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神々の農業体験と、死の甲虫

神々の農業体験と、死の甲虫

 ポポロ村の広大な農地。

 どこまでも続く青空の下、村の特産品である『太陽芋』の畑には、ギラギラとした夏の太陽が容赦なく照りつけていた。

「……ねえ。なんで世界神であるこの私が、炎天下で芋掘りなんてしてるわけ……?」

 麦わら帽子に、首にはタオル。そして泥だらけのジャージ姿という完璧な『農家スタイル』で、ルチアナがスコップを片手に虚ろな目で呟いた。

「うるさいわね、あんたのせいよ! ああもう、私の月光石のネイルが泥だらけ……っ! 私のハイブランドドレスも、リベラに担保として没収されるし……どうしてこんな目に……!」

 その隣では、同じく麦わら帽子にモンペ姿へと着替えさせられたカグヤが、半泣きになりながら土を掘り返している。

 最高位の神様である二人は、義母さん(リベラ)の法的かつ物理的な圧力に屈し、ルナキンの無銭飲食代と高級レンタカーの延滞料金を稼ぐため、ポポロ村の畑で日雇いの農作業バイトに従事させられていたのである。

「お疲れ様、二人とも。冷たい麦茶を持ってきたよ」

 僕が冷えた麦茶の入った水差しとグラスを持って近づくと、二人はスコップを放り出して、ゾンビのように僕にすがりついてきた。

「き、キッドくぅぅん……っ! 麦茶! 麦茶ちょうだい! もう喉がカラカラよぉっ!」

「手が豆だらけよ! 神である私にこんな重労働をさせるなんて、あのオカン(リベラ)は悪魔よ! 早く私を養ってぇぇっ!」

 僕の両腕にぶら下がり、泥だらけの顔で泣きつくルチアナとカグヤ。

 僕は苦笑しながら、グラスにたっぷりと麦茶を注いで二人に渡した。

 二人は「ぷっはぁぁぁっ!」とおっさんのような歓声を上げ、一瞬で麦茶を飲み干す。

「こらーっ! そこのポンコツ神様二人! 休憩は十分間だけですよ!」

 そこに、タローマン特注の安全靴を履いた新村長、キャルルさんが元気に走ってきた。

 彼女のウサギ耳はピンと立ち、手には村長らしく(?)クリップボードを抱えている。

「借金返済まで、あと太陽芋を五千個は掘ってもらわないといけないんですからね! サボってたら、リベラさんに報告して時給を銅貨二枚に減らしてもらいますから!」

「ご、五千個ぉぉっ!?」

「鬼! 悪魔! このウサギ、笑顔でとんでもないノルマを押し付けてくるわ!」

 絶叫する二人の女神だったが、キャルルさんの背後にチラつく『六法全書』の影を恐れ、泣く泣く再びスコップを握りしめた。

 ポポロ村ののどかな風景に、神々の悲鳴がこだまする。

 平和だ。本当に、平和な午後だった。

 ――しかし。

 その『平和』は、文字通り、足元から突如として崩れ去った。

 ズズズズズズズッ……!!

「……え?」

「地震……?」

 地面が、不自然に揺れ始めた。

 最初は微かな振動だったが、それは瞬く間に立っていられないほどの激しい揺れへと変わっていく。

 僕のネフィリムとしての感覚が、強烈な『死の匂い』と『悪意』を感知し、全身の産毛が逆立った。

「キッド君、これ……普通の地震じゃない!」

「うん。地下から、とんでもない質量の何かが上がってくる……!」

 僕とキャルルさんが警戒態勢に入った、その時。

 それまで文句ばかり言っていたルチアナとカグヤの顔色が一変した。

「嘘でしょ……このおぞましい魔力の波長……! カグヤ、あんたも感じるわね!?」

「ええ……っ! 間違いないわ。創世記の時代に、神々が総力を挙げて地中深くに封印した『古代兵器』の残滓……!」

 二人の女神が青ざめた顔で足元を見つめる。

 かつて、ポポロ村の地下には、妖精キュルリンが創り出した『厄災迷宮』が存在した。

 僕が【イクリプス・スラッシュ】で迷宮を次元ごと両断した際、その余波で地殻の封印が僅かに緩んでいたのだ。

 そして今日、この畑に『最高位の神々(ルチアナとカグヤ)』が直接降臨し、無防備に神気を垂れ流していたことで。

 地中深くで眠っていた『最悪の厄災』が、その神気を極上のエサとして認識し、目を覚ましてしまったのである。

 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!

