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月下の宴と、ヒモニート宣言

月下の宴と、ヒモニート宣言

 Sランクの古代兵器『死甲虫機ネクロビートル』の出現による騒動から、数時間が経過した。

 ポポロ村の中心にある広場には、大勢の村人たちが集まり、月明かりの下で盛大な宴会が開かれていた。

「さあさあ、みんな! 今日は村の畑を守ってくれたキッド君とキャルル村長に、乾杯だよーっ!」

「「「かんぱーい!!」」」

 農家のおじさんやおばさんたちが、ジョッキになみなみと注がれた地酒を高らかに掲げる。

 広場の中央には、ドラム缶を半分に切った巨大な鍋が置かれ、ポポロ村特産の『月見大根』と厚切りのロックバイソン肉をじっくりと煮込んだ、熱々のおでんが湯気を立てていた。

 他にも、太陽芋のバター焼きや、ピラダイの塩焼きなど、村の美味しいものが所狭しと並べられている。

「んん〜っ! 月見大根、味が染みてて最高に美味しい〜っ!」

 タローマン特注の安全靴を脱ぎ、ラフな部屋着に着替えたキャルルさんが、大根をハフハフと頬張りながらウサギ耳を幸せそうに揺らしている。

 隣では、見習い女神のリリスが、度数四十度の『イモッカ』の瓶を抱えながら、村のおじさんたちと豪快に酒盛りをしていた。

「ぷはーっ! やっぱ仕事(?)の後のイモッカは五臓六腑に染み渡るねぇ! おじさん、ロックバイソンの牛すじ串、もう三本追加で!」

「リリスちゃん、すっかりオヤジくさくなっちゃって……」

 僕は苦笑しながら、手元のジンジャーエールを傾けた。

 夜風が心地いい。古代の化け物が現れた時はどうなることかと思ったけれど、村の被害も最小限で済み、こうしていつもの賑やかな日常が戻ってきた。

 キャルルさんの村長としての初仕事(防衛戦)も、大成功と言っていいだろう。

「……ふぅ。まったく、騒がしい村ね」

 僕の隣に、黒のパンツスーツ姿の義母さん――桜田リベラが、おでんの皿を持って腰を下ろした。

「お疲れ様、義母さん。被害の補償の書類、終わった?」

「ええ。ゴルド商会のオロチ会長に少しばかり『寄付』をさせてね、畑の修繕費は十分に確保できたわ。まあ、あんたたちがあのデカブツを秒殺してくれたおかげよ。よくやったわね、キッド」

 義母さんが、僕の頭をポンと優しく撫でてくれる。

 完璧な大人の女性の、優しい母親の顔。僕は少し照れくさくなって、「うん」と短く頷いた。

 義母さんは金製の煙管キセルを取り出し、ふうっと紫煙を吐き出すと、少し離れた場所に視線を向けた。

「で。あの『野良猫』たちは、いつまでウチの村でふんぞり返ってるつもりかしら?」

 義母さんの冷ややかな視線の先。

 そこには、泥だらけのジャージとモンペ姿から、村の銭湯で汗と泥を流し、なぜかポポロ村指定の『ダサいスウェット(胸にでかでかと「太陽」とプリントされている)』に着替えさせられた二人の女神がいた。

 世界神ルチアナと、月の女神カグヤである。

「ぷっはぁぁぁっ! 最高! 芋掘りで汗をかいた後のイモッカと、おでんの出汁の組み合わせ、マジで最高ぉぉっ!」

「ルチアナ、あんた一人で牛すじ食べすぎよ! 私にもよこしなさいよ! あーもう、下界の飯ってどうしてこんなに美味しいの!?」

 二人は、すっかり宴会に馴染んでいた。

 というより、完全に『田舎の酔っ払いのおばちゃん』と化していた。

 神界の甘露ネクターしか知らなかった彼女たちの味覚は、ポポロ村の荒々しくも旨味の強い特産品と酒によって、完全に破壊アップデートされてしまったのだ。

「ちょっと、あんたたち」

 義母さんが、コツン、コツンとヒールを鳴らして二人に歩み寄った。

「借金の分、太陽芋の収穫はまだ千個しか終わってないわよ。今日はイレギュラーな事態が起きたから休ませてあげたけど、明日からまた労働よ。……それが嫌なら、早く借金返して神界に帰りなさい」

 冷たく言い放つ義母さん。

 普通なら、最高位の神様に対してこんな口を利けば天罰が下るところだが、ルチアナとカグヤは、義母さんの言葉にビクッと肩を震わせると――。

「い、嫌だぁぁぁぁっ!!」

 ルチアナが、猛烈な勢いで僕の足元にスライディングし、両手で僕の右脚にガッシリとしがみついた。

「帰りたくないぃぃっ! 神界に帰ったら、また毎日世界創造の稟議書にハンコを押すだけの退屈な日々が待ってるのよぉっ! ここにいる方が、美味しいご飯も食べられるし、何よりキッド君がいるじゃないぃぃっ!」

「そうよ! 私も帰らないわ!」

 カグヤも負けじと僕の左脚にしがみつく。

「私の陣営、最近信仰心が足りなくて予算がカツカツなのよ! 月ウサギたちからの突き上げも酷いし……もう疲れたの! だから、キッド君! 責任とって私を養いなさいよぉぉっ!」

