光と闇の神剣
光と闇の神剣
大理石の台座に突き立てられた二振りの剣。
一方は、刀身から眩いほどに清らかな白い光を放つ、美しい白銀の長剣。
もう一方は、周囲の光を吸い込むように深く、禍々しい闇の魔力を纏った漆黒の長剣。
僕がその台座に近づくにつれ、体の中を流れる『二つの血』が静かに、しかし激しく共鳴を始めていた。
天使族だった母の血が、白銀の剣を求めている。
魔族だった父の血が、漆黒の剣に惹かれている。
「……まるで、最初から僕を待っていたみたいだな」
無意識のうちに、僕は両手をそれぞれの剣の柄へと伸ばしていた。
――その瞬間。
神界のコタツ部屋で配信画面を食い入るように見ていた魔王ラスティアが、血相を変えて立ち上がった。
「ばっ……バカ、やめなさい! その二つを同時に触るなんて自殺行為よ!!」
普段は余裕ぶっているラスティアの顔に、明確な焦りが浮かんでいた。
隣のルチアナも、手に持っていたポテトチップスを落として画面に釘付けになっている。
「え、ちょ、ラスティア。あの剣、なんなの!?」
「アレは、かつて世界を二分した勇者と魔王の遺物よ! 聖なる神気だけで打たれた『光の剣ルクス』と、純粋な魔気だけで鍛えられた『闇の剣ノワール』!!」
ラスティアは早口でまくし立てた。
「あの二振りは、属性の極致なの! 魔に属する者がルクスに触れれば一瞬で灰になり、聖に属する者がノワールに触れれば魂まで腐り落ちる! もしその両方に同時に触れたら……光と闇の反発作用で、対象の肉体ごと空間が対消滅を起こすわ!!」
ゴッドチューブのコメント欄も、その解説を聞いて絶望に染まった。
『アカン! ネフィリムってことは両方の属性を持ってるってことだろ!?』
『光と闇の反発が体内で起きて、自爆するぞ!!』
『ああっ、触っちゃダメだ少年ーーっ!!』
全次元のリスナーが息を呑み、悲鳴を上げようとした、その時。
僕は、右手で『ルクス』を、左手で『ノワール』の柄を、同時にしっかりと握りしめた。
ドクンッ、と。
心臓が大きく跳ねる。
僕の右腕を凄まじい神気が駆け上がり、左腕を底知れぬ魔気が駆け上がってくる。
相反する二つの極大なエネルギーが、僕の体内で激突しようと荒れ狂った。神々が危惧した『対消滅』の兆候だ。
「……暴れないで。君たちの力は、痛いほどよくわかるから」
僕は静かに目を閉じ、体内の魔力回路を完全に制御した。
相反する力を押さえつけるのではない。
僕という器の中で、光と闇を混じり合わせ、一つの巨大な『うねり』として循環させるのだ。
天使と魔族、その両方から愛されて生まれてきた『ネフィリム』の僕にしかできない、絶対的な魔力調律。
シュゥゥゥ……ッ。
暴走しかけていた二つの力が、僕の心拍と同調し、まるで主人の帰還を喜ぶ子犬のようにスッと大人しくなった。
「よし。いい子だ」
僕は目を開け、ポポロ村の畑で大根を引き抜く時のように、軽い力で二振りの剣を台座から引き抜いた。
シャラァァァンッ!!
神々しい光の粒子と、漆黒の魔力波紋が、同時にドーム状の空間に広がる。
右手に白銀の神剣。左手に漆黒の魔剣。
二振りの剣は、僕の手の中で完璧な均衡を保ち、美しく輝いていた。
「……うん、すごく手に馴染む。これなら、義母さんが言う『正しい力』の使い方ができそうだ」
僕は剣を軽く振り、その絶妙な重量バランスを確認して小さく微笑んだ。
――チーン。
神界のコタツ部屋は、今日二度目の完全フリーズを迎えていた。
「「…………」」
ルチアナとラスティアは、抱き合ったまま石像のように固まっている。
『…………え?』
『は?』
『対消滅は……?』
『なんか、めっちゃ普通に抜いたぞ……大根みたいに……』
『【神界の歴史学者】から 50,000G のスパチャ!「あ、あり得ない! 創世記の奇跡だ! 勇者と魔王、両方の力を完全に統べる存在が誕生したぞ!!」』
静寂を破り、再びゴッドチューブのコメント欄が大爆発を起こした。
しかし、僕が新しい剣の感触を確かめていると。
ズズズズズズ……ッ!!
