エピローグ 家
今日は、ビルの家にいる。
私たちはお城に住まないと、激しく抵抗したら、長老たちが、自分の国に家を建ててくれた。今日はビルに用事があって、ひと季節、この不思議な家で過ごす予定だ。
「ねぇ、バーツ」
「ん?」
いつものように私を膝の上に抱き上げて、蕩けた顔で見てくるけど、……おかしいよね。
「バーツ……この壁は……なに?」
私が指した指の先にあるのは、新しい壁。前回泊ったときにあった壁は、十メートル以上は離れていた。なのに今は三メートルもない。明らかに部屋が小さくなってる。なんなら少し狭すぎる気もするけど、ぴったりくっついていられるのでバーツは満足そう。
「ああ。いらねぇぐらいに部屋が広かったからな。あの部屋は、ルルが遠すぎた」
眉間に皺を寄せ、唸り始めたバーツ。
たしかに、前の状態はジョーガンと同じ間取りなのに、大きさは三倍以上あるから、配置されていたキッチンとテーブルとか、一つ一つが離れていた。合わせて、それを見た時バーツが「チッ」と舌打ちしてたのを思い出す。
「でも、家に入るときは変わらない大きさだったけど……」
家の外見と内面の大きさが合わず、首を傾げながら周りを見渡す。不思議な感じがする。
「ああ、それか。ルル、お前が寂しがらねぇように、家を建てたんだ」
「え!?」
――どこに?
唖然としていると、ニヤニヤしながら教えてくれた。
「本当は俺が作りたかったが、ルルのそばを離れられねぇからな。しょうがねぇ、リックに頼んだ」
「え……」
――どこに建てたの?
――ってか、私がいるときに改装してもいいんじゃ……?
――それより、なんでリックさん?
「ウーさんじゃなくて?」
いっぱい疑問があったのに、声に出したのはこの一言だった。……それが、ダメだった。
「あ゛?」
いきなり、重低音で、唸り声に近い音を喉から出したかと思ったら、ブワーと殺気に近いオーラを出し、私の目を至近距離で見つめてきた。
――あ。
瞳孔が開いてる。
「なんで、ウーだ?」
「あ゛? なんで兎だ?」
「毛皮か?」
「あんなちっせぇ尻尾に負けるわけがねぇからな。尻尾じゃねぇ」
そうぶつぶつ言い始めると、自分の尻尾を撫で、「いや、毛皮も負けてねぇ」といい始めた。
そして、私を抱き立ち上がるとそのままベッドに行く。
抵抗はしなかった。もう無駄だとわかってるから。毛皮バトルでいうなら、狐が連勝中だと思うんだけど、狼族の相手はどうも兎らしい。そこを、今の一言が貫いてしまった。
ここで、バーツの毛皮が一番だよというと、デレたバーツの愛情いっぱい朝までコース。抵抗すると、やきもちで燃え上がったバーツの朝までコースになる。どっちも朝までなら、抵抗する力すら温存したい。
大人しくしていると乗り気に見えたのか、バーツは少しずつご機嫌になっていく。ベッドの上で温もりを分け合いながら、「俺の方が好きだろ」と言ってくるバーツ。
「私は、毛皮はあまり興味がなくて、ごめんね。でも、毛皮より、バーツ自身がすごく好き」
これで朝まで確定だってわかってるけど、やっぱり伝えなきゃいけない言葉ってあるよね。
昼、起きるとバーツ上で寝てた。
「おはよ、バーツ」
「あぁ、今日もかわいいな、ルル」
蕩けたバーツの顔とセリフは、スルーするに限る。
「いつも私を乗っけて重くないの?」
「幸せだな」
――うん、スルー。
「家ってどこに建てたの?」
昨日残していた疑問を聞いてみる。
「あ? 今住んでるだろ?」
私のご飯を作るために、着替え始めたバーツが何気なく教えてくれる。
――は!?
まさか……。
「バーツ……まさか、コハルさんのツガイみたいに、家の中に家を建てたの?」
「ああ、さすが女神のツガイだけあって、素晴らしいことを考える」
バーツは尻尾を大きく振って、大絶賛してるけど、意味が解らない。
「壊して立て直しもできるが、長老どもがうるせぇからな。これならうるさく言われねぇし、ルルも近くにいる」
ニコニコと綺麗な笑顔で部屋から出て行った。
昔、コハルさんのツガイが、家の中に家を建てて、絨毯を敷いて暮らしたと聞いたけど、あの時は絨毯文化を知るだけだった。でも、あれ自体がオスの生態だったんだ。メスの近くにいるためだけに、家の中に家を建てるなんて……衝撃だ……。
びっくりが止められない。
「ルル、肉の用意ができたぞ。エプロン結んでくれ」
この仕事は、絶対に私の仕事で、変わらない私の仕事の依頼に、驚いていた心が日常に戻ってくるのを感じる。キッチンの前に行き、エプロンの紐を結わいていると、バーツが何気なく聞いてくる。
「なぁルル……ここはジョーガンより狭ぇ。それが気になって、元気が出ねぇのか?」
声が上から降ってきて、何気なく見上げたら、バーツの緑の目が真剣に私を見つめていた。
「違うよ。驚いただけだから、大丈夫」
「……たしかに、そうだ。メスだし、なにより女神だ」
全然違うのに、今度は落ち込み始めた。
「俺が、ルルと一緒にいたがったから。こんな小さい場所、一つなんておかしいよな」
――ん?
「わかった。お前の気持ちは、ツガイの俺がよく知っている。当然だ。唯一のお前のオスだからな」
今度は胸をはり始めた。
――うーん。
エプロン結び終わったけど……。
「わかった。あと五つぐらい、部屋を建ててもらう」
「は!?」
そのまま、私を抱き上げて、外に出て行こうとするバーツの耳を、わっしと握りしめる。
「いてぇー!」
「あ……ごめんなさい」
……と、神妙にしている場合じゃない。
「いらないから!」
ちゃんと断らないと、このよくわからない不思議な家だけじゃなくて、もう数件追加とかお城みたいじゃない……って、だからお城、あの形だったのか!
ここ数日で、色々な真実を知って、この世界の闇を覗いた気がした。
――オスって……。
私が本気でいらないって言ってるのがわかったみたいで、その後、家は増えなかったけど、各国の家、共通で、不思議な内装になった。
大きすぎるのもあれだけど、これは……狭すぎだと思うよ、バーツ。




