桜田芸能プロダクション(仮)始動
桜田芸能プロダクション(仮)始動
ポポロ村の村長宅、リビングルーム。
そこは今、一人の敏腕弁護士によって、戦場のような『対策本部』へと変貌していた。
「いいこと? 海中国家シーランは、海底の豊富な資源と財力を持つ超大国よ。この視察団を満足させ、ポポロ村と友好的な関係を結べれば、莫大な『村おこし補助金』を合法的に引っ張れるわ」
ホワイトボードの前に立ち、金製の煙管を指揮棒のように振るう義母さん――桜田リベラ。
その言葉に、新村長のキャルルさんが「ほ、補助金……!」とウサギ耳をピンと立てて目を輝かせた。
「対して、ウチのポンコツ人魚姫の目的は『嘘がバレて深海のチョウチンアンコウ公爵(二百歳)の元へ強制送還されるのを防ぐこと』。……つまり、利害は完全に一致しているわね」
「はいっ! リベラプロデューサー! 私、命がけでトップアイドルを演じ切りますわ!」
芋ジャージ姿のリーザが、ビシッと敬礼する。
「よろしい。これより二十四時間体制で『桜田芸能プロダクション(仮)』を始動するわ。まずは、配役よ」
義母さんは、リビングの隅で正座させられている二人の人物――ポポロ村指定のスウェットを着た世界神ルチアナと、月の女神カグヤを指差した。
「あんたたち。借金返済の特別ボーナス任務よ。あんたたちは今日から、リーザの『バックダンサー 兼 舞台設営の裏方』として働きなさい」
「ええええっ!? 私たちが、こんな底辺アイドルのバックダンサー!?」
「冗談じゃないわ! 神である私が、どうしてこんな田舎村で裏方を……っ!」
抗議の声を上げる二人の女神だったが、義母さんがドスッと『六法全書』を机に置いた瞬間に「はい、喜んでやらせていただきます」と綺麗な土下座をキメた。すっかり調教が完了している。
「次。キャルルちゃん」
「は、はいっ!」
「あんたはトップアイドルの専属SPよ。その類まれなる脚力と、タローマン特注の安全靴で、リーザに近づく不審な魚人どもを威圧しなさい。服装はこれに着替えて」
「わぁっ! 黒のスーツにサングラス! なんだかカッコいいですね!」
キャルルさんは渡された黒服セットを抱え、嬉しそうに尻尾を振った。
「そして……キッド。あんたには『敏腕マネージャー』をやってもらうわ」
「僕がマネージャー? 剣で戦うわけじゃないのに、僕で務まるかな?」
僕が首を傾げると、義母さんはニヤリと笑い、僕に一着の仕立ての良いブラックスーツと、細身のネクタイを差し出した。
「あんたのその整った顔立ちと、ネフィリム特有の『覇気』は、有象無象の業界人を黙らせる敏腕マネージャーにぴったりなのよ。ほら、四の五の言わずに着替えてきなさい」
数分後。
隣の部屋でスーツに着替えてリビングに戻った僕を見て、その場にいた全員の動きがピタリと止まった。
「……どうかな? ネクタイ、上手く結べてるか分からないんだけど」
白いパーカーから一転、細身のブラックスーツに身を包んだ僕。
天使と魔族の混血であるネフィリムの銀髪が、黒いスーツに鮮やかに映えている。自分ではよく分からないが、ステータス【魅力 A】が、スーツというフォーマルな戦闘服によって極限まで引き出されていたらしい。
「き、キッド君……っ! めちゃくちゃ似合ってる! なにそれ、大人の男の人みたい!」
「キッドくぅぅん! かっこいいぃぃっ! マネージャーじゃなくて、私をプロデュースしてぇぇっ!」
「ダメよルチアナ! キッド君は私の月ウサギ・エンタープライズの専属よぉっ!」
キャルルさんが顔を真っ赤にしてウサギ耳をパタパタとさせ、ルチアナとカグヤが黄色い悲鳴を上げて僕に飛びつこうとする(キャルルさんがSPの動きで阻止した)。
「……ふふっ。完璧ね。伊達にウチが育てた息子じゃないわ。どんな悪徳プロデューサーよりも様になってるわよ」
義母さんが満足げに頷く。
「さて、最後は主役のアイドルだけど……」
全員の視線が、部屋の中央に立つリーザに集まる。
絶世の美少女……だが、着ているのは毛玉だらけの緑色の芋ジャージに、健康サンダルである。
「リベラP! 私はいつでもいけますわ! タローソンの廃棄弁当でスタミナもバッチリですの!」
「……その貧乏臭いジャージを今すぐ脱ぎなさい。視察団に見られたら、五秒でチョウチンアンコウ行きよ」
義母さんが指を鳴らすと、ケルベロスのアモンが、口に『一着のドレス』を咥えて持ってきた。
それは、月の女神カグヤがルナキンで無銭飲食した際、義母さんに担保として没収されていた『月光石の超高級ハイブランドドレス』だった。
「ああっ!? 私の、私の勝負ドレスがぁぁっ!」
「うるさいカグヤ。借金を返し終わるまで、これはウチの所有物よ。……リーザ、それを着なさい」
リーザがドレスを受け取り、別室で着替えを済ませて戻ってきた時。
今度こそ、リビングにいた全員が息を呑んで言葉を失った。
「……ど、どうですの? サイズ、少し胸のあたりがキツイですけれど……」
そこに立っていたのは、芋ジャージの貧乏少女ではなかった。
深海のサファイアを思わせる美しい瞳。真珠のように透き通る肌。そして、月光石のドレスが彼女の圧倒的なプロポーションと気品を、これ以上ないほどに引き立てている。
本物の、そして紛れもない『海中国家の王女(人魚姫)』の姿がそこにあった。
「……す、すごい。リーザちゃん、本当にお姫様みたい……」
「キャルル、お姫様みたいじゃなくて、一応本物の王女ですのよ?」
リーザがふふっと上品に微笑む。
その破壊力は凄まじく、僕ですら一瞬、ドキッとしてしまったほどだ。
「よし、見た目は完璧ね。あとは中身よ。リーザ、トップアイドルとして絶対にやってはいけない『三つの掟』を叩き込むわよ」
義母さんが、ピシャリとホワイトボードを叩いた。
「一つ! 『お金の話を直接しないこと』!
