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忍び寄る悪意と、貧乏神の『没収』

忍び寄る悪意と、貧乏神の『没収』

 深夜のポポロ村。

 宴会の熱気もすっかり冷め、村人たちや視察団の兵士たちが深い眠りについている中、村長宅の屋根を音もなく駆ける一つの影があった。

「……フン。平和ボケしたサメどもめ。田舎村の接待に浮かれ、王女の警護を怠るとはな」

 全身を黒装束で包んだ男――海中国家の裏社会でその名を轟かせる特A級暗殺者、『影ヒレのジン』は、冷酷な笑みを浮かべた。

 彼が身に纏っているのは、光と音を完全に遮断する国宝級の魔導具【隠密の外套シャドウ・クローク】。そして手に握られているのは、かすり傷一つで巨象をも即死させる神話級の猛毒短剣【海蛇の牙】である。

 さらに彼の懐には、今回の『王女暗殺』の着手金として支払われた数億ゴールド分の電子マネー(クリプト・パール)が入った、最新型の魔導スマートフォンが収められていた。

「この仕事を終えれば、俺は悠々自適の隠居生活だ。南の島で、一生遊んで暮らせるだけの財産が手に入る……!」

 ジンは、己の輝かしい(そして金にまみれた)未来を想像しながら、リーザの寝室の窓を、特殊な硝子切りで音もなく円形にくり抜いた。

 鍵を開け、室内に滑り込む。

 月明かりに照らされたベッドの上には、月光石の超高級ドレスを着たまま、大の字になって爆睡している人魚姫、リーザの姿があった。

「……むにゃむにゃ……将軍、もっと……もっと黄金のスパチャを……五円玉より、金貨を……むにゃ」

 よだれを垂らしながら、強欲すぎる寝言を呟いている王女。

 暗殺者ジンは、そのあまりにも無防備な姿に呆れつつも、短剣を逆手に構え、音もなくベッドサイドへと忍び寄った。

「(どんなに美しい王女だろうと、俺の心は揺らがん。俺が愛するのは金と確実な死だけだ。……死ね、リーザ・シーラン・リヴァイアサン!)」

 ジンが猛毒の短剣を、リーザの首筋に向けて無慈悲に振り下ろそうとした、その刹那である。

「むにゃ……ダメですわ……私のファンの時間も、お金も……全部、私が没収しますの……!」

 リーザが寝返りを打ちながら、寝言でそう叫んだ瞬間。

 彼女の身体から、突如として『おぞましいほどの貧乏くさいオーラ』が爆発的に膨れ上がった。

「なっ!? なんだこの魔力は!?」

 ジンが驚愕して飛び退く。

 リーザの頭上に、黄金に(いや、メッキのように安っぽく)輝く、巨大な『お賽銭箱』が出現した。

 ただのお賽銭箱ではない。その箱の側面からは、現代の地球の家電のような『掃除機のノズルとホース』が不気味に伸びていた。

 これこそが、リーザの魂に刻まれた最悪のユニークスキル。

 悪運耐性をMAXに引き上げ、彼女に危害を加えようとする者の運気と財産を根こそぎ奪い去る概念干渉系スキル――『貧乏神パーフェクト・ポバティ』の必殺具現化術。

 その名も、【お賽銭箱型掃除機】である。

『チリィィィン……! 御縁(五円)が、ありませぬ……!』

 お賽銭箱から、亡者のような不気味な機械音声が響く。

「な、なんだこのふざけた魔導具は!? ええい、斬り捨ててくれる!」

 ジンが神話級の短剣【海蛇の牙】を振りかざした。

 しかし、お賽銭箱の掃除機ノズルが、彼に向けて『ギュイィィィィィィンッ!!』と凄まじい吸引音を立てて起動した。

「ぬおっ!?」

 スポンッ!!

 という間の抜けた音と共に、ジンが絶対の自信を持っていた数千万ゴールドの価値がある神話級の短剣が、掃除機に吸い込まれて消滅した。

「お、俺の【海蛇の牙】が!? バカな、どんな収納魔法でも他人のアーティファクトを強制的に――」

 ギュイィィィィンッ!!

