ひんやりプラムを丸かじり
チリンチリン
扉を開いてベルが鳴る。
画家がエルフの店に足を踏み入れると、店のカウンターではエルフとぼうやの二人が何かをかじっているところだった。
「おや、いらっしゃい。」
「こんにちは!」
二人に挨拶されて、画家は小さくお辞儀をする。
「あ…こんにちは。」
目線が自然と食べているものに向いてしまう。
艶々とした濃いピンク色のそれは、果肉が黄色く熟れているのが見えた。
「いいプラムが手に入って冷やしてたんだ。商人はうちに来たのにすぐ野暮用で呼ばれてねえ、ぼうやと二人でかじってたのさ。」
うん。とぼうやはうなずいた。
カウンターに置いてあるプラムはつやりと光っていて、甘い香りを放っている。
がぶりと食べたら甘酸っぱさと果汁が口に広がって…。
想像すると喉が鳴る。
「画家さんも帰りに持っていきな。まだうちには沢山あるからね。ぼうや、種は飲み込まないようにね。」
エルフはぼうやに布巾を差し出しながら自分のプラムをもぐもぐと食べ進めている。
「それじゃあお言葉に甘えて…。」
カウンターに置かれたプラムの籠をちらりと見てから、画家は買い物に取り掛かった。
エルフに初めて会ったときにダークチェリーを貰ったことがきっかけで、画家は果物を食べる機会が多くなっていた。
そもそもこの町に引っ越してくる前は、食にそこまで興味もなく、寝ずに絵を描きながら楽に食べられて、空腹を満たせれば何でも良いと思っていた。
環境が変わって、今は絵は以前ほど描いてはいない。
それでも寝食は人並みになってきたし、食事も自分が美味しいと思うものをとるようになった。
それから画家が果物を食べる時には、なんとなくその嬉しい気持ちに触れられるような気がしている。
画家の気持ちを知ってか知らずか、あれからエルフは画家に店で会うと果物をすすめたりくれたりするようになった。
初めにあった時にも感じたが、おばあちゃんが小さい子どもにお菓子やお小遣いをくれるようなおせっかいさと暖かさ。それをエルフからも感じてくすぐったくも、いつもありがたく受け取ってしまう。
品物を選んで会計のためにエルフに話しかける。
「おばあちゃん、会計をお願いします。…あっ」
しまった。
友達のことを間違ってお母さんと呼んでしまうように、エルフさんのことをおばあちゃんと呼んでしまった…!!
焦りでカウンターの前で身体が固まる。
「はいはいお会計ね。袋にプラムを一緒にいれておくからね。」
エルフは全く気にも留めず、いつもと同じ様に袋詰めを始めている。
そういえば店に訪れる商人や町の人はエルフのことをおばあちゃんといつも呼んでいた気がする。
エルフはかなり長命で、見た目は少女のようだが何千年も生きていると聞いたことがあった。
どきどきしながら代金を渡す。
呼び間違えたけど、間違いではなかった…。
失礼にならなくてよかったとほっとして、小さく息を吐き出す。
「三個いれといたからね、もう食べ頃だから帰ったらかじりな。」
ほいっとエルフは紙袋を渡してくれる。
「ありがとうございます…。いただきます。」
受け取った紙袋はほんのりと重く、紙越しに伝わる手触りがプラムの丸さを感じさせる。
「皮のところはちょっと酸っぱいけど、実がしっかり甘いから大丈夫。さあ、気をつけて帰るんだよ。」
「ばいばい!」
エルフの後にぼうやが元気よく挨拶をしてくれる。
画家はぺこりと小さくお辞儀をして、外にでる。
チリンチリン。
扉がしまり、ベルの音が聞こえる。
エルフさん、おばあちゃんみたいなこと言ってたな。やっぱり…。
さっき感じた焦りを思い出して一瞬ひやりとするが、エルフとぼうやがプラムをかじっていた風景を思い出すと、その緊張感が和らいでいく。
早く帰って、プラムを洗って食べよう。
冷たくすると美味しいだろうな。
帰り道を少しだけ早足で歩きながら、画家は紙袋をしっかりと持ち直した。




