ルナキンでの密会(見習い女神リリス)
ルナキンでの密会(見習い女神リリス)
ルナミス帝国が誇る二十四時間営業のファミリーレストラン、『ルナミスキング』――通称『ルナキン』。
そのポポロ村支店は、今日も平和な喧騒に包まれていた。
冒険者たちが魔獣討伐の成果を自慢し合い、農家のおじさんたちが今年の『太陽芋』の出来について熱く語り合っている。
僕はドリンクバーの前に立ち、グラスにメロンソーダを半分、カルピスを三割、最後にレモネードを少しだけ注いだ。
この『黄金比率』は、僕のファミレス友達が編み出した究極のオリジナルドリンクだ。
「お待たせ。エターナル・エルキシル(仮)の完成だよ」
「わぁっ! ありがとうキッド君! さすが、分量完璧だね!」
窓際のボックス席に戻ると、待ち構えていた少女がパァッと顔を輝かせた。
彼女の名前はリリス。
年齢は僕と一つ違いの十七歳。ピンク色のジャージに健康サンダルという独特すぎるファッションセンスで、ジャージの胸元にはなぜか『初心者マーク』の刺繍が縫い付けられている。
見た目はちょっと(かなり)風変わりだけど、彼女はこれでも正真正銘の『神様』だ。
正式名称は『第4種惑星創造神格公務員見習い』。
要するに、見習いの女神様である。
「う〜ん、甘くて美味しい! やっぱりルナキンのドリンクバーは最高だね!」
「それはよかった。ポテトも揚がったみたいだから、一緒に食べよう」
僕は山盛りのフライドポテトをテーブルの中央に置いた。
リリスは手取り十八万円(税引き後)というギリギリの予算で『エターナル』という自分の世界を創るため、日々このルナキンに入り浸ってパソコン(エンジェルすまーとふぉん)をポチポチしている。
いつも金欠でお腹を空かせている彼女を見かねて、僕がお小遣いからこうして奢ってあげているのだ。
「むぐむぐ……キッド君は本当に優しいなぁ。私の上司のルチアナ先輩なんて、私がお腹空かせてても『女神は霞を食べて生きなさい』って言って、自分だけ高級焼肉行っちゃうんだよ? 絶対キッド君の方が女神だよ」
「僕は男だし、ネフィリムだよ。それに、ポテトくらい安いものだしね」
僕は苦笑しながら、自分の分のジンジャーエールを口に運んだ。
あの妖精キュルリンが創り出した『厄災迷宮』の騒動から、数日が経っていた。
義母さんの強烈な説教(と号泣)の後、僕はいつも通りの平和な日常に戻っていた。
ただ一つ変わったことと言えば、背中に白銀の『ルクス』と漆黒の『ノワール』という、二振りの物騒な剣を背負うようになったことくらいだ。普段は布でぐるぐる巻きにして隠しているけれど。
「そういえばさ、キッド君。数日前のあの迷宮、一瞬で消滅したらしいね。ポポロ村の自警団のおじさんたちが『リベラ先生が六法全書で叩き割った!』って噂してたけど……」
「あー……うん。義母さんもかなり怒ってたからね。でも、最後は僕がちょっと内側から壊したんだ。夕飯のキッシュが冷めそうだったから」
「……」
ポテトを齧っていたリリスの動きが、ピタッと止まった。
「……えっ。あの、Sランクの古代兵器『合成死蟲将軍機』をワンパンで消し飛ばして、世界を二分する『光と闇の神剣』を引き抜いて、最後は空間ごと迷宮を真っ二つにしたのって……キッド君なの?」
「うん。……え? なんでリリスがダンジョンの中の詳しいこと知ってるの?」
僕が首を傾げると、リリスはわなわなと震えながら、テーブルの上に自分の『エンジェルすまーとふぉん』をバンッと置いた。
「キ、キッド君! 今、神界と魔界で、キッド君のこと知らない神様いないよ!?」
「えっ?」
「これ見て! ゴッドチューブのアーカイブ映像!」
リリスが差し出したスマホの画面には、僕が合成死蟲将軍機の攻撃を最小限の動きで躱し、『ホーリー・バースト』を放つ瞬間がバッチリ高画質で映し出されていた。
さらに画面の右側には、信じられない量のコメントと、『スーパーチャット』と呼ばれる投げ銭の履歴が滝のように流れている。
『【魔王ラスティア】のチャンネル:【緊急生放送】迷宮に取り残されたネフィリムの少年(超絶美少年)のステータスがヤバすぎる件(※アーカイブ視聴数:8億回突破!)』
「は、はちおく……?」
「そうだよ! ルチアナ先輩と魔王のラスティアさんが、勝手にゲリラ生配信してたの! キッド君の圧倒的な無双っぷりに、全次元の神様や魔族が大熱狂して、同接数百万、スパチャの総額は数億Gを超えたって噂だよ!」
