オレンジゼリーと休憩
「ばあちゃん来たぞー!」
扉を開ける音と元気のいい声が飛び込んできた。
見ると、荷物を背負った旅人だった。
旅人はぐんぐんと店の中を歩き、エルフを見つけると大きく笑った。
「夏前の荷物のお届け!お待たせしたな〜」
カウンターの前で、よいしょと大きなリュックサックを床に降ろして伸びをする。
「ご苦労さまさ。ちょっとゆっくりしていったらどうだい。冷たいものでも食べるのはどう?」
「う〜ん…わかった。食べる!」
「よしよし」
エルフは店の奥へ行き、お茶の準備をはじめる。
旅人も荷物を預け、窓際のテーブル席に腰を下ろす。
エルフの店で仕事以外で長居したのはいつぶりだろうか。
ふと旅人は考える。
店に訪れる様になったころは、7年ほど前。
まだ行商はしていなくて、ただ旅だけをしている時期だった。
この町を訪れた時にエルフの店があることを教えてもらい、今思うと失礼だったが珍しいものみ見たさの下心で行ってみることにした。
どんなしわくちゃなお婆さんが出てくるのかと思っていたが、初めて見たエルフは少女のようで、更にスカーフを巻いて庭の土いじりと雑草抜きに精を出していた。
「おやおやお客さんかい。悪いねえ今ちょっと庭の作業をしていたところだから。入ってちょっと待っててくれるかい?あ、冷たいものでも食べる?」
「な…!」
このエルフ、うちのばあちゃんと言ってることとやってることがそっくりだ!!
あまりにも見た目と言動のギャップが大きいから驚くが、旅人のおばあちゃんも畑仕事にずっと取り組んでいたし、孫の自分を見るとすぐに何か食べさせようとしたり、子どもに甘かったり。
一瞬の出来事で共通点をいくつも感じて、旅人はなぜか力が抜けたような気がした。
「それじゃあお願いします!」
「はいよ、じゃあおいで。」
手についた土を払って、エルフは店へと案内してくれた。
店内の窓際のテーブル席で待っていると、しばらくしてエルフが戻ってくる。
「お待たせ、冷たいものどうぞ。」
グラスには氷水、そして白い皿の上に、半分に切ったオレンジが置いてあった。
あ、これは
「オレンジゼリーだよ。半分に切ったオレンジをくり抜いて、皮の部分に絞った果汁で作ったゼリーを入れるんだ。見た目も綺麗だし風味もいいよ。」
どっこいしょ。
ひとりごとを呟いてエルフは向かいの席に腰を下ろす。
庭仕事で喉が乾いたのか、氷水をごくごくと飲み始めている。
旅人はスプーンを手に取り、オレンジゼリーをすくう
柔らかくて少し張りがあるゼリーを口に運ぶ。
冷たいつるりとした食感が舌の上に乗り、続いて酸っぱくて甘い味が香りとともに広がった。
「うまいです!これ!」
考える前に先に言葉が出る。
にこにこしながらエルフは旅人を眺め、自分もオレンジゼリーを口に入れた。
これが旅人とエルフの初めての、出会いの思い出だ。
「ばあちゃんと会って7年くらいかあ…。」
「お、どうしたんだい。」
今、あの時と同じようにオレンジゼリーを食べながら二人は向かい合っていた。
「いや、なんか急に懐かしくなって。」
旅人はスプーンでオレンジゼリーをすくいながら、思う。
あの後エルフに旅の思い出を話したり、エルフが昔行ったことのある土地のことを聞いたりしながら過ごした。
それがきっかけでこの町に来るたびにエルフに会いに行く様になり、行商をはじめてからは商売相手にもなった。
自分はあの頃よりも多少はたくましくなり、荷物が重くなった。
目の前のエルフは変わらず、相変わらず少女のようでおばあちゃんのようなままだ。
「ばあちゃん、まだまだ元気でいてくれよ。」
「なにいってんだい。ばあちゃんはまだまだ元気さ。」
「それもそっか。」
二人で笑い合いながらオレンジゼリーを食べる。
旅も仕事も忘れて、ゆっくりと休息を過ごした午後だった。




