オロチ会長の土下座(アゲイン)
オロチ会長の土下座
「……あ、ぐ……ッ」
全身を貫くような鈍痛で、偽勇者ゼロス・ディバインは目を覚ました。
視界がぼやける中、彼は自分が地面に転がされ、太い麻縄で芋虫のように縛り上げられていることに気づいた。周囲には、彼が雇ったはずの盗賊団が、同じように猿轡を噛まされて転がっている。
「目が覚めたかしら、自称『勇者』さん」
頭上から降ってきたのは、氷のように冷たく、それでいて艶やかな女の声だった。
ゼロスが見上げると、そこには完璧な黒のパンツスーツを着こなした美女――桜田リベラが、金製の煙管をふかしながら彼を見下ろしていた。
彼女の背後には、ゼロスの『メッキ』を一撃で粉砕した白いパーカーの少年キッドと、三つの頭で牙を剥く漆黒のケルベロスが控えている。
「き、貴様ら……自分が何をしているのか分かっているのか!? 俺は神に選ばれし勇者だぞ! 莫大な資金と権力を持つ俺をこんな目に遭わせて、ただで済むと――」
「刑法第二百四十条『強盗殺人未遂』。並びに、破壊活動防止法違反。……あと、ウチの息子の夕飯の時間を邪魔した罪」
リベラは煙管の灰をコンッと落とすと、分厚い『六法全書』をゼロスの顔の横の地面に、ドゴォォォンッ!と叩きつけた。
地面がひび割れ、ゼロスの頬を小石がかすめる。
「ひぃっ!?」
「いいこと? アンタのチンケな『資金』や『権力』なんて、法廷とウチの前では紙切れ以下の価値しかないのよ」
ゼロスは強烈な殺気に震え上がりながらも、負けじと叫んだ。
「ふ、ふざけるな! 俺の背後には偉大なる神がついているんだ! 俺の資金は無限だ! 弁護士だか何だか知らないが、俺の金を積めば、帝国軍だって動かせるんだぞ!!」
その時だった。
「待つんだぎゃーーーーーッ!!」
夕闇の丘の向こうから、凄まじい土煙を上げて一台の魔導車が爆走してきた。
キキィィィィッ!と強引に急ブレーキをかけ、車から転がり出るように飛び出してきたのは、ド派手なスーツを着た初老の男。
ルナミス帝国最大のメガ・コーポレーション、ゴルド商会のオロチ会長である。
オロチ会長は、そのまま地面をズザーッと滑るようにして、リベラの足元で見事な『ジャンピング・スライディング土下座』をキメた。
数日前にも見た、既視感のある光景である。
「お、オロチ会長?」
「またかよ」
キッドが目を丸くし、ゼロスが呆気にとられる中、オロチ会長は地面に額を擦りつけながら号泣し始めた。
「り、リベラのお嬢ぉぉぉっ! わしは悪くない! わしは本当に知らなかったんだぎゃ!!」
「……何の話かしら、オロチ会長。ウチは今、このクズの取り調べで忙しいんじゃけど?」
リベラの声が、一段階低く、凄みを増した『岡山弁』へとシフトする。
オロチ会長はビクッと肩を震わせ、早口でまくし立てた。
「こ、この偽勇者と盗賊団が使っとった武器や装備! あれ、うちのゴルド商会の『悪徳ダミー子会社』が裏で横流ししとった非合法の品だったんだぎゃ! さっき帳簿を調べとって気づいたんよ! じゃから、お嬢に怒られる前に、わしからゲロしに来たんだぎゃーーっ!!」
「……ほう」
リベラの瞳が、スッと細められた。
アモンが三つの鼻をクンクンと鳴らす。
『リベラ様。オロチ氏の言葉に嘘はありません。彼は本当に先ほど気づき、保身のために爆速で密告に走ってきたようです』
「アモンンンンッ! お前は今日も優秀すぎるんだぎゃーっ! お嬢、わしは捜査に全面協力するから、ゴルド商会本体の解体だけは勘弁してちょうだい!!」
泣き叫ぶオロチ会長を見下ろし、リベラはニヤリと、悪魔のように美しく、そしてえげつない笑みを浮かべた。
「……ええよ、オロチ会長。アンタの罪は不問にしちゃる」
「ほ、本当かぎゃ!?」
「その代わり。ゴルド商会の全ネットワークと帝国銀行のコネを使って、今すぐこの『偽勇者』の口座と、資金の流れを完全に凍結・差し押さえしなさい。マネーロンダリングとテロ資金供与の疑いでね」
「御意だぎゃーーっ!! 一秒で全財産をスッカラカンにしてやるがね!!」
オロチ会長は懐から魔導通信石を取り出し、部下たちに猛烈な勢いで指示を飛ばし始めた。
ゼロスの顔から、一気に血の気が引いていく。
