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異世界に落ちたら愛を知った  作者: 青井空


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第三補給部隊

ミスリルの採掘と、蟻の外殻の解体が始まった。明日には本格的な発掘部隊も到着する予定だが、それまでに少しでも進めておきたい。もちろん、私も参加するつもりでいた。


「ルル、ズキョップは重いだろ。休んでろ」


そう言いながら、バーツは当然のように私を自分の背中へ引き寄せようとする。


――これ、家の掃除のときと同じ体勢……。


「お前の場所はここだ」

「……嫌」

「この姿勢のほうが背中が決まる」


晴れやかな笑顔で言い切るけど、その理屈、さすがに使い過ぎじゃない? 自分でも分かるくらい、目が据わる。


「……自分で掘る」

「ルルがするより、俺が動きやすいほうが数もこなせる」


視線が強い。

無駄に強い。

なんかもう、緑の光線でも出てるんじゃないかってくらい強い。


——もぉ。

なら、これでどう?


「……外ではしたくない。バーツにくっついてるときの顔、見られたくないから」


バーツの顔がみるみる赤くなり、わなわなと震え出す。


「……ああ。そいつはルルの言う通りだな」


——勝った!


と、思った次の瞬間、バーツは、私の手にスコップを握らせ、その上から自分の手を重ねて――背後から覆いかぶさるような姿勢になった。


「バーツ?」

「これでお前の顔はみえねぇよ」


見上げた彼の顔は、どこか照れたように笑っていた。


――そうじゃない!


当然、私は全力でバーツを引きはがし、そのまま置き去りにして採掘へと向かう。


「ルル? ル、ル。 ルゥールー!」


背後から半泣きの声が追いかけてきたけど、知らない。



採掘穴のそばで、第三補給部隊から少し離れて指示を出しているリックさんを見つけた。ちょうどいいので、気になっていたことを聞いてみる。


「ねぇ、これスコップ? 魔法は使えるもの? 魔法陣無いけど……」


手にしているのは、板をそのままスコップの形にしたような簡素な道具。先端に少し丸みがあるだけで、見た目はかなり古い型のミスリル製スコップ。でも、さっきバーツはこれを“ズキョップ”と呼んでいた。


「いや、魔法は無理だね。これはズキョップって呼ばれてるけど、ルルちゃんは違うのかな?」

「うーん、似たようなものが在ったけど、スコップって呼ばれてたから聞いてみただけ」

「そうなんだ」


リックさんは少し考えるように視線を落とし、それから納得したように頷いた。


「これはね、『女神のズキョップ』って呼ばれてるんだよ。女神が教えてくれた、掘るための道具らしい」

「女神の……?」

「たぶん、教わった誰かが発音できなかったんじゃないかな。そのまま残ったんだろうね」


思わず小さく息をつく。


「そうなんだ。ありがとう」


名前が少し変わっただけ。それ以外はほとんど変わっていない。女神から教えられて何百年も経っているはずなのに。


――そうだった。

この世界には、“改善”って概念がほとんどないんだっけ。


胸の奥で何かがほんのわずかに引っかかる。けれどそれは、はっきりと形になる前に、するりと流れていった。




蟻塚のすぐ奥——そこに、不自然なほど白く光る地表が広がっていた。


——あれ、分かりやす過ぎない……?


半信半疑のまま、ズキョップで地面を叩く。

ゴン、と硬質な手応えが返ってきた。


「これだな」


短くそう言って、いつの間にか隣に来たバーツは、地表を剥がすように掘り始めた。表層が割れ、その下から白銀の塊がごろごろと姿を現す。


——やっぱり。

岩のように硬いが、間違いなくミスリルだ。


バーツがズキョップでガンガンと叩き、持ち運びやすい大きさに砕いていく。砕けた塊は、すぐに第二部隊の面々が回収し、トカゲの待機している場所へと運ばれていった。


——あれ?


ふと周囲に目を向けて違和感に気づく。第三補給部隊の面々が頭に鍋を被ったまま、ずっと祈っていた。リックさんが指示を出せばきびきびと動くのに、少しでも手が空くと、すぐにその場で祈りの姿勢に戻ってしまう。


一方で第二部隊は——昨夜、徹夜で水の運搬をしたのだから、本来なら休んでいなければおかしいのに、「まだ動けます!」 そう言って、疲労の色を押し隠しながら、第三補給部隊の作業を手伝っている。倒れそうなのに、誰も止めない。


——ここ……。


蟻塚。

そして、大量のミスリル。

それに——あの祈り。


一瞬だけ、視線がこちらに向けられている気がした。


——どういうこと?


