宴会防衛戦! ポンポコ節を阻止せよ
宴会防衛戦! ポンポコ節を阻止せよ
ポポロ村の夜。
広場には無数の魔導ランタンが灯され、村を挙げての大宴会が幕を開けていた。
「おおっ! この『月見大根のおでん』とやら、出汁が信じられぬほど美味い! 海の魚介とはまた違う、大地の恵みというやつか!」
「将軍! こちらの『ロックバイソンの厚切り串焼き』も絶品であります!」
サメの頭を持つシャーク将軍をはじめとする百名の精鋭兵士たちは、ポポロ村の極上グルメに完全に胃袋を掴まれていた。
彼らが座る長テーブルの最上座には、月光石の超高級ドレスに身を包んだ我らがトップアイドル、リーザが優雅に腰掛けている。その後ろには、ブラックスーツ姿の僕と、サングラスをかけたキャルルさん(SP)が直立不動で控えていた。
「ふふっ、皆様のお口に合ったようで何よりですわ」
リーザは完璧なアイドルスマイルを浮かべている。
だが、僕とキャルルさんには分かっていた。彼女のドレスの腹部から、かすかに『きゅるるるぅぅ……』という、限界を迎えた猛獣のような腹の虫の音が鳴り響いていることを。
パンの耳と雑草しか食べていない彼女にとって、目の前に並べられた極上グルメの数々は、まさに拷問に等しい。
「リーザ様。我らのような武骨な軍人をこれほど手厚くもてなしていただき、感謝の念に堪えません。……さあ、リーザ様もぜひ、この美酒『イモッカ』で乾杯を!」
シャーク将軍が、機嫌よく並々と注がれたイモッカのグラスをリーザに差し出した。
その瞬間、僕の【知恵 A】が最大級の警報を鳴らした。
イモッカは、度数四十度を超える強烈な蒸留酒だ。最高位の神様ですら数杯でヒモニートに堕落した、ポポロ村の最終兵器である。それを、常に空腹状態の極貧アイドルが空きっ腹に入れればどうなるか。
「あっ、将軍、リーザは明日のステージのためにアルコールは――」
僕が止めに入るより早く。
極限の空腹とプレッシャーに耐えかねたリーザは、「いただきますわ!」とグラスを受け取り、あろうことか一気飲みをしてしまった。
「ぷっはぁぁぁぁっ!! なんですのこれ、喉が焼けるように熱いけど、お腹の底から元気が湧いてきますわぁぁっ!!」
「……あ、終わった」
キャルルさんが、サングラスの奥で絶望の声を漏らした。
リーザの透き通るような白い肌が、一瞬にして茹でダコのように真っ赤に染まる。
サファイアの瞳から理性の光が完全に消え失せ、代わりに『ド底辺の宴会クイーン』としてのドス黒い炎が宿った。
「よーし! 海の男たちよ、宴会はこれからが本番ですわ!! 宇宙一のアイドルであるこの私が、とっておきの『お座敷ソング』で盛り上げて差し上げますわぁぁっ!!」
ガタッ! と椅子から立ち上がるリーザ。
そして彼女は、ジャージ時代から肌身離さず持っている『ピカピカの五円玉』を懐から取り出し、自分の美しい鼻の穴へと近づけていった。
「(マズい!! 義母さんの掟・その三『鼻に五円玉を詰めて飛ばさないこと』を破る気だ!!)」
「(止めなきゃ! 視察団の前で『ハゲたぬきのポンポコ節』なんか歌われたら、一発でチョウチンアンコウ行きだよ!!)」
僕とキャルルさんは、阿吽の呼吸で動いた。
リーザが五円玉を鼻にセットしようとした瞬間。
「リーザ、首筋にゴミがついておりますよ」
キャルルさんがSPの冷徹な動きでリーザの背後に回り込み、五円玉を持ったリーザの手首を、目にも留まらぬ速さの『関節技(極め手)』でガッチリとホールドした。
「あだだだだだだっ!? ちょっとキャルル、腕が、腕が折れますわぁぁっ!?」
「(静かにして! 腕の骨とアンコウ婚、どっちがいいの!?)」
笑顔のまま小声で脅すキャルルさん。
しかし、酔っ払った人魚姫の底力は凄まじかった。彼女は強引に腕を振りほどき、ドレスの腹を太鼓のように叩き始めたのだ。
「ええい、五円玉がなくとも歌えますわ! ミュージック、スタート! 『た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン~♪』」
最悪のフレーズが、ポポロ村の夜空に響き渡りそうになる。
その直前!
