視察団到着と、完璧(?)な接待
視察団到着と、完璧(?)な接待
ポポロ村の大通りを、百名からなる物々しい魚人族の兵士たちが隊列を組んで行進していく。
その先頭を歩くのは、サメの頭部を持つ歴戦の猛将、シャーク将軍だ。
「(……信じられん。ルナミス帝国の辺境に、これほど大規模な『エンタメ特区』が存在したとは)」
シャーク将軍は、周囲の景色を見渡しながらゴクリと生唾を飲み込んだ。
彼らの目に映るポポロ村は、普段ののどかな農村ではない。義母さん(リベラ)の指示により、村人たちが総出で道端に立ち、「リーザちゃーん!」「親衛隊ポポロ支部だー!」と書かれた急造のウチワを振って歓声を上げているのだ。
これらすべてが『仕込み(エキストラ)』であることなど、純朴な海の戦士たちに分かるはずもない。
「ファンの熱気も凄まじいが……何より、この案内人の二人。底が知れん」
将軍の視線の先には、ブラックスーツを完璧に着こなし、涼しい顔で先導する僕(敏腕マネージャー・キッド)。
そして、黒服にサングラス姿で、周囲を鋭く警戒しながら歩くキャルルさん(専属SP)の姿があった。
僕から漏れ出るネフィリムの覇気と、キャルルさんの月兎族としての洗練された闘気が、将軍たちに『このプロダクションには絶対に逆らえない』という強烈な威圧感を与えていたのだ。
「こちらです、シャーク将軍。リーザはVIP応接室でお待ちです」
僕は村長宅の重厚な扉を開け、彼らを中へと案内した。
「失礼する……」
シャーク将軍が緊張した面持ちで部屋に入った瞬間。
彼と、後ろに続く数名の側近兵士たちは、その場に崩れ落ちるように片膝をついた。
「おお……おおおっ! リーザ様……!!」
部屋の中央。
深紅のベルベットの絨毯(義母さんがタローマンで買ってきた即席品)の上に用意された、豪奢なアンティークチェア。
そこに腰掛けていたのは、月の女神カグヤから没収した『月光石の超高級ドレス』を身に纏い、美しく気高い笑みを浮かべる我らがトップアイドル――リーザ・シーラン・リヴァイアサンだった。
「よく来ましたわね、シャーク将軍。そして故郷の勇敢な戦士たち。長旅、ご苦労様でしたわ」
澄み切った海のように美しい声。
洗練された仕草と、圧倒的な気品。
タローソンの廃棄弁当を野良犬と奪い合っていた底辺アイドルの面影は、そこには微塵もない。
「ああ、リーザ様……! なんというお美しさ、なんというオーラ! ルナミス帝国で大成功を収められたという手紙の内容、疑っていたわけではありませんが、こうして実際に拝見し、将軍シャーク、感涙の極みにございます……!」
屈強なサメの将軍が、ボロボロと大粒の涙を流して咽び泣く。
「ふふっ、大袈裟ですわ。私はただ、ファンの皆様に『宇宙一の幸せな時間』をお届けしているだけですの」
リーザは完璧なアイドルのスマイルを浮かべた。
その演技力は本物だ。……まあ、普段から「私はトップアイドル!」と自己暗示をかけながらパンの耳をかじっていたのだから、ある意味で筋金入りである。
「そうだ、リーザ様! 本日は女王陛下より、大成功を祝して『特別なお祝いの品』を預かっております!」
シャーク将軍が合図をすると、部下が重々しい木箱を運び込んできた。
パカッ、と蓋が開かれる。
中に入っていたのは、眩いばかりの輝きを放つ『深海の金貨』と、ソフトボールほどもある『大粒の真珠』の山だった。
「……ッ!!」
その瞬間、リーザのサファイアの瞳が、完全に『¥(お金)』のマークに変わったのを僕は見逃さなかった。
彼女の指がピクピクと痙攣し、ドレスの裾を握りしめている。
義母さんの掟、その一。『お金の話を直接しないこと』。
「ご、ごえ……ごえん……!! こんなに大量の、黄金のスパチャ……!! いただきま――」
「――お気持ち、確かに受け取りました。将軍」
リーザが金貨の山にダイブしようとしたその刹那。
僕はスッと二人の間に割り込み、木箱の蓋をパタンと閉じた。
「なっ……!?」
「申し訳ありません。私は専属マネージャーのキッドと申します。現在、リーザは来るべきステージに向けて、完全に『芸術』へと精神を集中させております。俗物的な財産管理は、すべてプロダクションである私どもが代行しておりますので」
僕が【知恵 A】をフル回転させ、冷徹なビジネススマイルで告げる。
キャルルさんも、サングラスの奥から「動くな」という無言の圧力をリーザにかけている。
「な、なるほど……! 己の芸のみに生きる、その徹底したプロ意識! さすがはトップアイドル!」
シャーク将軍はまたしても勝手に感心し、深く頷いた。
その後ろで、リーザが「私の……私のお金ぇぇっ……!」と声にならない悲鳴を上げながら、ハンカチをギリギリと噛みちぎる勢いで悔しがっている。可哀想だが、ここでボロを出すわけにはいかないのだ。
