番外編 蜜月を邪魔する狼たち
バンバンバン!
居間でルルとまったりしていると、外界への扉から無粋な音がした。
もちろん、聞こえない。
「……ルル。そんな目で見るな。可愛すぎるだろ、俺のメス。桃があるが……食うか? ほら、動くな。俺がやる」
ルルの髪にキスをしながら聞く。
今日、俺のツガイに会えるかもしれない。
その可能性が、俺を毎朝、森に向かわせた。俺のツガイには、新しいものを食わせてぇ。だから昨日の果物は捨てる。当然のことだ。だが、たまに歯を食いしばるときもあった。
そんな過去を思い出しながら、ルルの匂いをもう一度深く吸い込む。
「バーツ、誰か来てるんじゃない?」
「いや? 聞こえねぇな」
「……」
「みーかんはどうだ?」
ルルの頬を舐めながら、今日用意したもう一つの果物を思い浮かべた。ルルが言った「みかん」。発音を何度も心の中で反復する。ツガイにはかっこいいところを見せてぇ。今に見てろ。完璧に発音してやる。
ガンガンガン!
うぜぇ。
だがもちろん、出るつもりはない。ルルを膝の上から降ろすなんて、俺はしねぇ。
「バーツってば。誰か来てるよ?」
「……出ねぇ」
「え? だってすごく叩いてるよ?」
ドンドンドン!
「バーツ?」
「うぜぇぇ! 俺は俺のメスといちゃついてんだよ! 誰だ邪魔する奴は!」
マジで血祭りにしてやる。
「ルル、俺のかわいいツガイ。クソバカを血まつ……挨拶してくるから、巣に行ってくれるか?」
両手で大事に抱えて運ぶ。温かくて柔らかくていい匂いで、俺のメスは最高だ。
巣に閉じ込めて鍵をかけた瞬間、顔が歪むのがわかる。速攻で外界の扉を開け……ざまに、ストレートを叩き込んだ。
「ぐほぉ!」
ぶっ飛んでいった狼が一匹。ジャンか。他に狼が二匹、リックとブルーか。
「てめぇら。何しに来やがった!」
左にいたリックに回し蹴りを放つが、バックステップで避けやがった。
「待て! バーツ待ってください!」
右にいるブルーが慌てて手を挙げ、ストップをかけてくる。
「これ、ツガイ祝い、な」
リックが「こわー!」と言いながら、籠いっぱいの果物を差し出してきた。森の果物だ。精鋭しか入れねぇ場所のやつ。
「そうか、ありがたいが、今度から扉の前に置い……!!!」
ピタッと止まった俺は、お礼を言いかけて――無言でジャンに前蹴りを見舞った。飛んでいったジャンをさらに追撃して二、三発殴ったところで、リックとブルーが俺を止めに入る。
「ジャン、それはダメです。家の中は覗いてはいけません」
「ぅぅぅ。いてぇ。ツガイさんいるかと……」
「気持ちはわかるが、バカだな」
ブルーとリックにも手が出そうになったが、理性でどうにか踏ん張った。だが許せねぇ。
「ぶっ飛ばす……」
低く呻く。
「まぁまぁ。お詫びに、次のバーツの戦いの日、ジャンが代わるってさ」
勝手にリックが話を進める。ジャンは眉をひそめて、不満そうに唸っていた。
「当然ですね。蜜月中のメスを覗こうとするなんて、ジャンが悪いです」
ブルーも味方になってくれず、渋々ジャンは「代わる」と言った。
まだ高ぶった感情は収まらないが、ジャンは仲間だ。殺したいわけじゃない。だからここで納得する。
「二度とすんな!」
果物を持ってさっさと家に入る。
深呼吸だ。深呼吸をしなければならない。急いで巣に戻って、ルルの首筋に鼻を埋めて、深呼吸。
すーはー、すーはー。
やっと少し落ち着いた。けど、俺についてたルルの匂いが薄まっちまった。
「え? ちょ? 今? またするの? さっきベッドメイク終わったとこだよ?」
「くぅ、俺のメス。……ルル、愛してる。俺のツガイ」
落ち着かないもやもやした心を埋めるため、ルルの愛をいっぱい、勝手に受け取るバーツだった。




