本物と偽物(チートとメッキ)
本物と偽物
「……ふざけやがって。証拠もないのに、勇者である俺を愚弄するのか!」
ポポロ村の西門へと続く丘の上。
自作自演のマッチポンプを見破られた金髪の勇者ゼロス・ディバインは、顔を真っ赤にして剣を抜いた。
『やっちまえゼロス! シナリオ変更だ! 「悪しきネフィリムにそそのかされた盗賊を討伐しようとしたが、逆にネフィリムが本性を現して襲いかかってきた」って筋書きにする! そいつを殺して悲劇のヒーローを演じきれ!!』
神界から配信を見守る炎上神ワイズの狂った指示が、ゼロスの脳内に直接響く。
ゼロスはニヤァッと下劣な笑みを浮かべ、自身のユニークスキル【マネー】を限界まで解放した。ワイズから供給された莫大な神力(資金)が、強制的に彼のステータスを跳ね上げていく。
「オオオォォォォォッ!!」
ゼロスの全身から、眩い黄金の闘気が間欠泉のように噴き出した。
風が巻き起こり、周囲の小石が宙に浮く。見た目だけは、まさに伝説の英雄と呼ぶにふさわしい圧倒的なオーラだ。
「見たかガキ! これが選ばれし勇者の力だ! 俺のステータスは今、限界を突破している! お前のような不吉な交雑種など、一撃で消し飛ばしてやる!」
黄金の闘気を纏ったゼロスが、大上段に剣を構え、地面を蹴った。
ドゴッ、と土を抉る音と共に、目にも留まらぬ速度でキッドへと迫る。
「死ねェッ! 『シャイニング・メテオ・ストライク』!!」
大層な名前を叫びながら、ゼロスの剣が振り下ろされる。
その太刀筋は、確かに速く、重い。当たれば岩をも砕く威力が込められている。
だが。
キッドは、双剣を鞘から抜くことすらしなかった。
「……遅いし、雑だね」
キッドが、わずかに体を半歩だけズラす。
ゼロスの渾身の一撃は、キッドの白いパーカーの端をかすめることすらできず、虚しく空を斬り、地面に巨大なクレーターを穿っただけだった。
「なっ……!?」
「威力を上げるために大振りになりすぎている。それに、足腰の重心が全く安定していない。その剣、今日初めて振ったの?」
キッドの冷ややかな指摘に、ゼロスは血上り、「黙れェッ!」と連続で斬撃を放つ。
右、左、袈裟斬り、突き。
黄金の闘気が嵐のように吹き荒れるが、キッドは両腕をだらりと下げたまま、首を傾け、肩を引き、ステップを踏むだけで、そのすべての攻撃をミリ単位で回避し続けていた。
キッドの目には、ゼロスの動きがまるで『素人のコマ送り』のように見えていた。
ゼロスのステータスは確かに高い。だが、それは神の力(金)で強引に引き上げられただけの『メッキ』だ。
肉体が、その規格外の速度とパワーにまったくついていっていない。剣を振るたびに姿勢が崩れ、筋肉が悲鳴を上げ、関節が無理な負担に軋んでいる。
「ゼェ……ハァ……ッ! ちょこまかと……逃げるなァッ!」
「逃げてないよ。君の剣が、僕に届く軌道を描いていないだけだ」
キッドは、息一つ乱していない。
ゼロスが大振りの突きを放ってきた瞬間。キッドはそれを避けるだけでなく、スッと前へ踏み込み、ゼロスの懐に完全に入り込んだ。
「義母さんから教わったんだ。強すぎる力は、器が伴わなければただの自滅にしかならないって」
キッドの手が、鞘に収まったままの『ノワール』の柄を握る。
そして、流れるような動作で、ゼロスの剣を持つ手首を、鞘の先端でトンッ、と軽く叩いた。
「ガァッ!?」
たったそれだけ。
だが、キッドの極限まで洗練された『闘気』と、合気道の『理合』が込められたその一撃は、ゼロスの腕の神経を完全に麻痺させた。
ゼロスの手から剣がこぼれ落ち、黄金の闘気が一瞬にしてブレる。
「お前、自動車学校に通わないで、フェラーリを運転してどうするんだ?」
キッドの静かな声が、ゼロスの耳元で響いた。
「レベル1のお前が、金で買ったレベル100のステータスを操作できるわけないだろ。一体お前は、その見掛け倒しの装備と金を全部剥がしたら、何が残るんだ?」
「あ、が……ッ」
図星を突かれ、ゼロスの顔が恐怖と屈辱で歪む。
「君の剣には、誰かを守りたいっていう『覚悟』が微塵もない。そんな薄っぺらい力じゃ、僕の日常には傷一つつけられないよ」
キッドが、鞘のままの双剣を交差させ、ゼロスの鳩尾に押し当てた。
そして、ほんのわずかだけ、ネフィリムの魔力を解放する。
「――寝てて」
ドォォォォンッ!!