(ちなみにこの金箱は、後で義母さんが『事務所の運営資金』として正当な手続きで没収した)。
「そういえば、キッド殿」
シャーク将軍が、窓の外を指差して尋ねた。
「あの広場で組み立てられている、木箱のような建造物はなんですかな? 我が国の技術では見たこともない構造ですが……」
将軍が指差した先。
そこでは、ダサいスウェットを着たルチアナとカグヤが、ポポロ村の特産である『太陽芋の空き箱』を大量に積み上げ、トンカチで釘を打って『即席の特設ステージ(お立ち台)』を作っている真っ最中だった。
泥だらけのポンコツ神たちによる、あまりにも貧乏臭いDIY作業。
僕は一瞬言葉に詰まったが、すぐに表情を直して堂々と説明した。
「ああ、あれはですね。ルナミスの最先端のエンタメ業界で流行している『オーガニック・アコースティック・ステージ』です。太陽芋の木箱が持つ特有の空洞が、音の反響を極限まで高めるエコでアバンギャルドな設計となっておりまして」
「ほほう! オ、オーガニック……! なんと前衛的な!」
デタラメな横文字を並べ立てると、シャーク将軍は「ルナミスの文化は進んでおるのだな」と深く納得した。
だが、将軍の視線はステージではなく、作業をしている『二人の裏方』に釘付けになった。
「(……な、なんだあの二人は!?)」
シャーク将軍のサメの肌に、ゾワリと鳥肌が立つ。
ルチアナとカグヤは、文句を言いながら芋箱を叩いているだけだが……彼女たちは腐っても『世界神』と『月の女神』である。
彼女たちの身体から無意識に漏れ出ている『神気』と『圧倒的な魔力の残滓』は、歴戦の猛将であるシャーク将軍から見れば、天災にも等しい恐怖のオーラだった。
「キ、キッド殿……! あそこで作業をしているスウェット姿の裏方……! あの方々から、信じられないほどの強大な魔力を感じるのですが……っ! まさか、ルナミスのSランク大魔導士殿ですか!?」
将軍が冷や汗を流しながら震える声で尋ねる。
僕はフッと、余裕のある笑みを浮かべた。
「おや、お気づきになりましたか。……ええ、我が『桜田芸能プロダクション』では、トップアイドルであるリーザの安全を守るため、ステージの設営係にすら、最高峰の術者を雇い入れているのです。万が一のテロや魔獣の襲撃に備えて、ね」
「う、裏方にあのレベルの化け物を!? そ、そんな馬鹿な……っ!」
シャーク将軍と側近たちは、ガタガタと膝を震わせ、完全に戦意(?)を喪失していた。
案内人のネフィリムと、サングラスの月兎族。
さらに裏方には、神すら凌駕するオーラを放つスウェットの女たち。
「(これが……ルナミス帝国のエンタメ業界の闇……! シーラン国の全軍をもってしても、このプロダクションには勝てんかもしれん……!)」
シャーク将軍の心の中に、『桜田芸能プロダクション』への絶対的な畏怖が刻み込まれた瞬間だった。
「さあ、将軍。そろそろ日が暮れます。今夜は、リーザの素晴らしいステージと、ポポロ村の極上の料理で、皆様を『接待』させていただきますよ」
僕が窓際のカーテンを引くと、ポポロ村の広場には、続々と宴会の準備が整えられつつあった。
見事な勘違いと、絶妙な綱渡りで乗り切った『視察団の到着』。
だが、本当の地獄はここからだ。
太陽芋の空き箱で作られたステージ。
そして、宴会に欠かせない『アルコール(イモッカ)』の存在が、僕たちが必死に隠してきた『極貧アイドルの本性』を暴走させる火種になろうとしていることを。
この時の僕は、まだ完全に計算しきれていなかったのである。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
『桜田芸能プロダクション』の完璧な偽装接待、開幕です!
スーツ姿のキッドによる、流れるようなビジネススマイルと【知恵 A】を駆使したデタラメ説明!
「オーガニック・アコースティック・ステージ(ただの芋の空き箱)」は笑いどころですね!
そして、一番の被害者(?)は、神様たちの放つ強大すぎるオーラに震え上がるサメの将軍でした!
裏方(ヒモニート神)が強すぎて、勘違いが限界突破しています!
一方、大量の金貨をお預けされてハンカチを噛みちぎるリーザも不憫で可愛いです(笑)
さて、次回!
ついに夜の宴会とライブがスタート! しかし、お酒の力でリーザのテンションがおかしくなり、あの封印されし名曲『ハゲたぬきのポンポコ節』が発動の危機に!?
キッドとキャルルは、アイドルの暴走を止められるのか!?
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次回『第6話:宴会防衛戦! ポンポコ節を阻止せよ』
お楽しみに!




