番外編 嫉妬
チクショウ。
また取りやがった。
……ザバッ、ザバザバ。
ルルが風呂に入ってるときはいつだって、俺は風呂の外だ。無理に入ろうとすればルルが口を利いてくれなくなるからな。俺はいつだって、扉の前でルルを待つしかねぇ。あんな想いで作ったのに、その風呂にルルを取られるなんて……クソ。
作んなきゃよかった。
何度そう思ったか。
あんときの俺は究極のバカだった。
「バーツ。蜜月じゃないの?」
「そうですよ? 差し入れはちゃんと届けてますが、違うものがいいんですか?」
「俺だって、離れたくねぇよ。だがな、しなきゃいけないことができた」
「……離れてねぇがな」
「黙れ、ジャン。ここはすでに外界だ。この扉が俺をツガイと引き裂いている。……ルル」
「バーツ!? 呼び出した理由は? 家の中に入ったら俺たち帰るよ」
「……そうだった。お前らに頼みがある」
「珍しいですね。願いなら、ウーを呼びますか?」
「ダメだ! ダメだダメだ。あいつはダメだ!」
「あー。ツガイがらみ、か」
「……俺は帰るぞ」
「ジャン! てめぇ、俺のツガイが泣いてもいいのか!」
「なら、ウーを呼べ。一瞬でなんとかするぞ」
「うるせぇ! ウーはダメだ! 兎もダメだ!」
「あー。毛皮も負けそうなんですね」
「ルルは、俺の、毛皮が、好きなんだよ!」
「はぁ……。バーツ、怒鳴るとツガイさんが起きちゃうよ」
「……おまえら…小声で…しゃべれ……」
「バカですね」
「アホだな」
「黙れ!」
「バーツ、進まないから、本題を言ってくれないかな」
「そうだった。俺の可愛いツガイは、いい匂いがする。凄くいい匂いだ……まて! まだ話途中だ。帰ろうとするな!」
「なら、のろけを飛ばせ。じゃないと俺は帰る」
「クソが。……お湯に入りたいと言ってる。全身でお湯の中に入りたいらしい」
「それは……。女神が水浴びを温かいお湯でしたという記録があったと思いますが、それですか?」
「ああ、多分それだと思ってる」
「ということは、大きな壺がいるね」
「……増築だな?」
「そうだ」
「ウーなら一瞬だろ」
「ダメだ!」
「ケッ!」
「俺はツガイの傍から離れられねぇ。だから、お前らがやってくれ」
「いいけど、うるさくなるよ?」
「大丈夫だ。アンアンに時間をかける。ただ……一晩でやってくれ」
「……やりたくありませんね」
「そうだね」
「俺にツガイが出来たら、考えてやる」
「お前ら。チクショウ。しゃあねぇ。誰にもい言うなよ。いいな?……俺のツガイはな。……落ち人だ」
「「「!!!」」」
「早く言え」
「わかりました。やりましょう」
「ウーは入れないけど、サムとドンダは呼ぶよ。さすがに三人じゃ無理だからね」
「ブルー、増築だが、少し大きめにしておくか?」
「ですね。リック、どう思いますか?」
「メスがいるから減築ないしね。バーツ、ツガイさんがもっと部屋が欲しいと言ったときように今から大きくしておくよ」
「わりぃな」
「落ち人じゃ、ね。大事にしないと死んじゃうから」
「メスは大事だ。落ち人なら、より大事にしないとすぐに死ぬ」
「ジャン……。でっかいブラシって、バカにして悪かったな」
「はぁ? ……俺は、やっぱり降りる」
「待ってください! これ以上人数が減ると本当にできません。バーツも謝ってください」
「謝ったのに、それに謝るのか? ……すまん?」
「ふざけてるのか?」
「バカ二人、やめてくれ。とりあえず、資材の調達があるから、少し後でやっておくよ。それでいいかな?」
「すまねぇな……」
人生で一番、頭を下げた時だったかもしれねぇ。そうしてまで作った風呂を見せた時のルルは可愛かったなぁ。頬を赤く染めて大喜びしてた。思い出すだけでもオス冥利に尽きる。
あんときの俺は自分のメスにオスらしいことができて有頂天だった。だが、それも一瞬だ。間オスならぬ、間風呂に自分のメスを取られるなんて……俺は、大間抜けだ。チクショウ。
――ガタガタ。
出る!
ソワソワ……。
ウロウロ……。
――コンコン。
「バーツ、ドアを開け……」
――ガタン!
「バ、バーツ?……待って? ねぇ!? まだ、髪の毛、乾か、しても、ない……ちょっと、待って……」
「問題ねぇよ」
違うところも、全部濡れるんだ。
毛皮が濡れてようがどうでもいい。
風呂にツガイを取られた寂しさを、ツガイの温もりで癒さねぇと、な。
――ドサッ。
愛してるぜ、ルル。




