【イクリプス・スラッシュ】空間ごと切り裂く一閃
【イクリプス・スラッシュ】空間ごと切り裂く一閃
頭上から、何十トンという岩盤が轟音を立てて崩れ落ちてくる。
妖精キュルリンが創り出した『超高難易度ダンジョン』は、コアとなる二振りの神剣が抜かれたことと、外からの『六法全書(物理)』による前代未聞の破壊工作によって、完全に自壊を始めていた。
普通の人間なら、絶望して押し潰されるのを待つしかない状況だ。
だが、今の僕の手には、光と闇を司る最強の双剣がある。
「――ふぅ」
僕は深く息を吸い込み、右手の白銀の剣『ルクス』と、左手の漆黒の剣『ノワール』を、顔の前で静かに交差させた。
ネフィリムの血が、二つの相反する極大のエネルギーを僕の体内で循環させ、完璧な調和へと導いていく。
交差した刀身の接点から、バチバチッと激しい火花のような魔力が弾け飛んだ。
それは瞬く間に巨大な渦となり、僕の背後に『純白の神気』と『漆黒の魔気』で形作られた二頭の巨大な竜の幻影を顕現させる。
「聖魔竜王剣――」
――その瞬間。
遥か上空、神界のコタツ部屋では、世界神ルチアナの持つエンジェルすまーとふぉんから、けたたましい警告音が鳴り響いていた。
『ピピピピッ! 警告! 観測地点における魔力濃度、測定限界を突破! 次元崩壊の危機!』
「はぁぁぁっ!? ちょっと、なにこの数値! 神界のメインサーバーが焼き切れるわよ!」
「嘘でしょ……!? あの子、光と闇を反発させるんじゃなくて、完全に『融合』させてるの!? 創世記の神々ですら成し得なかった奇跡よ! 一体、何を撃つつもりなの!?」
魔王ラスティアが、あまりの規格外な事態に頭を抱えて絶叫する。
ゴッドチューブの同接はすでに三百万を突破し、コメント欄は言葉を失い、ただ『!?!?』という記号だけが滝のように流れていた。
そんな神々のパニックをよそに。
僕は、落ちてくる巨大な岩盤と、その遥か上にある分厚い迷宮の天井を真っ直ぐに見据えた。
「――【イクリプス・スラッシュ】!!」
交差させた双剣を、天に向かって全力で振り抜く。
放たれたのは、ただの斬撃ではない。
光と闇が完全に融合した『黄昏』の波動。
それは、巨大な二頭の聖魔竜が螺旋を描きながら天を穿つ、絶対的な破壊の奔流だった。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!
僕の剣から放たれた黄昏の一閃は、迫り来る岩盤を『消滅』させ、数十メートルの分厚い迷宮の天井を、まるで熱したナイフでバターを切るように、いとも容易く両断した。
いや、斬り裂いたのは岩壁だけではない。
キュルリンが創り出した『迷宮という空間そのもの』を、次元ごと真っ二つに切り裂いたのだ。
パリンッ! というガラスが割れるような音と共に、世界最悪の厄災迷宮が、光と闇の波動に飲み込まれて霧散していく。
――一方、その頃。地上(オロチ別邸跡地)では。
「民法・第七百十条ォォォ! 『財産以外の損害の賠償』! 精神的苦痛への慰謝料、その身で払わんかぁぁぁっ!!」
桜田リベラが、全身からドス黒い闘気を立ち上らせ、大上段に構えた『六法全書』を、まさに迷宮の入り口へ叩き込もうとしていた。
自警団に縛られたオロチ会長が「もうやめて! 迷宮のHPはゼロだがね!」と涙目で叫び、三頭犬のアモンが「リベラ様、素晴らしいフォームです」と冷静に拍手を送っている。
リベラが六法全書を振り下ろそうとした、まさにその刹那。
カッ……!!
迷宮の岩壁が内側から爆発し、天を貫くほどの巨大な『光と闇の柱』が立ち上った。
「なっ……!?」
『リベラ様、下がって!』
アモンの声に、リベラは咄嗟に後方へ跳躍する。
直後、凄まじい衝撃波が周囲の木々を揺らし、迷宮を形作っていた黒曜石の壁が、サラサラと音を立てて光の粒子へと分解されていった。
強烈な逆巻く風が収まり、土煙が晴れた後。
ポポロ村の青空の下に、ぽっかりと空いた巨大なクレーター。
その中央に。
背中に白銀と漆黒、二振りの剣を交差させて背負った、白いパーカーの少年が、ふわりと音もなく舞い降りた。
「……ふぅ。よし、パーカーは一滴も汚れてないな。完璧だ」
僕は自分の袖口を確認し、ホッと胸を撫で下ろした。
これなら、帰ってから義母さんに怒られることもない。
「――キッド!!」
ビクッとして顔を上げると、黒のパンツスーツ姿の義母さんが、ものすごい勢いでクレーターの底へと駆け下りてくるところだった。
彼女の手には、闘気を帯びてボロボロになった六法全書が握られている。
「あ、義母さん。ごめんね、お使い遅くなっちゃって。ちょっと変な妖精が——」
パァンッ!!
