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リベラVS神々 ~オカンの絶対防壁~

リベラVS神々 ~オカンの絶対防壁~

 ポポロ村の夕暮れ時。

 桜田リベラ法律事務所の重厚なアンティーク調の扉が、バンッ!と勢いよく開け放たれた。

「たのもーっ! ここがキッド君の保護者の家ね!」

「ちょっとルチアナ、下品よ! ……ごめんあそばせ。世界神のルチアナと、月の女神カグヤが参りましたわよ!」

 事務所にずかずかと上がり込んできたのは、ジャージ姿のルチアナと、ハイブランドドレスのカグヤだった。

 二人は、僕の左右の腕にちゃっかりと抱きついたまま、偉そうな態度でリビングを見渡している。その後ろからは、キャルルさんとリリスが「あちゃー……」という顔でついてきていた。

 リビングの奥。

 マホガニーの重厚なデスクに座り、書類に目を通していた義母さん――桜田リベラが、ゆっくりと顔を上げた。

「……キッド。随分と騒がしい野良猫を二匹も拾ってきたわね」

 義母さんは、手にした金製の煙管キセルをコンッと灰皿に叩き、氷のように冷たい視線を二人の女神に向けた。

「の、野良猫ですって!? 恐れ多くも神界のトップである私たちを捕まえて、なんて口の利き方――」

義母かあさん、ただいま。ルナキンの駐車場で困ってたから、少しだけ助けてあげたんだけど……なんか、懐かれちゃって」

「そう。優しいウチの息子に迷惑かけて、随分と図々しい神様たちね」

 義母さんの圧倒的な『大人の女のオーラ』と、冷ややかなプレッシャーに、ルチアナとカグヤは一瞬たじろいだ。

 しかし、すぐにカグヤがコホンと咳払いをして、高飛車な態度を取り繕う。

「ふん。まあいいわ。単刀直入に言うわね。キッド君を、私たちの神界に連れて帰りたいの。彼は規格外のネフィリム……下界のこんな田舎村に置いておくには惜しい逸材よ。私たち神々が、責任を持って『最高の待遇』で養ってあげるわ!」

「そうよ! 一生遊んで暮らせるタワマンと、豪華な食事を約束するわ! だから、この子の保護者であるアナタからも許可を出しなさい!」

 二人の女神は、ビシッと義母さんを指差して宣言した。

 神界への招待。並の人間であれば、平伏して喜ぶような提案だろう。

 だが、義母さんは表情一つ変えず、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

 そして。

『グルルルルッ……』

 義母さんの足元に控えていた漆黒のケルベロス、アモンが、三つの頭を低く下げて唸り声を上げた。

 その三つの鼻が、ヒクヒクと忙しなく動き、ルチアナとカグヤの周囲の空気を嗅ぎ取っている。

「どうしたの、アモン」

『……リベラ様。コヤツらから、極めて生臭く、そして怠惰な匂いがします。……キッド様を思いやる心など微塵もありません。ただただ、キッド様を利用して楽に儲けたいという「邪心」の塊です』

「なっ!?」

 アモンの容赦ない指摘に、ルチアナとカグヤの肩がビクッと跳ねた。

 アモンは真ん中の頭で、二人の深層心理を冷徹に読み上げ始める。

『左側のジャージの神は「この子をゴッドチューブで専属配信させれば、スパチャだけで何十億Gも稼げる! そしたら私は一生コタツでポテチ食って寝てられるわ!」と考えています』

「ひぃっ!?」

『右側のドレスの神は「ルチアナを出し抜いて私の事務所(陣営)に入れれば、月ウサギブランドの価値が爆上がりして、高級バッグ買い放題じゃないの!」と考えています』

「い、いやぁぁっ! 恥ずかしい本音が筒抜けぇぇっ!?」

 アモンの完璧な『読心術』の前に、二人の最高位の女神は顔を真っ赤にして狼狽した。

 静寂が下りる。

 義母さんは、煙管をデスクに置き、立ち上がった。

 ヒールが床を叩く音が、カツン、と事務所に響く。

 彼女の纏う空気が、完璧な標準語の敏腕弁護士から、修羅の如き『最恐のオカン』へとシフトチェンジした。

「……分かっとるわ」

 ドスの効いた、岡山弁。

「大方、ファミレスの駐車料金すら払えんような見栄っ張りのすっからかん女が、ウチの可愛い息子の稼ぎを当てにして、寄生しようと企んだんじゃろうが」

 義母さんの放つ殺気(六法全書オーラ)が、物理的な重圧となってルチアナとカグヤにのしかかる。

 二人は「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、僕の後ろに隠れるようにすがりついた。

「あんたらみたいなのをな、帝都じゃ『港区女子みなとくじょし』って呼ぶんよ」

 義母さんが、ジリッと二人に歩み寄る。

「ブランドもんで着飾って、神様気取りで上から目線。じゃが、財布の紐は他人に握らせて、自分じゃ一銭も払おうとせん。……そんな自堕落で薄っぺらい港区女子もどきに、ウチの大事な息子をやれるわけないじゃろうが!!」

 ダァァァンッ!!

