性に話しかけられてドギマギしてしまう。
「い、いえ!大丈夫です…。」
「この子は踊り子でさ、うちの化粧品を良く買ってくれるんだよ。主に町の酒場やステージで踊るんだけど、たまに誘われて他所に行くこともあるらしくてねえ。」
芸能の仕事をしているからか。つい見入ってしまう美しさに納得してしまった。
見た目の美しさもそうだが、自信のある立ち姿や眼差しも含めて彼女の凛とした雰囲気となっている。
「そうそう、そうだった。今日はおばあちゃんの店に爪紅を買いに来たんだよね。」
踊り子はカウンターの上に置いてあった小瓶を手に取る。
小さなガラス瓶の中には明るく弾けるような色の赤い液体が入っていた。
「指先が染まってると映えるからね。それに私も気分が上がるし。」
ニッコリと微笑む彼女は夏の太陽のように明るく見える。
人を引きつける仕事をする人の笑顔ってこんなにも魅力なんだ。
「おばあちゃんのところの爪紅は他の所より発色がいいんだよね〜。なんで?」
「おっとそれは秘密さ。まあちょっと中身を工夫してはいるからねえ。」
エルフが自信あり気味に胸の前で腕を組む。
そっかあと踊り子は微笑んで、爪紅の代金をエルフに渡す。
「じゃあね。私、さっきも話してたけど町の酒場で良く仕事してるから、ぜひ観に来てね。」
すれ違いざまに学生のすぐ隣で微笑むと、軽やかな足取りで踊り子は扉を開けて外に出ていった。
「あの子の踊りは本当に綺麗だからねえ。一度本当に観に行くといいよ。」
「は、はい…。」
踊り子に話しかけられて緊張してしまった。
田舎では出来なかった体験に心が高揚している。
美しい爪先で踊る彼女を観てみたい。
学生は胸を高鳴らせた。