僕の言葉が終わる前に、義母さんの平手が、僕の頬を軽く叩いた。
痛くはない。闘気も魔力も乗っていない、ただの『母親』としての平手打ちだった。
「……義母、さん」
「……馬鹿。馬鹿息子」
義母さんの声は、ひどく震えていた。
見上げると、いつもは隙のないクールな彼女の瞳から、大粒の涙がボロボロと溢れ落ちている。
「アンタに、もしものことがあったら……ウチは、ウチはどうすればええんね……っ。鳥籠から助け出した意味が、ないじゃろうが……っ」
岡山弁剥き出しで泣き崩れる義母さんを見て、僕は胸がギュッと締め付けられるような思いがした。
彼女は、最強の『修羅の弁護士』だ。でも、それ以上に、僕のたった一人の『お母さん』なのだ。
「ごめんなさい。……でも、僕は大丈夫だよ。義母さんが鍛えてくれたから、これくらい平気だった」
僕は、義母さんの背中にそっと腕を回した。
彼女は六法全書を取り落とし、僕を力いっぱい抱きしめ返してくれた。
その温もりは、十年前のあの日、冷たい鳥籠の中で僕を抱きしめてくれた時と、まったく同じだった。
『グルルル……無事の生還、何よりです、キッド様』
「あ、アモンも。心配かけてごめんね。オロチ会長も、無事でよかった」
クレーターの縁から見下ろしているアモンと、芋虫のように縛られたまま鼻水をすするオロチ会長に手を振る。
義母さんは、僕の胸でひとしきり泣いた後、小さく咳払いをして体を離した。
目元をハンカチで拭い、いつもの凛とした表情――完璧な標準語へと戻る。
「……まったく。心配かけさせないでよね。あなたのその背中の物騒な剣は、あとでゆっくり事情聴取させてもらうわ」
「あはは、お手柔らかにお願いします」
義母さんは、ふと空を見上げた。
すでに陽は傾きかけ、ポポロ村の空は美しいオレンジ色に染まっている。
「さあ、帰りましょうキッド。せっかくのほうれん草とベーコンのキッシュが、本当に冷めてしまうわ」
「うん! 帰ろう、義母さん!」
僕たちは並んで、夕暮れのポポロ村へと歩き出した。
これが、世界を震撼させる万能勇者『キッド・ジーニアス』の、伝説の始まりの一日だった。
――なお。
そんな感動的な親子の再会を、上空の神界から『ゴッドチューブ』で盗み見していた神々たちの反応はというと。
「うおおおおんっ! 泣けるわぁぁぁぁっ!! なにこの最高の親子の絆ぁぁぁっ!!」
「ルチアナ、鼻水拭きなさいよ! ……グスッ、でも本当、最高にエモいわね……スパチャが止まらないわ……っ!」
世界神と魔王が、コタツ部屋でティッシュを分け合いながら号泣し。
コメント欄には『最高の家族に乾杯!』『オカン強くて優しくて最高!』といった絶賛のコメントと共に、数億Gを超える前代未聞のスーパーチャットが乱舞し続けていたのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
神剣による究極の一撃【イクリプス・スラッシュ】で、ダンジョンを空間ごと両断したキッド!
そして、リベラ母さんとの感動の再会! (平手打ちからの号泣ハグは、オカンの愛情の証です!)
神々もリスナーも大号泣&スパチャの嵐で、大熱狂の迷宮編はこれにて無事(?)クリアとなりました!
次回は、数日後の日常パート。
ルナキン(ファミレス)で、見習い女神リリスとの癒やしのドリンクバー密会です!
神界でキッドがどれだけヤバい話題になっているのか、リリスの口から語られます!
もし「イクリプス・スラッシュかっこいい!」「リベラ母さんの涙にやられた!」「神様たち泣いてて草!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回『第8話:ルナキンでの密会(見習い女神リリス)』