二つ! 『パンの耳や雑草を食べないこと』!
三つ! 『鼻に五円玉を詰めて飛ばさないこと』!
……いいわね? 視察団の前でこれを一つでも破ったら、ウチが直々にアンコウの元へデリバリーしてあげるわ」
「ひぃぃぃっ! わ、分かりましたわ! 私は霞を食べて生きる、清純派トップアイドルですの!!」
リーザが涙目で全力の誓いを立てる。
「よし。ルチアナ、カグヤ、あんたたちはポポロ村の広場に、太陽芋の空き箱を使って『特設ライブステージ』を組み上げなさい! キッドとキャルルは、村の入り口で視察団を『大物関係者』のオーラで出迎えるのよ!」
「「「了解!!」」」
ポポロ村の命運(とリーザの貞操)を賭けた、前代未聞の偽装作戦。
準備期間はわずか一晩。
神々をも過労死寸前までこき使う『桜田芸能プロダクション(仮)』の徹夜の作業が始まった。
***
――そして、翌朝。
ポポロ村の入り口に、凄まじい地響きと共に『それ』はやってきた。
巨大な水の魔力で満たされた、移動式の水槽型魔導馬車。
その周囲を護衛するのは、屈強なサメの頭を持つ魚人族の精鋭兵士たち、総勢百名。
「到着しました、シャーク将軍! ここが、リーザ様が拠点を構えておられるというルナミス帝国のエンタメ特区(ポポロ村)です!」
「うむ。我が国の至宝にして、ルナミスNo.1アイドルとなられたリーザ様……。その偉大なステージ、しかと目に焼き付けるぞ」
厳格な顔つきのサメの魚人、シャーク将軍が水槽馬車から降り立つ。
彼らを出迎えたのは――。
ビシッとブラックスーツを着こなし、冷徹なまでの『ネフィリムの覇気』を放つ銀髪の敏腕マネージャー(キッド)。
そして、その背後で黒服とサングラス姿で睨みを利かせる、Aランク冒険者のSP。
「……よくおいでくださいました、シーラン国の視察団の皆様」
僕が、義母さんに教え込まれた通りの『業界人の流儀(クールな微笑み)』で一礼する。
「リーザは現在、ライブ前の最終調整に入っております。私が、専属マネージャーのキッド・ジーニアスです。……さあ、VIP席へご案内しましょう」
シャーク将軍と精鋭兵士たちは、僕とキャルルさんの放つ只者ではない強者のオーラ(とスーツの威圧感)に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「(……なんという覇気だ。並のマネージャーやSPではない。さすがはリーザ様……これほどの強者を従えているとは!)」
視察団の『壮大な勘違い』が、今、完璧な形で幕を開けたのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
リベラ母さんプロデュースの『桜田芸能プロダクション(仮)』、本格始動です!
キッドの「ブラックスーツ姿の敏腕マネージャー」、想像しただけで最高にカッコいいですよね!?
そして、芋ジャージを脱ぎ捨て、神様の高級ドレスを纏ったリーザの圧倒的な美貌!
(中身は相変わらずパンの耳を愛するド底辺ですが笑)
キッドとキャルル(SP仕様)の迫真の演技により、サメのシャーク将軍率いる視察団は、完全に「すげぇ……大物だ……」と勘違いしてくれました!
しかし、ここからが本番!
次回、特設ステージ(太陽芋の空き箱)での接待が始まりますが、お約束のトラブルが続出!? 果たしてリーザは「鼻息五円玉」を我慢できるのか!?
もし「キッドのスーツ姿たまらん!」「神様たちの扱いww」「勘違い展開最高!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回『第5話:視察団到着と、完璧(?)な接待』
お楽しみに!