凄まじい衝撃波がゼロスの背中側へと突き抜け、彼の纏っていた黄金の闘気がガラスのように粉々に砕け散った。
ゼロスは白目を剥き、胃液を吐き出しながら、無様なカエルのように地面を転がっていく。
その衝撃で、彼が履いていた分厚いシークレットブーツが両方ともすっぽ抜け、宙を舞ってポトリと落ちた。
勝負は、一瞬だった。
本物の『チート』の前に、金で買っただけの『メッキ』が完全に剥がれ落ちた瞬間だった。
――チーン。
神界のサーバルーム。
炎上神ワイズの目の前のモニターには、哀れな姿で気絶した契約勇者ゼロスの姿と、それを見下ろすキッドの姿が映し出されていた。
「バ、バカな……! 俺の神力を限界まで注ぎ込んだ勇者が、剣すら抜いていないガキに、手も足も出ずに負けただと……!?」
ワイズのチャンネルのコメント欄は、完全に大炎上状態に陥っていた。
『は? なんだこのクソダサい勇者www』
『シークレットブーツwww しかも金でステータス買ってただけかよwww』
『自作自演で村を襲わせて、挙句の果てにボコられるとか、過去最高にダサい配信だな!』
ワイズが必死に画面を操作しようとするが、彼のアカウントには『運営(ゴッドチューブ本部)』からの警告メッセージが点滅し始めていた。
一方、別のチャンネル――世界神ルチアナと魔王ラスティアの配信では。
「ギャハハハハハ!! 見た!? 今のワイズの所の勇者の顔!!」
「最高すぎるわキッド君!! 本物の力ってやつを分からせてやったわね!! うおおおスパチャが止まらないわぁぁ!!」
神々が腹を抱えて大爆笑し、キッドへの絶賛とスーパーチャットの嵐が吹き荒れていた。
――そして、地上。
西門の丘で、静かにため息をついたキッドの背後から、コツン、コツンとヒールの足音が近づいてきた。
「……まったく。夕飯の前に、こんな薄汚い真似をしてくれたのは、どこのどいつかしら」
夕闇の中、完璧な黒のパンツスーツに身を包み、金製の煙管を手にした桜田リベラが、三頭犬のアモンを連れて現れた。
「義母さん」
「怪我はないわね、キッド」
「うん。でも、村を襲わせたのはこの金髪の人みたいだ」
リベラは気絶しているゼロスを一瞥し、そして周囲に転がっている盗賊たちを見渡した。
彼女の瞳の奥で、修羅の炎が静かに、だが激しく燃え上がっている。
「……不法侵入、器物損壊未遂、威力業務妨害、そして強盗殺人未遂の教唆。さらに、悪質な『やらせ』による詐欺行為」
リベラはバッグから、分厚い『六法全書』と、請求書を挟んだバインダーを取り出した。
「さあて、薄っぺらい偽物の勇者さん。目を覚ましなさい。ウチの可愛い息子と、ポポロ村の平和を脅かした『代償』を……法廷と物理の両方で、骨の髄までたっぷり払わせちゃるけえな」
偽勇者ゼロスを待ち受けていたのは、神界での大炎上よりも恐ろしい、最恐のオカンによる『地獄の取り立て(コンサルティング)』だった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
イキり散らかしていた偽勇者ゼロスを、剣すら抜かずに圧倒的な実力差でボコボコにしたキッド!
「自動車学校に通わないでフェラーリを〜」のセリフがブッ刺さりましたね!
炎上神ワイズの卑劣なシナリオも完全に崩壊し、ざまぁ展開も最高潮です!
そして最後に到着したリベラ母さん。悪党にとって、キッドに殴られるよりも、リベラ母さんに「合法的に詰められる」方が絶対に恐ろしいはずです(笑)
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次回『オロチ会長の土下座』
お楽しみに!




