妖精襲来!オロチ邸が地獄の迷宮に!?
妖精襲来!オロチ邸が地獄の迷宮に!?
ポポロ村の郊外に建つ、無駄にギラギラとした悪趣味な黄金の館。
そこが、かつて僕を『鳥籠』に閉じ込めていた悪徳メガ・コーポレーション、ゴルド商会のオロチ会長の別邸だった。
「ひぃぃぃっ! り、リベラのお嬢からの監査書類!? 勘弁してちょうだい! わしはちゃんと真面目にやっとるがね!」
「オロチ会長。アモンの鼻は誤魔化せないよ。裏帳簿の数字が合わないって、義母さんが言ってた」
応接室の豪華なソファーで、昭和のパチンコ店長のような派手なスーツを着た初老の男――オロチ会長が、大げさに頭を抱えて震え上がっていた。
十年前に僕をペット扱いしていた頃の傲慢さは見る影もない。今や彼は、僕の義母である桜田リベラに完全に実権を握られ、生殺与奪のすべてを握られた哀れな傀儡だ。
「わ、わかったがね! 今すぐ修正して提出し直すから、お嬢には内緒にしておいてちょうだい! な、キッド君! 昔のよしみで頼むがね!」
「昔のよしみって言われても……」
僕は苦笑しながら、オロチ会長から訂正印を押された分厚い書類を受け取った。
これで義母さんのお使いは完了だ。夕飯の時間にはまだ余裕がある。今日は義母さんが特製のキッシュを焼いてくれると言っていたから、早く帰りたいな。
そう思って席を立とうとした、その時だった。
ズドドドドドォォォォンッ!!
「な、なんだぎゃ!?」
突如、応接室の天井がド派手な音を立てて崩落した。
もうもうと舞い上がる土煙。煌びやかだったシャンデリアが粉々に砕け散り、開いた大穴から真昼の陽光が差し込んでくる。
テロリストの襲撃か?
僕は瞬時に身を屈め、闘気を練り上げて臨戦態勢をとった。
しかし、土煙の中から降り立ってきたのは、予想だにしない珍客だった。
「えへへ〜! 見ーっけ! ここ、すっごく広くてロマンチックな迷宮になりそう!」
可愛らしい声と共に現れたのは、背中に半透明の羽を生やした小柄な女の子だった。
顔立ちは息を呑むほど愛らしい『妖精』そのもの。
しかし、その服装は異常だった。
頭にはタローマン(ホームセンター)で売られている『安全第一』と書かれた黄色の工事用ヘルメット。胴体には反射材付きの作業ベスト。腰には釘袋を下げ、両手には自分と同じくらいの大きさの無骨な『鉄のツルハシ』を握りしめているのだ。
「な、なんじゃお前は! わしの別邸の屋根になんてことをしてくれたんだぎゃ!」
「あ、ごめんなさーい! 私、キュルリン! ここ、可愛いお花畑のダンジョンにするから、ちょっとどいててね!」
キュルリンと名乗った工事現場風の妖精は、愛くるしいウインクを飛ばすと、両手のツルハシを高く振り上げた。
――嫌な予感がした。
僕の【知恵 A】のステータスと、生存本能が強烈な警鐘を鳴らす。
「いくよーっ! ユニークスキル、【ダンジョンクリエイト】!!」
キュルリンがツルハシを床に振り下ろした瞬間。
空間が、捻じ曲がった。
ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!
