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異世界に落ちたら愛を知った  作者: 青井空


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フライパンと餃子

今日は戦いはお休み。


皆それぞれ、思い思いに自主練をしているみたいだ。私たちは朝ごはんを食べたら、鍛冶屋へ行く予定。……正直、すごく楽しみ。


 


テーブルの上には朝食が並んでいる。焼いた肉に果物、そしてなんと芽レタス! 昨日やっと八百屋に行けて買ってきた。


この芽レタスは、正直なところ何だかよくわからない。この世界ではそう呼ばれていて、昔の落ち人たちが育てていた野菜らしい。見た目は芽キャベツみたいに小さく、丸まった葉が幾重にも重なっている。味はレタスそのものだ。今日は、それに木の実のオイルと塩をひとかけして食べる。お肉ばっかりだったから、本当に口も胃も幸せだった。


八百屋には他にも野菜があったけど、身体に合わないみたいで落ち人が食べられるものは限られている。しかもメスはあまり野菜を口にしないから、買いすぎるとすぐ怪しまれる。芽レタスか白菜か、買う野菜をかなり悩んだ。


白菜は名前と形だけがそれで、葉は濃い緑、味はどこかほうれん草に近かった。朝ごはん用なら芽レタスだよね、と思って今日は芽レタスにした。


八百屋だから果物も売っていると思ったら、果物はお店では売らないんだって。買いたいな……と思っていたら、「オスが自分のメスのために果実を摘みに行くのは、愛情と誇りの証だ、買うわけがねぇ」ってバーツがどや顔で教えてくれた。


「あれ? でも、蜜月中も毎日果物あったよね?」

「あぁ、あれは仲間たちの祝いだ」


いきなりバーツの顔が歪んだ。


「正直、ムカついたが、蜜月中の俺はルルのそばから離れられないからな、しょうがない」


いかにも苦渋の選択と言わんばかりの説明だけど、離れられないって……ううん、そっちより突っ込みたいのが、お祝いを私に食べさせるのが難しい選択なの?


顔いっぱいに疑問が出ているのが自分でわかった。


「安心しろ、あれは独身オスだけの祝いだからな」

「え? なんで独身オス限定?」

「大丈夫だ。俺にはルルだけだ」


私の頭に頬を擦りつけながら言い続ける。すごく浮かれた様子で……。


――全く、全然、よくわからない……。


じっくり聞き出したところ、独身限定の理由は、メスがやきもちを焼くから、だった。――本当に? オスの願望じゃ……と、顔を引きつらせて疑っている私がいる。でも、よくわからないオスのルールを理解するより鍛冶屋が大事だ。


今日の果物の林檎にとりかかる。これも少し紫がかっているから本当に林檎かはわからない。でも紫がかると、すごく美味しい林檎の味がする。大事に一口ずつ噛み締めるように食べて、食事を終えた。


さあ、鍛冶屋へ行こう。


 


「今日は~なにぃ作るんだぁ」

「フライパンと鍋です」


カウンターみたいになっている台の上に、持ってきた作成図を広げてベーベさんに説明する。


「これはね、フライパンと言ってお肉を焼く道具で、ミスリルを浅い縁付きの平たい丸型にしてほしいの。持つところはこんな感じ。底に魔法陣を入れて、全体的にまんべんなく薪の火に当てたようにしたくて。温度調節はここで……。こっちはお鍋ね。お水を入れて長い時間火にかけたいから、こんな感じで……」


もしかしたら今までで一番、必死になって説明したかもしれない。この世界、調理法がとにかく"炙る"しかないから、焼くとか煮るとかの調理法から説明が必要だった。


でもね――もう飽きた。もう限界だ。切実に、炙り肉以外が食べたい……。


 


作ってもらおうと思ったのは、味覚の限界ということもあったけど、もう一つは小麦っぽい粒を見つけたことも理由だった。


八百屋の横に少しだけ積まれていて、何これ?と思って覗いたら、土壌用の肥料だと言われた。でもどう見ても小麦っぽい。草原にたくさんあるってバーツが言っていたし、フライパンと鍋さえ手に入れば、餃子やうどんもどきくらいは作れそうだと思ったのが依頼のきっかけだ。早く食べたい……まあ、調味料は塩だけだけど。


異世界ものの本では、ここからパンを作ったりするけど……私にはそんな技術がないのが泣ける。


 


「んぅ。これは~むずかしくなぃ。出来たら~連絡するぅ」

「ありがとう、ベーベさん」


――嬉しい。すごく楽しみだ。


「危険じゃねぇのか。大丈夫なのか?」

「そう言うと思ったからミスリルにしたの。魔法陣だから危なくないよ?」


それでも不安らしく、バーツは完成後のフライパンを睨みつけながら、私が餃子もどきを作っている間ずっと戦闘態勢で張り付いていた。――まあ張り付いているのは、いつも通りだけど。


 


































 


なんだコレ。……うめぇ。


"ぎょーざ"っていうらしいが、美味すぎる。噛むと肉汁がじゅわーと出てきやがる。いつもの肉にはねぇ、引き締まった味がして、これがまた食欲をそそりやがる。野菜が入ってると思えねぇくらい、満足だ。


材料を集めるところから作るところまで、危険がないか見張っていたが、危険どころじゃなかった。


このぎょーざは、芽レタスと肉の端っこのぼろぼろになったとこ、それにルルが「しょうが!」ってはしゃいでた寄生木を混ぜて作っていた。


寄生木なんて、子どもが木からもいで投げ合うオモチャだろ? ついでに「かわ」って呼んでた部分は、肥料の粒を砕いて粉にして、水でこねていた。


……正直、どっちも食いもんとは思っていなかったがな。食えるどころか、バカみてぇに美味いとは。本当に、俺のツガイは素晴らしいな。


ルルの使っていた"ふらいぱん"てやつもすごい。火なんか出していないのに熱くなっていて、しかもルルが持つ分には熱くも重くもないようになっていやがる。


……完璧じゃねぇか。


オスが近づいてきたら、あれでぶん殴るんだろ。ルルは可愛いから、やっぱり武器は持たせておいたほうがいいと思っていたけど――いい武器、手に入れたな。


俺はその日、やっと少し安心して眠れた気がした。

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