 スポポポポーンッ!!

 ジンの言葉を遮るように、次々と彼の装備が吸い込まれていく。

 光を遮断する国宝級の【隠密の外套】。

 腰に下げていた最高級の回復ポーション。

 隠し持っていた暗器の数々。

「や、やめろぉぉぉっ! それは特注品だぞ! ローンがまだ八十回残ってるんだ!!」

 ジンの悲鳴などお構いなしに、お賽銭箱型掃除機は彼の『物質的な財産』をすべて没収した。

 だが、真の恐怖はここからだった。

『物質的財産、没収完了。……続いて、概念的資産および、電子的資産の没収クリーニングを開始します』

 お賽銭箱の表面に、デジタルな電子メーターが浮かび上がった。

「な、なんだと……?」

 ジンの懐から、最新型の魔導スマートフォンが宙に浮き上がる。

 掃除機のノズルがスマホの画面にピタリと吸い付いた。

『ピピッ! 暗殺組織からの着手金、三億ゴールド(クリプト・パール)、没収。……残高、ゼロ』

「あ、あああああっ!? 俺の、俺の退職金がぁぁぁっ!」

『ピピッ! 海外のタックスヘイブンに隠匿していた裏金、五億ゴールド、没収。……残高、ゼロ』

「うわぁぁぁぁっ! やめてくれ! それは南の島で別荘を買うための……っ!」

『ピピッ! 長年培ってきた暗殺者としての「幸運値」および「逃走スキルレベル」、没収。……ステータス、一般市民以下に低下』

「俺のキャリアがぁぁぁっ! 嘘だろ、嘘だと言ってくれぇぇぇっ!!」

 物理的な武器だけでなく、電子マネー、隠し財産、さらにはステータス(運気とスキル)まで。

 概念干渉系スキル『貧乏神』の前には、どんなチート装備も、どんなセキュリティの堅いオフショア口座も無意味だった。

 お賽銭箱に吸い込まれた財産は、リーザの懐に入るわけではない。ただただ、『虚無』へと消え去り、相手を完全なる『無一文の不審者』へと叩き落とすだけの、最悪の嫌がらせスキルなのだ。

『クリーニング、完了。……ご利用、ありがとうございました』

 ポンッ、とお賽銭箱型掃除機が煙のように消滅する。

「あ……ああ……」

 月明かりに照らされた寝室。

 そこには、武器も防具も服の大部分も吸い取られ、情けないトランクス一丁の姿になった中年男ジンが、へたり込んでいた。

 彼の全財産はゼロ。ステータスは農民以下。明日から生きていくためのパンの耳すら買えない、完全なる底辺へと転落したのである。

「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁんっ!! 俺の、俺の老後がぁぁぁっ!!」

 トランクス一丁の男が、床を叩いて大声で号泣し始めた。

「んんっ!? なに!? どうしたの!?」

 その騒ぎに、ようやくリーザが目を覚ました。

 彼女がベッドから身を起こすと同時に、部屋のドアが「バンッ!」と勢いよく蹴り破られた。

「リーザさん、無事か!?」

「不審者発見! 動くな!」

 パジャマ姿のキッドと、ウサギ柄のネグリジェを着たキャルルさんが、武器を構えて部屋に飛び込んできた。

 ネフィリムの感覚と、月兎族の聴覚が、異常な魔力と男の泣き声に反応したのだ。

 しかし、僕たちが警戒して部屋に入った先で見たものは。

 ベッドの上で首を傾げるリーザと、その足元でトランクス一丁で号泣している、哀れな中年男の姿だった。

「……えっと。キャルルさん、あれ、何かな?」

「……ただの、頭のおかしい変質者……?」

「ち、違う! 俺は特A級暗殺者の、影ヒレのジン……! だったはずなのに……全財産が……俺の数億ゴールドが、あの謎の賽銭箱に吸い取られて……っ!!」

 ジンがボロボロと涙を流しながら、必死に弁明する。

 僕はその話を聞いて、すぐに事態を察した。

(なるほど……暗殺者が忍び込んだものの、リーザさんの『貧乏神』のスキルが自動発動して、身ぐるみ剥がされたってわけか。……うん、自業自得だね)

