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新たな噂「聖魔の双剣使い」

新たな噂「聖魔の双剣使い」

 ――ルナミス帝国、帝都の中心部にそびえ立つ白亜の宮殿。

 その厳かな謁見の間に、近衛騎士団長キュロスが足早に足を踏み入れた。

「マルクス皇帝陛下。ポポロ村周辺の緩衝地帯で発生した『魔獣の異常大移動』に関する追加報告が入りました」

「うむ、聞こう」

 玉座で分厚い書物から顔を上げたマルクス皇帝は、鋭い眼光でキュロスを見据えた。

「先日、ポポロ村に向けて数百規模の魔獣群が何者かによって差し向けられた事件ですが……被害は『皆無』とのことです。村の畑一つ、家屋一つ傷ついておりません」

「……皆無? あのポポロ村の重武装自警団が、総力を挙げて防衛したのか?」

「いえ、それが……」

 百戦錬磨の近衛騎士団長であるキュロスが、微かに言い淀む。

「『一人の少年』が、単独で魔獣の群れを無力化した、との目撃情報が多数上がっております。白銀と漆黒の双剣を操り、光と闇を融合させた魔力を放つ、白いパーカーの少年……。冒険者たちの間では、彼を『聖魔の双剣使い』と呼ぶ者も出始めています」

「光と闇の双剣、か」

 マルクス皇帝は顎に手を当て、深く考え込んだ。

 ルナミス帝国において、魔導兵器の発達により個人の武力は絶対的なものではなくなりつつある。だが、それを覆すほどの規格外の『個』が存在するとすれば、話は別だ。

「……ポポロ村には、あの厄介極まりない『桜田リベラ法律事務所』があったな。どうやらあの緩衝地帯には、我々の想像を超える何かが育っているらしい。引き続き、極秘に調査を進めよ。手出しは無用だ」

「はっ!」

 ――同時刻。アバロン魔皇国の首都近郊、とある競馬場の野外スタンド。

「……ほう。Sランクの古代兵器をワンパンし、さらには数百の魔獣をたった一人で退けた、か」

 魔皇国の穏健派貴族、ルーベンスは、ルナミス新聞の三面記事と裏社会の極秘レポートを交互に眺めながら、手にした芋酒イモッカのグラスを揺らした。

「魔族の父と天使の母を持つネフィリムの生き残り……。しかも、あの『ゴッドチューブ』で我が国の魔王様がドハマりしている配信の主と同じ少年だろうな。まったく、厄介な火種が生まれたものだ」

 ルーベンスは、ポポロシガーの煙をゆっくりと吐き出した。

 彼の周囲の魔族兵たちも、口々に『聖魔の双剣使い』の噂で持ちきりになっている。

「だが、世界が少し面白くなってきたのも事実だ。平和ボケした各国の上層部が、あの少年の存在にどう踊るか……見物だな」

 大陸全土で、確実に『キッド・ジーニアス』という存在が認知され、静かな波紋を広げ始めていた。

 ***

 そんな各国の喧騒など、当の本人にはまったく届いていなかった。

義母かあさーん! タローマートの特売日、太陽芋とひき肉買ってきたよー!」

「ありがとう、キッド。助かるわ。今夜はコロッケにしましょうか」

 ポポロ村の桜田リベラ法律事務所。

 僕は両手にスーパーの買い物袋を提げて、玄関をくぐった。

 キッチンからは、義母さんが刻んでいるタマンネギ(賢者モード)のいい香りが漂ってきている。

 偽勇者ゼロスとその裏で糸を引いていた神様の企みを叩き潰してから、数日が経っていた。

 ゼロスたちは義母さんのえげつない法的措置によって全財産をむしり取られ、今頃はドンガン地下帝国の最深部で強制労働(マグローザ漁船行きよりはマシな環境らしい)に従事しているはずだ。

「キッド様、おかえりなさいませ。その買い物袋、私がキッチンまでお運びしましょう」

「あ、ありがとうアモン」

 三頭犬のアモンが器用に真ん中の口で買い物袋を受け取り、キッチンへと運んでくれる。

 僕はホッと息をつき、背中の双剣――『ルクス』と『ノワール』を特製の革袋ごと下ろして、リビングの壁に立てかけた。

「午後からは、ルナキンでリリスと会う約束だったわね。お小遣い、足りてる?」

「うん。オロチ会長からのお駄賃(お使い代)がまだ残ってるから大丈夫」

 義母さんはエプロンで手を拭きながら、クスッと笑った。

「そう。あまりあの見習い女神を甘やかしちゃダメよ? 彼女も立派な神様なんだから、自立心を育てないと」

「あはは。でも、リリスはお腹を空かせるとポンコツ度が増すからね。ポテトくらい奢ってあげるよ」

 僕は義母さんに手を振り、再びポポロ村ののどかな大通りへと出た。

 空は高く、心地よい風が吹いている。

 すれ違う村人たちが「おお、キッド君! 今日も畑の害獣駆除、頼むぞ!」「おばちゃんが作った月見大根のおでん、後で食べにおいで!」と気さくに声をかけてくれる。

 僕が『聖魔の双剣』を抜いて戦ったことを知っている村人は、自警団の一部だけだ。彼らも義母さんから「キッドの平穏を乱したら、六法全書で村ごと更地にするわよ」と笑顔で脅されているため、僕を特別扱いすることはない。

