傍に
水浴びでもするか。
布切れを掴んで、裏の水場へ向かう。
いつもは血を流す程度で済ませるが、今日は違う。布に水を含ませて、肌を磨く。何度も、何度も。俺たちは毛並みが重要だが、肌はそれほどでもねえ。なのに、手が止まらねえ。
俺は顔がいいわけじゃねえ。身体だってごついだけだ。それでも、少しでも小綺麗にして――俺のメスに、嫌われねえようにしなきゃならねえ。
布を握る手に、力が入る。擦りすぎて肌が赤くなってるのに、まだ足りねえ気がした。
いつもより丁寧に、この大きすぎる身体を洗う。
ガキの頃、魔法陣を使えるようになりたくて、体内で魔力を産む卵巣ってやつを入れた。適合すりゃメルになれる。この世界の希望だ。見た目だって、小柄で細くて、女神みてえに美しくなる。
俺は――適合しなかった。
だから、こんなになっちまった。
メルやメスの倍以上ある身体。
醜い身体だ。分かってる。それでも、卑下したことはねえ。努力してきたし、オスの中じゃ強いほうだ。戦いでも生き残ってきた。
……だが、ツガイに選ばれなきゃ意味がねえ。結局、そこなんだ。
あいつは"落ち人"だ。匂いからして、魔力が強い。卵巣を二つ持ってるはずだ。伝承の通りにな。落ち人――常識が通じねえ、強い魔力の持ち主。ツガイも分からねえ存在。……だが、俺のだ。誰にも渡す気はねえ。あいつは、俺のツガイだ。
無意識に握っていた桶が、ミシミシと悲鳴を上げた。手を止めて、深く息を吐く。
……抑えろ。気持ちを抑えろ。
メスは少ねえし、魔力の強さが"価値"の世界だ。強い子を産むならメルを選ぶ。当然のことだ。オスが選ばれることなんて、まずない。……ツガイが惹かれるのも、きっとメルだろう。こんな醜い身体の俺より、美しいメルを選ぶ。
どうする。
取られたら、殺るか?
メルが一人なら殺れる。が、複数なら勝ち目はねえ。
逃げるか?
どこに? 砦の外か? 虫がいる。
どうする。どうする――
チッ。堂々巡りしても仕方ねえ。とにかくまず、ツガイを俺の腕の中に取り戻さなきゃならねえ。
尻尾を念入りに洗って、着替えて家に戻る。
まだ、寝てる。
俺の寝床で、ツガイが眠ってる。
まるで夢みてえだ。
そっとベッドに入って、ツガイの首元に鼻を埋めた。その匂いだけで、心が陽だまりを食ってるみてえに温かくなる。
俺は、温もりを分け与えてくれるツガイがほしかった。ずっと探し続けてた。国の隅々まで。それでも見つからねえ。寂しさが胸を締めつけて、何かがすり減っていく毎日だった。
温もりだけでいうなら、機会がまるっきりなかったわけじゃねえ。メルは魔力回復のためにオスに抱かれる。誘われたこともある。でも、全部断った。逃げてきた。
ツガイを愛してる。会ってもいねぇが、どこかにいると信じてた。だから裏切れねえ。絶対に、裏切らねえ。
気づけば、涙がこぼれてた。頬を伝って、ツガイの肌に落ちる。拭おうとしたが、止まらねえ。
ツガイの匂いだけが、俺を少しだけ救ってくれる。
……やっと、会えた。
ずっと、ずっと探してた。
俺のメス。




