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異世界に落ちたら愛を知った  作者: 青井空


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総力戦

今日は練兵日。


といっても、実際に兵を仕切っているのはリックさんたちで、私は見学だ。そのために必死で階段を上ってきた。今日は頑張って一人で上がったから、今、足はがくがく。


――バーツ、そんな顔しないで。

この震えは死にそうなんじゃなくて、ただの疲れだから。


心配症なバーツは、オロオロと私の様子を伺っている。そもそも階段を上る前から心配していて、一人で上ると言ったときのバーツは、まるでカマキリの鎌を持ったドンダさんが目の前にいるみたいな顔をしていた。


どんな顔だよ、って思うけど……でも、本当にそんな顔だった。





一人で上り切って見上げる空は、気持ちいい。毎日が晴天だけど、砦の上から見る空は、地上より、ほんの少しだけ青に近い。それだけで、不思議と背筋が伸びて、気持ちが前を向く。


「あ、バーツ。ドンダさんがいるよ。ジャンさんもいた」

「あぁ、あいつらは『初めて組』だ」


塀の内側で、ドンダさんとジャンさんが槍の扱い方とか教えてる。


「実戦はあっちね」


反対側に行くと、塀の外で実地訓練してた。


「すごい…………黄色?」


訓練は、虫相手に戦う。本番同様の人数で作った、ベテランと新人混成チームと、万が一に備えて、遊撃隊がすぐ後ろで待機してた。その中、凄い目に着く色が……蛍光の黄色。


「ん? あれか。新人だ。虫にやられかけてもな、あの色ならすぐ目に入るからな」


鎧は国の支給品で、砦が一括管理している。どうやら新人用があるみたい。


「……この世界にもあるんだ」


そう思うより先に、笑いがこみあげてきた。どこの国でも、「とにかく目立たせる」なら、この色に行き着くんだね。世界が違っても、考えることは案外同じみたい。リックさんが手を振り、各チームへ指示を出している。


陸戦のみのチームが一つ、二つ、三つ。

波状に前へ出る。


連携は崩れていない。

新人が混ざっているのに、動きに迷いがない。


リックさんの手がこちらを指し、次の指示を出す。


指された左を見ると、椅子に腰を下ろし、下半身を革帯でしっかり固定した兵士が弓を引いていた。その横には、使い込まれた車いす。合図と同時に、矢が放たれる。


風を切る音が、一瞬だけ空を裂いた。


――当たった。


思わず呼吸が止まった。胸が熱くなって、視界がにじむ。泣いちゃいけない。そう思って、私は反射的にバーツの胸に顔を押しつけた。……顔を上げようとすると、「まだだ」とでも言うように、彼の腕がそっと私を留める。それが……なんか、おかしくて、優しくて。


深呼吸をして、何事もなかったように、もう一度草原を見る。弓矢は、ちゃんと届いていた。


次は、魔法と弓の連携。

閃光が走り、音が響き、間を置かずに弓が続く。


虫二体がひっくり返っていた。

蛍光色の鎧の新人が近づき、確実に止めを刺す。


――右を見ると、メルたちが並んでいる。

トートさんたちだ。




弓を提案したものの、連携で戦う方法なんて知らなくて、本当に悩んだ。


虫は巨大化して飛べなくなっているから、空へは逃げられない。けれど、複眼と異様な敏捷さのせいで、正面からの矢が当たらない。いろいろ考えて、思いついた作戦は、初めは三つあった。


一つ目。足場を崩して敏捷性を奪う。

――却下。兵士たちにも被害が出る。


二つ目。塀際に追い込み、回避の幅を狭める。

――却下。囮が必要になる。そんな役目、もう誰にも背負わせたくない。


残ったのが、複眼を逆手に取る方法だった。


複眼は、すべてに正確に対応できるわけじゃない。だから、一斉射撃。フェイントを入れて、避けた先に本命を置く。三人一組で息を合わせれば、必ず当たる。ただし、効率は悪い。一本当てるのに三人。虫の数を減らす戦いには向かない。どれもダメで行き詰まり、ふと思い出したのがゲームの世界だった。


――剣と弓と回復と……魔法!

メルとの共闘なら……。


閃光や響音で一瞬の“硬直”を生む。その隙を弓で射抜く。ミスリルのプレートに魔石と魔法陣を刻めば、日常的に魔力を溜められるから、一度に使う魔力は、最小限で済む。


——無理、かも。


作戦はできたけれど、正直に言えば、違う作戦を考えないといけないって思っていた。


傷を負ったオスにとって、自分たちを追い詰めたメルと一緒に、もう一度戦うなんて簡単なはずがない。

それ以上に、戦場の中心に立ってきたメルが「補助に回る」ことを受け入れるなんてありえない。


でも。


オスたちは、「生きて虫を倒せるなら、なんでもやる」と言って、歯を食いしばりながら笑おうとしてくれた。メルたちもそうだった。トートさんが真っ先に同意してくれたおかげもあって、何も言わずに頷いてくれた。


彼らは誇りを捨てたわけじゃない。ただ、それ以上に「生きて、戦う」ことを選んでくれた。今、目の前で、皆が同じ方向を向いて武器を構えている。声を掛け合い、間を合わせ、動きを揃えている。その光景を見ていると、胸の奥からまた涙が込み上げてくる。