「きゃあああっ!?」

「地面が、割れるぅぅっ!!」

 ルチアナとカグヤが悲鳴を上げて後退した直後。

 広大な太陽芋の畑の中央が、火山の噴火のように大爆発を起こし、土砂が数十メートル上空へと吹き飛んだ。

「グルルルルルォォォォォォォォッ!!!」

 土煙の中から姿を現したのは、全長十メートルを超える巨大な黒い影だった。

 黒曜石のように分厚くテカテカと光る重装甲。

 巨大なアゴと、刃のように鋭い六本の脚。

 その不気味な複眼は赤黒く発光し、周囲の草木を瞬時に枯死させるほどの猛毒の瘴気を撒き散らしている。

「……『死甲虫機ネクロビートル』!!」

 カグヤが絶望的な声を上げた。

「なんであんな化け物がポポロ村の地下に!? あれは、神話の時代に世界を食い尽くそうとした『死蟲王サルバロス』の直属の眷属よ! Sランクの古代兵器じゃない!!」

「マズい……! あいつ、私たちの『神気』をエサだと思って狙ってきてるわ!」

 ルチアナの言葉通り、死甲虫機ネクロビートルは、赤黒い複眼をギョロリと動かし、ジャージとモンペ姿の二人の女神を完全にロックオンした。

「ギシィィィッ!!」

 凄まじい駆動音と共に、十メートル級の巨体が、戦車のようなスピードでルチアナとカグヤに向かって突進を開始する。

 大地が抉れ、大切に育てられた太陽芋が次々と宙に舞い、無惨に踏み潰されていく。

「ひぃぃぃぃぃっ!! 食べられるぅぅぅっ!!」

「キッドくぅぅん! 助けてぇぇっ!! 私たち、神界の管理権限パスワードがないと、下界じゃ本来の力の1パーセントも出せないのよぉぉっ!!」

 ただのポンコツだと思っていたが、下界では本当に無力だったらしい。

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして逃げ惑う二人の女神。

 周囲で農作業をしていた村人たちも、突如現れた古代の化け物にパニックを起こし、悲鳴を上げて逃げ惑っている。

 逃げ遅れた村の子供が、死甲虫機の巨大な脚の影に入りそうになった、その刹那。

「――私の村の畑を荒らすなァァァァッ!!」

 ドンッ!!

 凄まじい衝撃音と共に、タローマン特注の安全靴を履いたキャルルさんが、死甲虫機の真正面に飛び出した。

 彼女のウサギ耳は怒りに逆立ち、腰から引き抜いた二本のトンファーには、月兎族の限界を超えた極大の『闘気』が黄金色に輝きながら収束している。

「キャルルさん!」

「キッド君! 合わせるよ!!」

 キャルルさんが僕に向かって叫ぶ。

 彼女の目に、恐怖はない。あるのは、新村長として、大切な村人たちとこの日常を守り抜くという強固な決意だけだ。

「……うん。分かった!」

 僕は麦茶の入った水差しを静かに地面に置き、背中に手を伸ばした。

 シャラァァァンッ……!

 白銀の神剣『ルクス』と、漆黒の魔剣『ノワール』が、主の意思に呼応して鞘から解き放たれる。

 神々ですら絶望する古代の厄災を前に。

 新村長と万能の少年の、完璧なコンビネーションが今、炸裂しようとしていた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

借金返済のためにジャージとモンペ姿で芋掘りをするルチアナとカグヤ! (威厳ゼロです!)

しかし、そんな平和なコメディをぶち壊すように、ポポロ村の地下から古代兵器『死甲虫機ネクロビートル』が出現!

これも実は、第1章でキッドが迷宮を両断した影響と、神々が無防備に神気を放っていたことが原因という伏線回収になっています。

逃げ惑う神様たちを守るため、ついに新村長キャルルとキッドが動きます!

次回、キャルルのタローマン特注安全靴による必殺の『月影流・顎砕き』からの、キッドの【イクリプス・スラッシュ】への超絶コンボが炸裂します! 爽快感MAXのバトルをお見逃しなく!

もし「神様たちポンコツすぎるww」「キャルルかっこいい!」「バトル展開熱い!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ページの一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!

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次回『月影流と聖魔竜王剣の共闘』

お楽しみに!

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