「責任って何!? 僕、何もしてないですよね!?」

 神様二人が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、大声で駄々をこねる。

 もはや、威厳もプライドもクソもない。ただの『限界OLの現実逃避』である。

 最高位の神様が、下界の村で、十六歳の少年に「養って」と号泣しながらヒモニート宣言をしているのだ。ゴッドチューブで配信されたら、即座に大炎上してサーバーが落ちるレベルの放送事故である。

「こらーっ! 先輩たち、いい加減にしてください!」

 見かねた見習い女神のリリスが、イモッカの瓶を振り回しながら止めに入る。

「これ以上キッド君に迷惑かけたら、私がゴッドチューブの運営に『世界神が下界で無銭飲食してスウェットで泣き喚いてる動画』をリークしますよ!」

「ひぃっ!? リリス、あんたなんて恐ろしい後輩なの!?」

「だ、ダメよ! 私の月の女神としてのブランドイメージが崩壊しちゃうぅぅっ!」

 リリスのえげつない脅迫に、ルチアナとカグヤは青ざめて震え上がった。

 だが、それでも僕の脚からは絶対に離れようとしない。

「キッドくぅぅん……お願ぁぁい、一日三食おでんとコロッケでいいから、ここに置いてぇぇ……」

「お掃除も洗濯も、魔法でパパッとやるからぁぁ……」

 上目遣いで、必死に『養ってアピール』をしてくる二人の女神。

 その後ろでは、義母さんが「やれやれ、本当にどうしようもない野良猫ね」と呆れ果てて肩をすくめている。キャルルさんは「神様がニート……神様がニート……」と、常識が崩壊してブツブツと呟いていた。

 僕は、必死にしがみついてくる二人を見下ろし、ふうっと小さく息を吐いた。

(……まあ、二人とも根は悪い人(神様)じゃないし。畑の芋掘りも、文句を言いながらちゃんとやってくれてたみたいだし)

 僕が【イクリプス・スラッシュ】を放った時、二人とも本気で僕の身を案じて叫んでくれていたのを、僕はちゃんと聞いていた。

 それに、この騒がしくてポンコツな神様たちがいると、ポポロ村の日常がさらに賑やかになりそうな気がしたのだ。

「……やれやれ」

 僕は苦笑しながら、手元にあった月見大根のおでんの皿を二つ、ルチアナとカグヤの前に差し出した。

「借金はちゃんと働いて返してもらいますけど。それまでは、ポポロ村にいてもいいですよ。おでん、まだたくさんありますから、冷めないうちに食べてください」

「「キッドくぅぅぅんっ!!」」

 僕の言葉に、二人の女神は歓喜の声を上げ、おでんの皿に飛びついた。

 「美味しいぃぃっ!」「大根最高ぉぉっ!」と泣きながら頬張る姿は、神様というより、本当にただの迷子の子供みたいだ。

「キッド。甘やかしすぎよ。これだから『優しさ A』は厄介ね」

 義母さんがため息をつきながら、僕の隣に並んだ。

「ごめんね、義母さん。でも、家族が増えるのも、悪くないかなって」

「……ふふっ。まあ、ウチの事務所の掃除係くらいには使えそうね」

 義母さんが、悪戯っぽく微笑んで煙管をふかした。

 月兎族の新村長、キャルル。

 見習い女神の、リリス。

 そして、居候のヒモニート神、ルチアナとカグヤ。

 僕の周りには、いつの間にかこんなにもたくさんの、騒がしくて温かい絆が生まれていた。

 鳥籠の中で一人ぼっちだった僕に、義母さんが教えてくれた『日常』は、僕の予想を超えて、どんどん広がりを見せている。

「キッド君! 次はあのピラダイのお刺身、一緒に食べよー!」

「あ、キャルルさん、ずるい! 私も食べるー!」

 キャルルさんとリリスが、僕の手を引いて宴会の輪の中心へと引っ張っていく。

 空を見上げると、ぽっかりと浮かんだ月が、ポポロ村の賑やかな夜を優しく照らしていた。

 神々が堕落し、ウサギが跳ね回る。

 規格外の万能少年と最恐のオカンが守る、最高に優しくて理不尽な村の物語は、まだまだこれからも続いていく。

 今はただ、この騒がしくも愛おしい月下の宴を、心ゆくまで楽しもう。

【第2章・完】

第2章『新村長とポンコツ女神の農業体験編』、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!

バトルが終わってからの、このドタバタな飯テロ宴会!

最高位の神様であるはずのルチアナとカグヤが、完全に「スウェット姿のヒモニート」に堕落し、キッドに「養って!」と号泣する姿は、まさに威厳ゼロの極みですね(笑)

しかし、キッドの「やれやれ」と言いながらも受け入れる包容力イケメンムーブと、リベラ母さんの呆れ顔の裏にある優しさで、二人はポポロ村の新たな「家族(居候)」となりました!

キャルル村長やリリスも含め、ポポロ村はますますカオスで賑やかな拠点となっていきます!

ここまで読んで、「第2章も最高に面白かった!」「神様ポンコツすぎて好きww」「おでん食べたい!」と思っていただけましたら、

ページの一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、どうかこの作品を応援してやってください!

(皆様からの評価ポイントとブックマークが、作者にとって最大の執筆エネルギーです! ランキング上位を目指すためにも、ぜひポチッとお願いいたします!)

ポポロ村に住み着いた神様たちとのドタバタ日常は続くのか?

そして、死甲虫機の出現が意味する『古代の厄災』の影は……?

次回から『第3章』がスタートします!

更なるスケールアップと、キッドたちの無双&ざまぁをお楽しみに! 明日も更新します!

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