突如として、巨大な迷宮全体が激しい地震のように揺れ始めた。
天井からバラバラと岩の破片が降り注いでくる。
「あれ? ボスを倒してコア(剣)を抜いたから、迷宮が崩壊し始めたのかな?」
僕は少し首を傾げた。
だが、揺れの性質が何かおかしい。
迷宮そのものの自壊というよりも、外側から『とんでもない物理的暴力』によって無理やり破壊されているような……。
――その頃、迷宮の外(オロチ別邸跡地)。
「ふんっ! しゃあっ! そぉいっ!!」
ドゴォォォォォンッ!!
桜田リベラが、闘気を極限まで纏わせた分厚い『六法全書』を、キュルリンが創り出した絶対に壊れないはずの迷宮の岩壁に、全力で叩きつけていた。
「帝国法・第二百二十条! 『不法逮捕及び監禁』!! ウチの可愛い息子を閉じ込めるたぁ、ええ度胸しとるのう!!」
バキィィィッ!!
本来なら魔法すら弾き返す超高難易度ダンジョンの外壁に、巨大な亀裂が走る。
「続いて民法・第七百九条! 『不法行為による損害賠償』!! 夕飯のキッシュを冷まさせた罪、そのふざけた壁ごと粉微塵にして償わしちゃるわぁっ!!」
ドッゴォォォォォォォォンッ!!
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ! リベラのお嬢が、物理で法律を執行しとるがねーーっ!!」
『グルルル……リベラ様、素晴らしい打撃です。岩壁の魔力構造が崩壊し始めました』
後ろで縛り上げられたオロチが絶叫し、三頭犬のアモンが尻尾を振りながら冷静に戦況を実況している。
――再び、迷宮の最深部。
「うわっ、本当に崩れてきた。早く出ないと、白いパーカーが埃だらけになっちゃう!」
外から響く『聞き覚えのあるオカンの怒声』と凄まじい打撃音に、僕は背筋をピッと伸ばした。
義母さんが迎えに来てくれている。
しかも、夕飯の時間が遅れているせいで、かなりお怒りのようだ。
「急ごう。このままじゃ生き埋めだ」
僕は、右手の『ルクス』と左手の『ノワール』を、体の前で静かに交差させた。
崩れ落ちる天井を見上げる。
分厚い何十メートルもの岩盤。だが、今の僕と、この二振りの剣なら、何の問題もない。
右手の神気と、左手の魔気が、交差した刀身の接点から爆発的に渦を巻く。
光と闇が融合し、巨大な二頭の『聖魔竜』の幻影となって、僕の全身を包み込んだ。
「義母さん、今帰るよ」
僕は深く息を吸い込み、世界を両断する絶対的な一撃の構えをとった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
ついに光と闇の神剣を引き抜いたキッド! 神々が青ざめるほどの禁忌を、いとも簡単に(大根を抜くように)やってのけました!
一方その頃、外では最強のオカン・リベラ先生が『六法全書(物理)』でダンジョンを解体工事中です(笑)
次回、光と闇を融合させたキッドの必殺技が炸裂! 迷宮を内側からぶち破って、愛するオカンの待つ食卓へと帰還します!
もし「キッドかっこいい!」「六法全書(物理)ww」「次も読みたい!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回『第7話:【イクリプス・スラッシュ】空間ごと切り裂く一閃』
お楽しみに!