 義母さんがデスクに叩きつけたのは、分厚い『六法全書』だった。

「刑法第二百二十四条『未成年者略取及び誘拐』! 並びに、ウチの息子をダシにした詐欺未遂! 神様じゃろうが何じゃろうが、ウチのキッドの日常を金儲けの道具にしようとするなら、この六法全書で神界のサーバーごと物理でカチ割って、損害賠償で身ぐるみ剥いじゃるけえな!!」

「ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!!」

「もうしません! 慰謝料とか無理です! お金ないんですぅぅぅっ!!」

 世界神と月の女神は、最強のオカンの前に完全に屈服し、床にジャンピング土下座をキメていた。

 その見事なスライディング土下座は、オロチ会長のそれを彷彿とさせるほど美しかった。

「あはは……義母さん、これくらいで許してあげて。二人とも、根は悪い神様じゃないみたいだから」

「キッド君は天使ねぇぇぇっ! 一生ついていくわぁぁっ!」

「キッドくぅん、助けてぇぇっ!」

 僕がとりなすと、二人は僕の足元にすがりついてワンワンと泣き始めた。

 その後ろで、キャルルさんが「神様って、こんなに威厳がないものなんですか……?」と呆然と呟き、リリスが「ね? 言った通りでしょ」と肩をすくめている。

 義母さんは「ふぅ」とため息をつき、乱れた前髪をかき上げた。

「……まったく。キッドがそう言うなら、誘拐未遂の件は不問にしてあげるわ」

「ほ、ほんと!?」

「その代わり。あんたら、ルナキンでの飲食代と、ここまで乗ってきたレンタカーの代金、どうやって払うつもり?」

 義母さんの鋭い指摘に、ルチアナとカグヤはピタリと動きを止めた。

 そうだ。二人はリリスに財布をスラれ(本人は忘れたと思い込んでいるが)、現在無一文のすっからかんなのだ。

「えっと……そ、それは……」

「神界に戻って、お金を取ってくれば……」

「却下よ。あんたらの神力を担保に、ウチが立て替えてあげたっていいけど、利子は十日で一割トイチよ」

「悪徳金融!? 神様相手にトイチ!?」

 義母さんはニヤリと、悪魔のような笑みを浮かべた。

「お金がないなら、身体で払ってもらうしかないわね。ポポロ村の広大な『太陽芋』の畑が、人手不足で困っているの。村長のキャルルちゃんから、日雇いの農作業バイトの依頼書を出してもらうわ。……時給は銅貨三枚からよ」

「ど、銅貨三枚!? 私たち、最高位の神様なのに、下界で芋掘りさせられるのぉぉぉっ!?」

「嫌よぉぉっ! 私のハイブランドのドレスが泥だらけになっちゃうぅぅっ!」

 絶叫するルチアナとカグヤだったが、義母さんの「嫌なら六法全書(物理)の刑に処すわよ」という無言の圧力に逆らえるはずもなく。

 こうして。

 キッドをスカウトしにやってきた神界のトップ二人は、オカンの絶対防壁の前にあえなく敗れ去り、借金返済のためにポポロ村で『農業従事者』として強制労働させられることとなったのである。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

やってきました、リベラ母さんの恐怖の説教タイム!

神界のトップだろうが、キッドを利用しようとする自堕落な『港区女子(神)』には、容赦なく六法全書(物理)が叩きつけられます!

アモンの読心術による精神攻撃からの、リベラ母さんのコンボは悪党(ポンコツ神)に効果抜群ですね!

すっからかんになったルチアナとカグヤは、ついに借金返済のためにポポロ村で「芋掘り」のバイトをすることに……!

次回、ただのドタバタギャグで終わらないのがこの物語。

神々が芋を掘る平和な畑の地中から、古代の厄災が目を覚まします!

もし「リベラ母さん強すぎww」「港区女子(神)で笑った!」「アモン有能!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ページの一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!

(皆さんの応援がランキングを駆け上がる力になります!)

次回『第8話:神々の農業体験と、死の甲虫』

お楽しみに!

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