「リーザ、お腹が空いていたのでしょう。さあ、遠慮せずにどうぞ」
「もがぁっ!?」
敏腕マネージャー(僕)が、超スピードでテーブルの上の『ロックバイソンの極厚串焼き』を手に取り、リーザの口の中に正確にねじ込んだのだ。
「むーっ! むぐぅぅぅっ!?」
「(そのまま噛んで飲み込んでください。喋ったら即刻、事務所に報告しますよ)」
肉の旨味と、僕の『ネフィリムの覇気(物理的な威圧)』に挟まれ、リーザは涙目で串焼きをモグモグと咀嚼し始めた。
「おお……?」
その異様な光景を見て、シャーク将軍たち視察団が目を丸くしている。
SPがアイドルの腕を極め、マネージャーがアイドルの口に巨大な肉をねじ込んでいる。どう見ても異常な虐待……あるいは内輪揉めである。
取り繕わなければ。僕は【知恵 A】をフル回転させ、涼しい顔で将軍に説明した。
「……お見苦しいところをお見せしました。これは、ルナミスの最先端のアイドル業界における『スキンシップ』の一環なのです」
「ス、スキンシップ……?」
「ええ。彼女は常にファンのために全力を尽くすため、食事を忘れるほどストイックになりがちです。だからこそ、私どもスタッフがこうして『強引にでも栄養を摂らせる』という、深い信頼関係なのです」
「なんと……!!」
僕のデタラメな説明に、シャーク将軍はヒレを震わせて感動し始めた。
「あのような荒々しいやり取りの中に、アイドルとスタッフの深い絆が隠されていたとは……! ルナミスのエンタメは、我々の想像を絶する奥深さだ……! リーザ様は、本当に素晴らしいスタッフに恵まれておられる!!」
「「「おおおぉぉっ! リーザ様ぁぁっ!」」」
なぜか魚人の兵士たちが、感動の涙を流して拍手喝采を送り始めた。
誤魔化せた。……いや、完全に壮大な勘違いをしてくれている。
「ぷはぁっ! 飲み込みましたわ! さあ、次こそは二番の『尻尾はボーサボサでチョーロチョロ~♪』を――」
「リーザ、こちらのおでんもどうぞ。丸ごと大根です」
「もごぉぉぉっ!?」
僕とキャルルさんは、リーザが何かを歌おうとするたびに、絶妙なコンビネーションで次々と極上グルメを口の中に放り込み続けた。
結果として、リーザは『最高級の食事をひたすらスタッフに食べさせてもらいながら、謎のリアクションを取り続ける前衛的なアイドル』として、シャーク将軍たちからスタンディングオベーションを受けることとなった。
「うぅ……お腹いっぱい……もう、食べられませんわ……」
数十分後。
イモッカの酔いと、極限の満腹感によって、リーザはドレスを着たまま白目を剥いて気絶していた。
「……ふぅ。なんとか、乗り切ったね」
「疲れた……魔獣の群れと戦うより疲れたよ、キッド君……」
ブラックスーツの額の汗を拭う僕と、サングラスを外してへたり込むキャルルさん。
僕たちの決死の『宴会防衛戦』により、リーザのポンポコ節と鼻息五円玉は完全に封殺され、視察団の壮大な勘違いは守り抜かれたのである。
***
宴会が終わり、シャーク将軍たちが村の宿屋へと引き上げていった深夜。
村長宅の屋根の上に、静かに、そして禍々しい影が降り立った。
「……フン。平和ボケしたサメどもめ。まんまと田舎村の接待に浮かれおって」
全身を黒装束で包んだその男の目には、冷酷な暗殺者の光が宿っていた。
男の目的は一つ。
海中国家シーランの反乱分子から依頼された、『王女リーザ・シーラン・リヴァイアサンの暗殺』である。
「護衛のマネージャーとやらは少し骨が折れそうだが……まあいい。寝首を掻けば終わる話だ。……死ね、王女よ」
男が毒の塗られた短剣を抜き、リーザの寝室の窓へと手をかけた。
だが、彼は知る由もなかった。
ターゲットである人魚姫が、悪運耐性MAXにして、相手の全財産と能力を根こそぎ奪い取る『貧乏神』という最悪のユニークスキルの持ち主であることを。
暗殺者にとっての真の絶望が、すぐそこまで迫っていた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
キッドとキャルルによる、決死の『宴会防衛戦』!
イモッカを飲んで暴走するリーザの「鼻息五円玉」と「ポンポコ節」を、関節技と串焼きの物理攻撃で必死に阻止する二人の攻防が最高に笑えます!
そして、それを「深い信頼関係によるアバンギャルドなパフォーマンス」だと感動して涙を流すシャーク将軍……(笑)
視察団の勘違いは、もはや留まるところを知りません!
しかし、宴会の裏で忍び寄る『暗殺者』の影!
次回、王女の命を狙う凄腕の暗殺者が、リーザのユニークスキル『貧乏神』のえげつない洗礼を浴びることになります! 財産も武器も没収される痛快ざまぁ展開をお楽しみに!
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次回『第7話:忍び寄る悪意と、貧乏神の『没収』』
お楽しみに!