「な、なんだと……!? ま、待て! 俺の資金源は神からの直接供与で――」
『ピピピッ。口座の凍結を確認しました。残高、ゼロGです』
「はあああああ!?」
オロチ会長の通信石から無慈悲な音声が響く。
ゼロスのユニークスキル【マネー】は、その名の通り『手持ちの資金』を消費してステータスを強制的に引き上げる能力だ。
つまり、口座を凍結され、無一文になった今の彼は。
「これでアンタの『無限の資金』とやらも終わりね。レベル1の、ただの小悪党に逆戻りよ」
リベラが煙管をふかしながら、冷ややかに告げた。
ゼロスはガタガタと震え、信じられないものを見るような目でリベラとオロチを見上げた。彼がイキり散らしていた絶対的な『メッキ』は、キッドの力と、リベラの法によって完全に剥がれ落ちたのだ。
「さて。あとはこの被害総額と慰謝料、それにテロ未遂の賠償金を、アンタらの臓器……じゃなくて、一生かけて強制労働で支払ってもらおうかしら」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
ポポロ村の夕暮れに、偽勇者の情けない悲鳴が響き渡った。
――同時刻。
上空の神界、炎上神ワイズのサーバルームにて。
「ふざけるなァァァァァァッ!!」
ワイズは、完全に沈黙したゼロスのステータス画面と、凍結された口座情報を見て絶叫していた。
彼が企てた『村焼き悲劇からの勇者登場』という完璧なシナリオは、キッドの圧倒的な武力と、リベラという規格外の『オカン(法務官)』によって、跡形もなく粉砕された。
さらに悪いことは重なる。
『ピーン! 運営からのお知らせです』
ワイズのモニターに、真っ赤な警告文がポップアップした。
『あなたのアカウント【炎上神ワイズ】は、「ヤラセによる過度な暴力の扇動」「リスナーへの詐欺行為」などのコミュニティガイドライン違反により、永久凍結(BAN)されました。今期のあなたの予算は没収となります。異議申し立ては受け付けません』
「あ……あ、あ、ああああああああっ!?」
神界の予算獲得において、アカウントの永久BANは『死』を意味する。
ワイズの野望は、ネフィリムの少年に手を出したことで、完全に、そして無惨に潰えたのだった。
一方、そんなこととは露知らず。
ポポロ村の西門では、すべての事後処理(という名の法的恐喝)を終えたリベラが、満足げに伸びをしていた。
「ふぅ。これでスッキリしたわ。自警団のみんな、こいつらを村の地下牢に放り込んでおいて」
「「「了解です、リベラ先生!!」」」
重武装の自警団員たちが、怯えるゼロスと盗賊たちを連行していく。
リベラは振り返り、ずっと静かに事の成り行きを見守っていた僕に向かって、いつもの優しい母親の顔で微笑んだ。
「お待たせ、キッド。お腹空いたでしょ?」
「うん。すごくいい匂いがしてる。今日のほうれん草とベーコンのキッシュ、すごく楽しみなんだ」
僕は背中の双剣の重みを微かに感じながら、義母さんの隣に並んだ。
村は無事だ。僕たちの日常は、守られた。
「帰りましょう、キッド。アモンも、オロチ会長も、今日はよく働いたから夕飯をご馳走してあげるわ」
『グルルル! ありがとうございます、リベラ様!』
「うおおぉぉん! お嬢の手作りメシが食えるとは、生きててよかっただぎゃーーっ!」
歓喜するアモンとオロチ会長を引き連れて。
僕たちは、一番星が輝き始めたポポロ村の道を、温かい夕飯の待つ家へと向かって歩き出した。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
第13話、オロチ会長の華麗な土下座(二回目)によって、偽勇者ゼロスの資金源は完全凍結!
レベル1の小悪党に戻ったゼロスと、ゴッドチューブのアカウントを永久BANされた炎上神ワイズ。これにて、胸糞悪い悪党どもの企みは完全崩壊です!
キッドの規格外の力と、リベラ母さんのえげつない法的コンサルティングの前に、敵など存在しません!
今日もポポロ村の平和(と夕飯のキッシュ)は守られました!
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次回『第14話:新たな噂「聖魔の双剣使い」』
お楽しみに!