ほんの一拍遅れて、考えがまとまる。


——もしかして。

ここって、たくさん血が流れた場所だから……祈ってないと、常識がないって思われるんだ。


とりあえず、急ぎ、手を合わせて軽く祈る。


——よし。


私はズキョップを肩に担ぎ直し、次の作業——蟻の解体の手伝いへと向かう。


ミスリルは、私には少し硬すぎた。





日が暮れ、夕食の時間になり、焚き火が三つ作られた。


一つが、ブルーさんが肉番として座っていて、リックさんとジャンさんは、第三部隊の人と話し込んでいた。


二つ目は、肉番はサムさん。周りには第二補給部隊の人たちが倒れ込むようにして眠っている。あれじゃあ、声をかけても起きないだろうな。


最後の一つはウーさん。肉を焼きながら、新しい肉を切り分け、串に刺して、塩を振っていた。そうか、味加減はウーさんにしかできないって言ってたっけ。今日は人数増えたから大変じゃないかな……。


味付け+串刺しが終わった肉が出来上がると、タイミングよく、ブルーさんとサムさんが取りに行く。肉番は重要な任務らしく、この三人しかしてはいけないことになってる。意外なことに、リックさんもジャンさんもダメなんだって。焼き加減が微妙って言ってた。


そして——絶対に配置してはいけない人物がいる。それは、ドンダさん。焼き上がる前に“味見”で肉が消えるらしい。想像して、思わずクスッと笑ってしまったけど、バーツは真顔で「笑えねぇ。血が流れる」って言ってた。どれだけ皆が激怒して、ドンダさんをボコボコにしたのかを聞かされて、少しだけ背筋が寒くなったのを覚えてる。……うん。全部食べちゃうのはダメだよね。


「バーツもご飯作る?」

「ああ、ウーのところで焼く」


そう言って、左手に持っていた肉を軽く掲げて見せてくる。もう片方の手には、干し野菜の袋。ってことは——


「あと、野菜だけのシチューを作る」


気づいた私に、バーツはどこか得意げな顔を向けてきた。


「ありがとう、バーツ」


こんな場所で、野菜をたくさん使うシチューなんて凄く贅沢。嬉しくなって、思わずバーツに抱きついた。本当に大好き。


いつもならこのまま連れ込もうとするバーツも、さすがに今は料理優先らしい。そのまま私を連れて、ウーさんのところへ向かった。


「ウーさん、どれ手伝えばいい?」

「ダメに決まってるだろ」


——え?


そのまましゃがみ込もうとしていた体勢で、バーツを見上げる。視線が合ったバーツは、なぜか苦い顔をしていた。


「でも、前より人数が増えたから、作るの大変だよ?」

「ダメだ」


即答だった。

次の瞬間、ひょいと抱き上げられる。


「やめときやめとき。手ぇ出さんでええから」


バーツの肩越しに見えたウーさんは、大きくため息をついていた。


「お前は疲れている。寝てろ」


そのまま、有無を言わさず整えられていた寝床へと運ばれる。いいのかな……ごめんね、ウーさん。



ご飯が出来ても、焚火のところにはいかず、二人で食べることになった。向こうでは第三補給部隊がわいわいと盛り上がっていて、楽しそうな声が絶えない。


——ちょっとだけ、羨ましい。

でも。こうしてバーツと二人で食べられるのは、毎日かもしれないけど、それはそれで嬉しかった。


「ルル、うまいか?」

「うん。野菜が甘くてトロっとしてる。凄くおいしい」


バーツも嬉しそうに、尻尾をばたばたと振って肉に齧りついている。かわいい。


——ん?

昨日の光景? 


思い出さないよ? 

十本足の猪なんて。


今だけは、おいしいご飯であってほしいからね!






朝、第四補給部隊と発掘部隊が到着。


凄い勢いでトカゲに荷物を積み始めた、と思ったら、第三補給部隊が持って帰るらしい。全員首を横に振って拒否してるように見えるけどいいのかな。


リックさん曰く、私たちは、私たちだけで帰ることが重要なんだって。帰りの水だけ持って、敵に遭遇しても逃げまくり最短で帰る、とリックさんが溜息をつきながら教えてくれた。


———お疲れ様? 

リックさん 戦い、大変だったもんね。


ということで、バーツに抱きかかえられて出発。


本気のバーツは、バイク並みに速かった。途中、虫に遭遇したみたいだけど、バーツが水刃飛ばして戦闘にならず。そのまま走りながら、干し肉食べて、水飲んで、一回も休まずに、夜通し走り抜けた。


昼前には草原に到着。


はやっ! 

皆、凄いね。
















とある種族の長老:「なぜ断られたのです? 女神の手料理を?……恐れ多くて食べられなかった、と? ふふ……わたくしは、大丈夫ですよ?」


とある種族の長老:「ツガイの料理は…食べてはなら……むぅ…なら…ん」


とある種族の長老:「女神は我が毛並みがお好きで、手料理を食べさせてもらえたと伝承にある。ちょっと行ってこ…」


ウー:「狼の長老さん、ヨダレだらだらでアカンて! 威厳どこ行きましたん? ほんま、ちゃんと止めてや!」


ブルー:「おやめください。血が降ります。ルル剣を持ったバーツは最強です。お・や・め・く・だ・さ・い」


リック:尻尾を向けて寝たふり——俺、疲れた。明日は絶対に爆速で帰ることにしよう。

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