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異世界に落ちたら愛を知った  作者: 青井空


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今日は長老会で、虫の調査結果の報告と今後の方針を話し合う。


——何度来ても、緊張する。


説明しようと席を立つと、集まった長老たちの視線が一斉に私へ向いた。説明しようと口を開いたら、口の中が少し乾いてるのに気が付いて、つばを飲み込む。


「先日の調査ですが、虫は……川にある金色の粉を食べて体内で魔石に変え、その中の魔力を使って巨大化しています」


今回の調査で分かった、一番大きな発見だ。


「虫の始まりが山にあって、粉も山から流れてきている。巨大化を止める鍵は、山にあるかもしれません」


地図を広げ、山へと続く線を指でなぞる。


「普通に目指すと山に辿り着くまでに一か月以上かかるし、補給線もつなげません。ただ、山へ行く途中には、各種族の城が点々とあります。どこも虫に襲われて放棄されたままです。だから——城を一つずつ取り返し、移住しながら進軍していくべきだと思います」


会議室がざわめいた。


「調査が必要だ」

「放棄から長い、どんな状況か……」


そんな声がいくつか上がる。息を整えて、続けた。


「ただし、本格的な奪還が始まれば、今の国の守りは手薄になります。そのために、オスたちの練兵をもっと進めたいんです」


酒場には今、希望者がどんどん集まってきている。槍を配り、基礎訓練を始めたけれど——それだけでは、足りない気がしていた。


「新しい武器を作りたいんです。弓といいます。遠くから攻撃できる武器です。それに魔法陣を組み込んで、オスたちが日々魔力をためておけば——いざというとき、一斉に前方へ降り注がせる範囲魔法ができるはずです」


その瞬間、会議室がしんと静まり返って、空気ごと止まったような感じがした。


——やっぱり、夢物語に聞こえたかな。


でも、誰からも反対の声は出なかった。そこで、思い切ってもう一つ提案してみた。


「同時に、メスたちの婚活を進めたいと思います」

「こんかつ、とはなんだ」


狼族長老が不思議そうな顔で聞いてきた。


「オスとの出会いの場です」

「出会ったオスの執着はどうする。一方的に付け回すことにもなりかねん」


猿族長老が顔に皺を寄せて、懸念を聞いてくる。


「それも対策は考えています」


長老たちは顔を見合わせ、それから静かにうなずいて、深く頭を下げて承認してくれた。肩の力が抜けて、無意識に、溜息のような深い息が口から洩れる。


——まだ。もう一つ。どうしても聞かなきゃ……。


この機会を逃したくなくて、前から気になっていたことを猿族の長老に尋ねた。


「……オスが死ぬと、国がそのツガイを回収するって、聞いたんです。本当ですか?」


長老は顔を強張らせると、目を伏せ、重々しく答えた。


「オスを失ったメスは、自ら命を絶つことが多い。だから国が回収し、再び立ち上がれるようにしてきたのだ」


——回収じゃない。これは……保護だ。


胸がぎゅっと締めつけられて、痛い。

オスが死ぬと、メスも死ぬ。それは、この世界の理みたいだった。



深く息を吐いた。


「……守るものは多い。でも、きっとやり遂げてみせます」


そう言うと、長老たちは黙ってうなずいた。その静かなうなずきに、信頼と期待の重みを感じた。





弓を作ろうと考えたのは、あの日——城の塀の上で指揮をとったときだった。ちょうどその場所は、草原に向けて攻撃しやすい場所で、風が通り視界も抜けていた。弓を使うのに最適だった。


それから、弓の構造や組み込む魔法陣を考え続けた。何枚も試作の魔法陣を紙に書いては、大きさや威力を検証。結果、魔法陣は二つ組み込むことにした。


一つは、オスたちが日々ためた魔力を魔石に蓄えて、いざというとき一斉に前方へ降り注がせる範囲魔法。もう一つは、空気中の魔力を利用して常時発動する、矢の補正と距離の増幅。こちらは大幅な強化は望めないけれど、ないよりずっといい。


ただ問題があって、私は弓の正確な構造を知らない。仕方なく見よう見まねで「弓らしき」絵を描いて、ベーベさんに相談しようと工房へ行ったら——。


「オルガだ。熊族のオスで、ベーベの親戚だ」


バーツがお腹に腕を回して、耳元で教えてくれた。


——ああ、話を通してくれていたんだ。かっこいい。


「は、初めまして。ルルです。この魔法陣なんですが——」

「知ってるー!わかってるー!見せて見せて!なにこれ!あーなるほど、これで矢を飛ばすのね!?すごいすごい!じゃあ矢じりに魔力を込めてここに回路走らせれば魔石の消費減るし、風魔法と組み合わせれば弾道安定するし!あ、でも材質によっては共鳴しないかもだからミスリル必須!でもミスリル高いし重いし供給足りないし!だったら複合材で層にして反発力あげればいいのよ!矢羽根はどうする?風抵抗少なくするならバッタの羽?いやいや耐久ならカマキリのほうがいいかな!あーでもあれって入手少ないしコスト合わないし……!!!」


——すごい。

理解も早い。しゃべるのも早い。そして、止まらない。


「黙れ。ルルがしゃべれねぇ」


バーツの低い声が響いた。その一言で、オルガさんの口がぴたりと止まった。


「ご、ごめんね……」


思わず笑ってしまう。勢いに押されっぱなしだったけれど、嫌な感じはまったくしなかった。むしろ——楽しそうだ。改めて紙を広げ、描いた弓の構造と魔法陣の配置を示した。


「えっと、こういう機能を考えていて……」

「わかるわかるー!これをここに繋げばいいのよね!?それで射出の瞬間に魔力を解放して——あっ、でもそれだと暴発の危険が——いや待って待って、逆にそれ利用して爆裂矢も作れる!うわー楽しそう!作る作る!作らせて!」


——止まってない……。


テンションも理解も、さっきより上がっている。もはや私の説明など必要ないレベルだ。結果、ほぼしゃべらないうちに、オルガさんが弓の試作を引き受けてくれることが決まっていた。


「ありがとうございます。材料はミスリルで、この部分だけ樹を使って……」

「ミスリルか。ベーベのところでも使ってるからねぇ。前は酒用のカップでしか使ってなかったんだけど、今は槍でたくさん使うんだよねぇ。この間ベーベが酒場のカップを回収して溶かしてるって言ってたし。正直、弓に使う分あるかな」


「補充できそうな場所はあるか?」


バーツが短く尋ねる。


オルガさんは軽く顎に手を当てて、さらっと言った。


「森の奥にまだ埋まってるはず。ただ、蟻塚の傍にあるから、掘り出すのは大変ね」


——つまり、弓を作る前に、蟻退治から始める必要がある。


深く息をついて、バーツと目を見合わせた。


「……長老会で相談、だね」


彼は無言でうなずいた。































今度こそ俺は負けねぇ。

ツガイのかわいいおねだりなんざ、絶対に屈しねぇ——女神に誓ってやる。


……女神はツガイだ。

じゃあツガイに誓ってやる。


ツガイに誓ってツガイは連れてかねぇ!

……ん?



とりあえず。

ルルは今回もついてくると言うだろう。

だがな、今回は調査じゃねぇ、戦いだ。

可愛いお前を連れて行けるかよ。


だからお前の仕事は、長老に相談した時点で終わりだ。

今度こそ——巣に閉じ込めてやる。


オスが決意するとどれだけのもんか、ここらで俺のメスにわからせる必要がある。

俺は負けねぇ。



そう決意して、無言でルルにうなずく俺だった。

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