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異世界に落ちたら愛を知った  作者: 青井空


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番外編 僕譚

「我ら一族の始まりは、遠くに遡る。


昔々、我々は岩場で生活していた。ある日、猿族が居住していた岩場が崩れ、一族の仲間が生き埋めになった。そこから、深く長い闇に入る」


長老は深い声で、ゆっくりと続きを語った。


 


猿族は生き埋めになった仲間を必死に救出しようとしたが、多くが埋まり、手も足りずにいた。その時、女神の僕である狼族・虎族・兎族・熊族の戦士たちが駆けつけ、岩をどかして仲間を救い出したという。女神から力を貸すよう伝えられていたとされ、猿族たちは涙を流しながら深く感謝した。


救出後、猿族は限られた食料を振る舞い、僕たちにささやかな宴を開いた。


彼らは口々に言った。「我々の力ではない。人を助ける手と、種族を超えて意思を伝える言葉を、女神からいただいたのだ」と。また別の話では、喧嘩をするたびに女神から「仲間が増えるのだから、種族を超えて理解と尊重をし合いなさい」と戒められることもあるという。どの話にも、女神の慈悲と英知が滲んでいた。


その時、猿族はほぼ進化を終えていたが、女神を慕い、僕になりたいと申し出た。


翌日、狼族が女神にこの願いを伝えると、女神は「仲間が増えることは嬉しい」と応じ、実を携えて会いに来ると告げた。猿族は歓喜し、村の立て直しと並行して、女神をもてなす宴の準備に奔走した。宴の日取りは翌々月の満月に定められた。


しかし、岩場崩落の影響で食料は乏しく、とっておきの果物を求めて狐族の後を追い、採り残しの実を探す日々が続いた。


 


同時期、別の土地で迷子になった赤子の子狐が、女神に拾われ、一族の村へ帰還する。


狐族の長老は孫の帰還を祝して宴を準備し、女神への感謝を示した。その際、狐族も僕にしてほしいと申し出た。


長老はかつて、蟻の軍隊に両足を食い尽くされ、狐族の救助により一命を取り留めたものの、足は元に戻らなかった。進化した狼族や他の僕たちの姿を見て、少しずつ大きくなる虫の脅威を案じ、女神の力に頼りたいと願っていた。


さらに、涙ながらに手振り身振りで訴えた。


狐族は戦闘向けの獣からは弱いと馬鹿にされ、知恵の獣からは悪賢いと嫌悪され、生産向けの獣からは口先だけと遠巻きにされている。事実ではないにせよ、話し方や言い方が悪いのだろう、と。


狐からお願いしたことになるとまた何か言われる。だから、とっておきの果物を差し出す代わりに「子狐が可愛いから女神が僕にした」ということにしてほしい、と。


女神は部族ごとに事情があることを理解され、その案を受け入れた。


果物を採取する日、狐族は巧みに猿族を撒いて果物を確保し、実を手にして進化を遂げた。


一方、猿族はとっておきの果物こそ手に入らなかったが、十分な食料を整えて女神を待った。


 


宴の日、一族が集まった広場に、恩人である僕たちが現れた。新たに加わった者は毛皮を被り、顔は見えなかった。まず長老が女神と会うため、広場横の建物へお招きした。


その新たな一名は毛皮を脱ぎ、「女神は来られなくなった」と告げた。そのオスは背中に白き羽根を纏い、女神のツガイを名乗った。


族長はどうしてよいかわからず、ただ差し出された女神の樹を、緊張しながら押し頂くのみだった。


女神が来られなくなったことを一族に言うことができず、宴は、助けてくれた僕たちと毛皮を着た女神のツガイが参加する形で行われた。


酒や肉、果物が並ぶ。猿族だけが使うことのできる"火"も広場中央で燃え上がり、猿族の知恵を誇示していた。


一番奥には壇上があり、恩人たちと長老が並ぶ。


族長がお礼と乾杯の言葉を述べた、その直後だった。近くに座っていた長老の耳に、ぼそぼそとした話し声が届いた。一部しか聞こえなかったが、女神のツガイは焦った表情で狼に小さく語りかけていた。


「……早く帰りたい」「……コハルが吐いているかもしれない」「……一人だけの命じゃないのだぞ」


その狼もまた、涙目で応えていた。


「……勝手なことをしてコハルに怒られる」「……コハルに嫌われるかもしれない」「……今回のことをコハルに知られたら」


長老が「大丈夫ですか」と声をかけると、女神のツガイは「もうそろそろ暇する」と答え、宴が始まったばかりであったにもかかわらず、凄い勢いで飛び去っていった。


宴の後、猿族は女神の実を受け取れなかったことを一族には口外できず、長老と側近の重要な秘密とした。


 


猿族は、女神から授かった樹に、魔石を浸した水を注いで実を成らせることを決めた。


女神の樹である以上、普通の水を与えることはできない。貴重な水を用いる必要があると考えたからだ。一族はこれを承認し、魔石に水を浸す方法を採用した。


魔石は崩れた崖の奥深くにあり、最も優れた戦士でさえ採取が困難な場所にあった。それでも一族はこれを是とし、最も優れた一番・二番の戦士が採取に向かうことを決めた。村の安全よりも、女神の樹を優先したのだ。


こうして、猿族の樹だけが金色の実を結んだ。猿族は、自らの献身が女神に届いた証として、この実を「女神の実」と名付け、大切に飾った。


 


長老はそこで一度言葉を切り、窓の外の山を見つめた。


「我らの物語は、この先も続いている」


それから正面に顔を戻すと、話を続けた。


 


女神の実を得られた理由を他の種族が問うと、猿族はためらうことなく、どの種族の女神の樹も尊いものだと、水の作り方を教え、必要であれば魔石まで融通した。


その後しばらくして、種族を超えたツガイが誕生した。


以前にもパートナーはいたものの、お互いが認識し合うツガイの誕生はこれが初めてだった。祝福にふさわしいと判断して女神の実を食べさせると、種族を超えて子が生まれた。猿族は皆、女神に祈りを捧げた。


その後、オスが実を食しても変化はなく、メスばかりが女神の寵愛を受けるのを、羨ましく思った猿のオスがいた。自らも女神の実を感じたいと強く願った彼は、食べるのがダメならば入れればいいと考え、実行し、成功した。大人では効果がなく、成長を迎える直前の子供にだけ力が宿ったと伝えられている。こうして誕生した存在は、後に「メル」と呼ばれるようになった。


それが祝福であったのか、過ちであったのか——その答えを知る者は、もういない。


ただ、女神の実の影響でメスの卵巣が減ったことを受け、猿族はメルにする人数やメスの保護を慎重に調整しながら、今日に至るまで継続している。


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