 僕は、このポポロ村の優しい空気が大好きだった。

 ルナミスキング(ルナキン)のポポロ村支店に到着すると、窓際のいつもの席で、ピンクのジャージを着た見習い女神・リリスがエンジェルすまーとふぉんを必死に操作していた。

「お待たせ、リリス。世界創造エターナルの進捗はどう?」

「あっ、キッド君! 見て見て、やっと地形が完成したの! あとは予算内でどんな生き物を配置するか……なんだけど……」

 リリスは、テーブルの上に置かれた特大のチョコレートパフェ(僕が奢ったものだ)をスプーンでつつきながら、急に声を潜めた。

「あのね、キッド君。……神界が、今すごいことになってるの」

「神界が? 前に言ってたゴッドチューブの配信のこと?」

「ううん。配信のバズりもそうなんだけど……あの後、キッド君がやっつけた『偽勇者』のバックにいたワイズって神様が、運営から永久BANされたでしょ?」

「うん。悪いことをした罰だよね」

 僕がジンジャーエールをストローで飲みながら頷くと、リリスは真剣な顔で首を横に振った。

「神様がBANされるって、神界では前代未聞の大事件なんだよ! しかも、その原因を作ったのが下界の『ネフィリムの少年』だって分かって……今、世界神会議(トップ層の会議)で、キッド君の存在が正式な議題に上がろうとしてるの!」

 リリスのピンク色の瞳が、不安げに揺れている。

「キッド君のその『光と闇の神剣』は、神界でもコントロールできない規格外の力。だから、神様たちの中には『キッド君を危険視して排除すべき』って言う派閥と、『うちの陣営の戦力として囲い込もう』って言う派閥がいて、真っ二つに割れてるんだって」

「……そっか」

 僕はグラスの水滴を指でなぞりながら、ふうっと小さく息を吐いた。

「ルチアナ先輩やラスティアさんは、『勝手にやらせておけばPV稼げるし放置でいいじゃーん』って言ってるみたいなんだけど……主神のオリン様が胃薬飲みながら悩んでるって」

 リリスは心配そうに僕の手を握ってきた。

「ごめんね、キッド君。神様が勝手に騒いで、キッド君の平和な日常を邪魔しようとしてる……。私が見習いじゃなくて、もっと偉い神様だったら、キッド君を守ってあげられるのに……」

 泣きそうに顔を歪めるリリスに、僕は苦笑しながら彼女の頭をポンポンと撫でた。

「大丈夫だよ、リリス」

「え?」

「前に言ったでしょ? 相手が神様だろうと、帝国だろうと、魔皇国だろうと。僕の日常を理不尽に奪おうとするなら、僕が全部斬り捨てるって」

 僕は、背中の革袋に収められた双剣の重みを確かめる。

「それに、僕には世界最強の『義母さん』がついているからね。もし神様が無理やり僕を連れ去ろうとしたら、義母さんが神界まで乗り込んで、六法全書で神殿を更地にしちゃうかもしれないよ」

「あ……」

 リリスは、リベラ先生が物理でダンジョンを破壊した姿を思い出したのか、ふにゃりと顔の緊張を解いた。

「ふふっ……確かに。リベラ先生なら、主神のオリン様でも泣かしちゃいそう」

「でしょ? だから心配しないで。リリスはリリスの、優しい世界エターナルを創ることに集中してよ」

「うんっ! 私、頑張るね!」

 笑顔を取り戻したリリスが、チョコレートパフェを大口で頬張る。

 僕はその姿を見守りながら、窓の外のポポロ村の景色を眺めた。

 世界が僕を『聖魔の双剣使い』と呼び、神々が僕を監視しようとも。

 鳥籠の中で死を待つだけだった僕に、温かい居場所と名前をくれた義母さんのために。

 僕は、この優しくて愛おしい『日常』を、何があっても守り抜く。

 夕暮れの空の下、双剣を背負ったネフィリムの少年は、揺るぎない覚悟と共に静かに微笑んだのだった。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

第14話、キッドの圧倒的な力は『聖魔の双剣使い』という噂になり、帝国や魔王国、そして神界のトップ会議の議題にまで上り始めました!

世界がキッドを巡って動き出す中、当の本人はスーパーの特売日と義母さんのコロッケを楽しみにしているという、このギャップがキッドの魅力です(笑)

いよいよ次で、第1章の最終話となります!

キッドが自身の歩む道を明確にし、さらなるワクワクへ続く最高の引きをお届けします!

もし「各国の反応キタ!」「オカンのコロッケ食べたい!」「神様もオカンには勝てないww」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ページの一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!

(皆さんの応援がランキングを駆け上がる力になります!)

次回『第15話:俺はただ、この村を守りたいだけ(第1章・結)』

お楽しみに!

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