「リーザさん、怪我は?」

「ふぁぁ……ありませんわ。というか、誰ですのこのおじさん。熱狂的なファンですか? サインなら明日の握手会でお願いしますわ」

 寝ぼけ眼で適当なことを言うリーザ。

 キャルルさんがトンファーを構え、ジンを見下ろした。

「まあ、事情はどうあれ王女の寝室に忍び込んだ暗殺者だ。このまま自警団に突き出して――」

「ふざけるなぁぁぁぁっ!!」

 突然、トランクス一丁のジンが、血走った目で絶叫した。

 全財産とアイデンティティを奪われ、彼の精神は完全に崩壊し、狂気へと走っていた。

「こんな……こんな終わり方があるか! 俺の人生のすべてを奪っておいて、のうのうと生きるつもりか! ええい、こうなったら道連れだ!!」

 ジンは、自らの奥歯に仕込まれていた『偽歯』を、ギリィッ! と強く噛み砕いた。

 それは、彼の所持品の中で唯一、体内に隠されていたためにお賽銭箱の『没収』を免れたアイテムだった。

「なっ……! キッド君、アイツの口から、とんでもない魔力が!!」

「マズい!! キャルルさん、リーザさんを連れて下がって!!」

 僕は瞬時に二振りの剣を抜こうとした。

 しかし、遅かった。

 ジンが噛み砕いたのは、海中国家において禁忌とされる古代遺物、『海魔召喚の封珠』。

「ハハハハハハ! 出でよ、深海の悪夢! この村ごと、俺の絶望と共に海の底へ沈めてしまえぇぇぇっ!!」

 ジンの口から溢れ出した漆黒の海水が、部屋の床を突き破り、ポポロ村の広場へと鉄砲水のように溢れ出した。

 そして、その海水が渦を巻き、巨大な魔法陣を形成する。

 ズゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!

 深夜のポポロ村に、大地を揺るがすほどの地響きが鳴り響いた。

 それは、数日前に現れた死甲虫機ネクロビートルをも凌駕する、圧倒的な『古代の海魔』が召喚された産声だった。

「ひぃっ!? な、なんですの、この水浸しは!?」

「リーザちゃん、急いで外へ出るよ!!」

 僕たちは、崩れゆく村長宅から間一髪で脱出した。

 外へ出た僕たちの目に飛び込んできたのは、ポポロ村の広場の中央で、無数の触手をうごめかせる、ビルほどもある巨大な水の怪物。

 視察団の嘘を隠し通す宴会から一転。

 ポポロ村は再び、理不尽極まりない古代の厄災の脅威に晒されることとなったのである。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

エリート暗殺者の哀れな末路!!(笑)

リーザのユニークスキル『貧乏神パーフェクト・ポバティ』が自動発動し、神話級の武器から、海外の隠し口座の電子マネー(着手金)、さらにはステータスまで、お賽銭箱型掃除機に根こそぎ没収されてしまいました!

この「没収されたお金がリーザの手に入るわけではなく、ただ虚無に消える」というのが、最高にタチの悪い嫌がらせスキルですね!

トランクス一丁で老後の資金を失って号泣する暗殺者、同情はしませんが笑えます。

しかし、完全に狂乱した暗殺者が、最後の手段として古代の『海魔』を召喚!

舞台は一転、超巨大モンスターとの最終決戦へと突入します!

次回、この絶望的な状況で、我らが新村長・キャルルのタローマン安全靴が火を噴きます!

必殺の『乱れ流星脚(多重ライダーキック)』炸裂をお見逃しなく!

もし「暗殺者ざまぁww」「お賽銭箱掃除機えげつない!」「バトル展開熱い!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ページの一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!

(皆さんの応援がランキングを駆け上がる力になります!)

次回『第8話:海魔召喚と、キャルルの乱れ流星脚』

お楽しみに!

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