「バーツ、すごいね」


目の前で見せられる新しい戦い方に安心と感動を覚えて、思わずそう言うと、バーツは短くため息をつく。


「……あぁ」


少し渋い顔をして軽く頷いてたけど、手放しで喜んでいる感じじゃない。


「どうしたの?」

「指示飛ばしてるのは、リックとブルーのとこだけだ。あいつらはな、槍だけじゃねぇ。弓も魔法も、“群れ”として噛み合い始めてる。だが――それ以外は、まだ槍だけだ」


静かな声なのに、ずしりと重かった。言われて、もう一度草原をよく見る。確かに、多くのチームは、まだ、「陸戦だけのチーム」の戦い方だった。虫一体づつなら勝てる。でも、数で押し寄せる虫相手だと、これでは倒せない。


指示者がもっと欲しいけど…………槍が強いだけじゃ、指示者としては行き詰まる。全体を見て、流れを読んで、仲間を動かせなければ意味がない。草原を見つめたまま考え込んでいると、バーツが、私の顔をちらりと見て、口の端を上げた。


「指示役が足りねぇ、って顔してるな」


図星で、何も言えない。


「だがよ」


彼は、肩をすくめる。


「指示を出す“器”があるなら、話は別だ。育てりゃいい。群れは、そうやって出来上がるもんだ」


――うん。そうだね。バーツ。




実地訓練が終わり、そのまま酒場で反省会になった。テーブルにビールが並び、空気が少し緩んだ、その瞬間。


「おい、リックとブルーだけじゃ、回ってねぇぞ」


バーツが、ビールを一口煽ってから、いきなり言った。


――え? もう切り込むの?


一瞬、場が静まる。


「わかってる」

「それです」


リックさんとブルーさんが、ほぼ同時に答えた。


リックさんは頭を抱え、ブルーさんは天井を仰いでいる。同じタイミング、逆の仕草――ちょっとだけ、笑ってしまった。


「考えたんだけど……補佐係を置くのはどうかな?」


二人の顔を見ながら、提案してみる。砦から酒場までの間、うんうん悩んで出した、私なりの答え。二人のそばに補佐を置いて、動きを見て学ばせる。同時に、忙しい二人の手助けにもなる。


話し終える前から、二人の目が、ぱっと輝いた。


「それだ!」

「すぐ人選しましょう」


迷いがない。もう、頭の中で候補が浮かんでいる顔だった。話し合った結果、リックさんにも、ブルーさんも、それぞれ三人ずつ補佐をつけることにした。全員、狼。


「……なるほど」

思わず、納得してしまう。


狼は、もともと群れで狩りをする種族だ。仲間の動きを見て、合わせて、判断することに慣れている。もちろん個体差はあるけれど、この役割には、きっと向いている。






補佐が少しずつ現場に馴染み始めた頃。


夕方、酒場でビールを飲みながら、ジャンさんがぽつりと言った。


「……鎧が足りません」


その一言に、場の空気がわずかに重くなる。


「わかってる。オスが増えてきたから、足りなくなるとは思ってた。……だが、皮がない」

リックさんは溜息混じりに、肉にかぶりついた。


皮は虫から剥ぐ。でも、一着の鎧を作るのに、虫二匹分くらい使うし、壊れたら、また作り直しだから、当然、追いつかなくなる。行き詰り始めた。


私は、無意識にカップの淵をなぞりながら考えた。


――うーん。

強化も兼ねて、木を使えないかな。樹脂を塗って要所だけ使う。そうすれば、皮の使用量も減らせるし。これは、ベーベさんに相談しないと……。


——でも……。

最近のベーベさん。忙しすぎて、目の下が黒い。量産担当のヘルガさんは、倒れるって叫んでるらしいし、オルガさんは、まだ持ちこたえてるけど、そのチームが限界みたい。


――でも……。

うん、やっぱり、私にはベーベさんしかいない! 


そう覚悟を決めた瞬間。


ぞぞぞぞぞーーーーっ!!

背筋が凍った。


バーツの目から、冷凍光線が出てるんですけど!? 

ピカーーッて光ってるんですけど!? 

なんで!? 

止めて!? 

こわっ!


「ど……どうしたの? バーツ?」


涙が滲み始めるぐらいに、こわっ……。


「あぁ……急に、心臓が握りつぶされた気がしてな。つい、殺気が漏れた」 


――あ……。


危険は感じないかなー。 

警戒止めてイイんじゃないかなー。

だから、その全力の警戒やめて!


周囲も、なんとなく察して視線を逸らしている。誰も助けてくれない。なんとかバーツをなだめて、後日、ベーベさんのところへ行ったけど……三日後ね。








ベーベさんは、目の下を真っ黒にして、少しやつれた顔で笑って迎えてくれた。


「僕はねぇ。僕の戦ぃをや~めなぃよ」

そう言って、鎧の改修を引き受けてくれた。


でも、大きな身体の端から見える奥の部屋は、蜂蜜の空き瓶が、部屋を埋め尽くすほど山積みになっていた。


――それでも、笑ってくれるんだ。ありがとう、ベーベさん。







































なんだ?

心臓を直接握られた。


殺られる!


なんだ!どこからの攻撃だ!

なぜルルから!?


不安だ。舐めよう。

ルルを舐め尽くさないといけない気がする。


ペロペロペロペロペロペロペロペロペロ…。


とりあえず中も匂いを付けて、ルルのあんあんをいっぱい聞かないと不安だ。

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