「うわあっ!?」
別邸の黄金の壁がひび割れ、黒々とした岩肌へと変貌していく。
豪華な絨毯はドロドロの毒沼に変わり、窓は分厚い鉄格子で完全に封鎖されていく。
空間そのものを上書きし、超高難易度の迷宮を強制的に創り出す、世界最悪の災害級スキル。
「あ、あ、あああっ!? あれは『安全第一の厄災』! 気まぐれで世界中に地獄の迷宮を創り出す妖精キュルリンだがね!!」
「えへへ、可愛い迷宮にしてあげるからね〜♡」
キュルリン本人は「ロマンチックで可愛い迷宮」を作っているつもりらしいが、彼女の深層心理が反映されたダンジョンは、例外なく理不尽な即死ギミックと悪意に満ちた地獄のデスゲームと化す。
「冗談じゃないがね! わしは逃げる! 逃げるが勝ちだぎゃ!!」
オロチ会長は顔面を蒼白にすると、まだ完全に塞がりきっていなかった壁の隙間へ向かって、信じられない爆速でダイブした。
「あ、オロチ会長」
「すまんキッド君! 弱肉強食だぎゃーっ!」
ドサッ! という音と共にオロチ会長は外へ脱出。その直後、壁の隙間は完全に巨大な岩壁で塞がってしまった。
取り残されたのは、僕一人。
完全に迷宮化した空間。周囲は薄暗い松明の火に照らされ、どこからか魔獣の低い唸り声が響いてくる。
「……うーん。閉じ込められちゃったな」
僕は周囲を見渡し、小さくため息をついた。
パカッ、と天井の隠し扉が開き、そこから何かが降ってくる。
僕はヒュッと身を躱した。
ベチャァッ!!
床に落ちてきたのは、強烈な胃酸の匂いと腐った靴下の匂いを放つ、黄色いスポンジ状の塊だった。
「……ルナミス帝国軍の兵站削減の失敗作、通称『ゲロオムレツ』の落下トラップか。当たったらただじゃ済まないな」
恐ろしいトラップだが、僕にとってはスローモーションのように見えていた。
この空間を支配する魔力濃度。隠された罠の気配。そして、奥から湧き出してくる魔獣の殺気。
僕の【剣術】も【体術】も【魔法】も、すべてが「恐れるに足らず」と告げている。
「まあいいや。さっさと最深部のボスを倒して、迷宮のコアを壊せば出られるよね。夕飯のキッシュが冷める前に帰らなきゃ」
僕は準備運動代わりに首を鳴らすと、地獄の迷宮の奥へと、散歩にでも行くような足取りで歩き出した。
――そして。
この『突発的な迷宮の出現』を、遥か上空の天界から見逃さなかった者たちがいた。
「あっ! ちょっとラスティア、これ見てよ!」
「あぁん? なによルチアナ。こっちは今、月人君のライブツアーのチケット争奪戦で忙しいのよ」
神界の管理室――もとい、ポテトチップスの袋が散乱する四畳半のコタツ部屋。
ピンク色のジャージに健康サンダルを履いた世界神ルチアナと、永遠の十七歳を自称する魔王ラスティアが、『エンジェルすまーとふぉん』の画面を覗き込んでいた。
「ポポロ村の郊外に、またあのヘルメット妖精が超高難易度のダンジョンを作ったみたいなんだけど……閉じ込められてるの、あの『ネフィリム』の生き残りじゃない?」
「は? マジで?」
魔王ラスティアが目を丸くする。
「あの子、十年前に処刑されたはみ出し者の子供よね? 確か、あの黒スーツの恐ろしい女弁護士に拾われたって噂の……。えっ、待って。この子のステータス、バグってない!?」
「でしょ!? なにこれ、全部の能力が上限突破のAランクなんだけど!!」
二人の瞳が、ギラギラと欲望の光を放ち始めた。
「ねえ、これ『ゴッドチューブ』でゲリラ生配信したら、神々や魔族のリスナーから莫大なPV(再生数)とスパチャ稼げるんじゃない!?」
「あんた天才かルチアナ!! 速攻で配信枠立ち上げて! タイトルは『【緊急生放送】迷宮に取り残されたネフィリムの少年(超絶美少年)のステータスがヤバすぎる件』よ!」
世界を統べる神と魔王による、史上最悪の『無断生配信』。
キッド本人が一切あずかり知らぬところで、世界中を巻き込む大熱狂の狂宴が、今まさに幕を開けようとしていた――!
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
妖精キュルリンの【ダンジョンクリエイト】によって、地獄の迷宮に放り込まれたキッド!
そして、悪ノリ全開の神々による『ゴッドチューブ』のゲリラ生配信がスタートしてしまいました!
本人は夕飯のキッシュのことしか考えていませんが(笑)、ここからキッドの無自覚な規格外無双が世界中に配信されることになります!
もし「キッドの無双が早く見たい!」「神様たちポンコツすぎる(笑)!」と少しでも思っていただけましたら、
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次回『第4話:ゴッドチューブ配信開始! 神々のおもちゃ箱』