「…………」
僕は頭を抱えた。
義母さんから『力をひけらかして目立つような真似はしちゃダメよ』と酸っぱく言われていたのに。
僕が夕飯の時間を気にして急いでいた姿が、まさか世界中の神々に『余裕の無双劇』として大々的に配信されていたなんて。
「あわわ……義母さんにバレたら、今度こそ六法全書で僕の頭が割られるかもしれない……」
「だ、大丈夫だよ! 人間界にはまだゴッドチューブの電波は届いてないから! でも、神界の上層部では『あのネフィリムの少年をうちの陣営に引き込め!』って大騒ぎになってるんだよ?」
リリスは周囲を気にしながら、声を潜めて教えてくれた。
「それに……ルチアナ先輩たちみたいに、ただ面白がってるだけの神様ならいいけど。中には『ワイズ』って呼ばれてる、炎上や悲劇をわざと起こしてPVを稼ぐような、危ない新入りの神様もいるから。キッド君、目をつけられないように気をつけてね」
「炎上をわざと起こす……?」
「うん。平和な村をわざと魔王軍に襲わせて、勇者に助けさせるヤラセ配信とか平気でやるの。キッド君みたいに強くて目立つ子は、そういう神様の『最高のコンテンツ』にされちゃうかもしれないから……」
リリスのピンク色の瞳が、本気で僕を心配して揺れていた。
ポンコツで見習いだけど、彼女は本当に心根の優しい女神様だ。
「教えてくれてありがとう、リリス」
僕はニコリと笑い、冷たくなったメロンソーダを一口飲んだ。
「でも、心配いらないよ」
「え?」
「神様たちが僕をどう思おうが、動画でどれだけ騒がれようが、僕のやることは変わらないから」
僕は、背中に布で巻かれた双剣の重みを確かめる。
「僕は勇者になりたいわけでも、世界を救う救世主になりたいわけでもない。ただ、義母さんと一緒にこのポポロ村で平和に暮らしたいだけなんだ。もし、その日常を理不尽な悪意で壊そうとする神様や魔族がいるなら――」
僕の脳裏に、十年前に僕を鳥籠に閉じ込めていた悪党たちや、その悲劇を「コンテンツ」として消費しようとする存在の顔がよぎる。
「僕がこの手で、全部斬り捨てるよ。神様が相手でもね」
穏やかな声だったが、そこには確かな意志と、ネフィリムとしての『覇気』が込められていた。
リリスは一瞬ハッとしたように息を呑み、それから、ふにゃりと安堵の笑みを浮かべた。
「……そっか。そうだよね。キッド君には、あのリベラ先生っていう最強の『お母さん』がついてるもんね。神様だって、六法全書(物理)には勝てないかも」
「あはは、間違いないね。義母さんが本気で怒ったら、世界神でも泣かされると思うよ」
僕たちは顔を見合わせ、二人でクスッと笑い合った。
ルナキンの窓の外では、夕暮れの陽射しがポポロ村の豊かな畑を黄金色に染めている。
「さてと。そろそろ帰らないと、また義母さんに怒られちゃう。リリス、今日はパフェも追加していいよ。僕の奢りだから」
「えっ、本当!? やったぁ! チョコレートパフェのジャンボサイズ頼んでいい!?」
「いいよ。その代わり、エターナル(世界創造)の仕事、ちゃんと頑張ってね」
「うんっ! 私、キッド君やポポロ村の人たちが安心して暮らせるような、優しい世界を創るね!」
満面の笑みでパフェを頬張る見習い女神を微笑ましく見つめながら。
僕は、僕自身の『日常』を絶対に守り抜くことを、改めて心に誓っていた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
ポポロ村のファミレス「ルナキン」での、リリスとの平和なドリンクバー密会をお届けしました!
キッド本人も、ついに自分が神界の『ゴッドチューブ』でスーパーバズを起こしてしまったことを知ります(笑)
有名になっても驕ることなく、ただ「義母さんと村の平和を守る」と誓うキッド。
そして、リリスの口から語られた危険な新入り神『ワイズ』の存在……。これが、今後の波乱の伏線となっていきます。
もし「リリス可愛い!」「キッドの覚悟がカッコいい!」「オカンなら神様にも勝てそうww」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回『第9話:法律事務所への来客と、オロチ会長の土下座』
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